外面男子と擬態少女~適当なアドバイスをした地味少女が美少女になって迫ってきた⁉~
人間社会に必要なものは何か。
高いコミュニケーション能力? 高度な話術? 相手に合わせる協調性? 整った容姿?
いや違う。必要なものはただ一つ。
優れた擬態能力だ。
時には話上手に、時には聞き上手に、そしてまた時には相手を思いやる良き理解者に擬態するだけでスクールカースト程度、トップまで登れてしまう。
もちろんそのための勉強や努力は必要だけど、それらのスキルは社会人になってからも使えるから無駄ではないから良いだろう。
俺、真谷優はその常識に小学六年生に気がついた。いや、気がついてしまった。
最初のきっかけはそう、宿題をせずに遊びに行って帰ってきた真谷少年が母親にガチ説教を受けていた時のことだった。
「なんで何回言っても宿題をやっていかないの⁉」
「帰ってきてからやろうとーー」
「ーーって言っていつもやらずに次の日学校に行くじゃない! そのこと分かってる⁉」
「ごめんなさい……」
世界の真理に気がついていなかった俺は宿題をやらないなどという、今では考えられないほどの愚行を冒していた。
怒れる母はいつもよりワントーン低い声で俺の前に立ちはだかる。
しかし、弱冠十二歳だった俺は、ごめんなさいという言葉を盾に、母の落とす怒りの雷から懸命に身を守るのに精一杯だった。
しかしその時、この世界の真相を告げる鐘の音が鳴り響く。
怒れる母、鳴り止まぬ電話。そのまま正座して待っていなさいと低い声で言う母。
ため息を吐き、電話をとった母親は——。
「——はいもしもし真谷です」
——俺に雷を落としている最中だとは考えられもしないどころか、普段よりワントーン高い声で話しはじめた。
なんだそれは? 一体何が起こった? 怒れる鬼はどこに行った?
しかし、俺を襲った衝撃はそれだけでは済まなかった。
「え? あ、優がですか? まぁ! そうだったんですか! 今日は楽しそうに帰ってきて私に報告するものですからそうだと思いましたよ」
会話から察するに、電話の相手は俺の幼馴染の親だろう。
今日遊んだことを話しているようだけど、|俺は報告などしていない《・・・・・・・・・・・》!
意味不明な会話を続けた母は、そのまま会話を続ける。
やがて……。
「はい。本日はありがとうございました。いえいえ。また遊んでやってください」
そしてこちらを振り向く母。
「あんた次宿題やらずに遊びに行ったら何する?」
——声がツートーン下がった⁉
何が起きているというんだ? 意味が分からない。二重人格なのか?
本音と建前を使い分けるということを覚えた夏の日の夜だった。
その日から、俺は擬態能力を磨くことにし——中学生のカーストのトップを手に入れた。
だから、この目の前で行われているいじめというくだらないことを止めるのは造作もない。
それも、たった一言で済んでしまう。
「なぁ。これ、つまんなくない?」
「ん? そうか? じゃあ辞めるか。じゃあな」
俺がつまらないと言えばつまらない、面白いと言えば大抵のことは面白いとなる。
本音で言ってしまっても、ただ少し地味な女の子を寄って集っていじめるなんてつまらない。
トップカースト集団は一体いじめの何が楽しくてしているのか理解できないけれど、その集団の一人である俺は内申点のために止める。
結局、その日はそのまま解散となった。
教室に残ったのは、俺といじめられていた少女。
立ち去ろうとした俺に少女が立ちあがって言う。
「——あ、あのっ! 止めてくれて、ありがとうございます」
「……別に、つまらないと思ったから止めったってだけだよ。というか、俺も君をいじめてたグループの一人だと思うんだけど?」
「そ、それでも……同じグループでもいつも止めてくれるから……」
「そう。じゃあ俺は帰るから」
とても申し訳ない気持ちに襲われて、俺は早足で教室を出た。
後ろから声が聞こえた気がしたけれど、無視して外へと出ることにする。
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イライラする。
止めただけでお礼を言われる自分に、擬態をしないせいでいじめられているあの少女に。
無性にイライラして、俺は叫び散らすことができる丘の上までやってきた。
「くそがああああああっ!!!」
ストレスを発散するために叫ぶ。
「なんなんだよあいつらああああ! 俺の近くに集って調子乗りやがって何様のつもりなんだよ⁉ それにいじめとかくそつまんねえんだよおおおお! 一人で何もできないくせに集まると一気に調子に乗りやがって! バレてまずいことすんじゃねえよヴァアアアアカ!! 勉強もできない雑魚のくせにいつまでも調子乗ってんじゃねぇぞカス共が!!!!」
定期的に俺はここで叫び散らしている。
ここは人も来ず、ストレスを発散するのにもってこいの場所でついでに景色もきれいだ。
そう。人が来ない……はずのこの場所。
なのに、帰ろうと後ろを振り向いた俺の目に映っているのは何だ?
「ま、真谷……くん……?」
こいつは誰だ?
いつからいた?
あれだ。あいつだ。
さっきいじめられていた少女だ。
そう、名前は確か中村。
どうする? 見られた? いや、多分今来たところだろう。そうに違いない。
「やあ、さっきぶりだね。中村さん」
「こ、こんにちは……。山本ですけど……」
良かった。見られたわけではなかったようだ。
中村改め中山さんに見られていたら大変なことになるところだった。
「……あの、さっき叫んでたことが本音……なんですか?」
訂正。
聞かれていた。
いや、ここはしらばっくれる一択だろう。
ただ鎌をかけているだけかもしれない。
「……叫んでいたことって何のこと?」
「その……。調子に乗りやがってとか、カス共とか、いじめがクソつまらないとか……」
全部聞かれてるじゃん。
「はぁ……。そうだよ。ここは誰も来ないと思ってたんだけどな……」
「え、え?」
俺の態度の変化に戸惑っているようだ。
「あ。言っとくけど、言いふらそうとしたって中山さんに影響力なんて無いから意味無いからな? 逆に嘘を広めたって言われて終わる落ちだから」
「そ、そんなこと考えていません! それと山本です!」
「そうか? まぁ、それもそれでいいけど」
「ほ、本当に真谷くんなんですか? なんかいつもと違うというか……」
戸惑うようにそういう中本さんに俺は言う。
「いつもの俺ってどんな感じだ?」
「え、えっと、品行方正で成績優秀な優等生……? それに、言葉遣いも丁寧だったはずです……」
「それも俺、これも俺。あっちはトップカーストモードってとこか?」
「え……どういうことですか……?」
理解が追いつかないらしい。
「だから! あっちは擬態してるの! あんなクソ共がトップカーストなんだからしょうがないだろ⁉ 中本さんが今見てる俺が本当の俺なんだよ! 分かる⁉」
「い、意味が分かりません! 私は中本じゃありません! 山本です! あと、クソ共とか言っちゃだめだと思います!」
「いじめとかするクソ共をクソ共って言って何が悪いんだよ! ってかいじめられてるのお前だろうが!」
「と、友達のことを悪く言うのはよくないと思います!」
俺と本田さんは言い争う。
話の流れはどんどん変わって行き……。
「というかお前がいじめられるのが悪いんだろうが!」
「わ、私だって好きでいじめられてるわけじゃないんですよ⁉」
やがて……。
「ぐすっ……。私だって……。どうすればいいか分からないんですよ……。それに真谷くんは私の名前を覚えないし……」
「えー、あー、その……髪を切ったり、その眼鏡をコンタクトに変えたりするだけで変わるから……な? 泣くなって!」
俺はひたすら彼女を慰め続けた。
結局、擬態のコツとかを説明し続けるという行動を俺は取るというかなりの焦りようだった。
卒業まで村田さんの姿は変わらなかったけれど、いじめはなくなった。
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そんな思い出に浸る高校一年生の俺の前にとんでもない美少女が立ちはだかる。
どうして今こんな謎の思い出がよみがえったのは分からない。
彼女は俗に言う、真面目な少女だと思っていたんだけど……。
「ねぇ真谷くん。私と付き合ってくれない? 付き合ってくれないと……襲われたって学校中に言いふらすわよ?」
「それってどう聞いても脅しだよな⁉」
「あら? 擬態が溶けてるけどいいのかしら?」
「な、なんでそれを!?」
衝撃で俺は一歩後ろに下がる。
誰だ、何故俺の秘密を知っている?
「ふふっ。誰か分からないって顔してるわね。じゃあ、これでわかるかしら? と、友達のことを悪く言うのはよくないと思います! わ、私の名前は山本です!」
二度目の衝撃。
口がパクパクとなった。
「お、お前は……」
「ふふっ。真谷くんに擬態を教わって私は変わることができたの。今の姿も生活も、全部君のおかげ。いつの間にか真谷くんが好きになっていたわ。やっと思い出したようね」
「お前は橋本!!」
「山本だよ! なんで名前を憶えてくれないのかな!? はっ! 擬態が!」
そっちが本物なのか。
それにしても、これがあの山西だなんて……。
しかし……。
「お前のような擬態した女と付き合えるか!」
「はあああああ⁉ それを真谷くんが言う⁉ はっ!」
擬態にはまだ不慣れのようだ。
「ふっ! 言いふらしても無駄だ! 俺はお前に呼び出されるところを多人数に見られている! つまり襲われたというのはつじつまが合わない!」
「くっ! 良いわ。いつか付き合ってもらうんだから!」
これは、俺が教えた擬態を身に付けた彼女が俺に迫ってくる物語。
どんな甘言を吐かれようとも、俺は落ちたりしない!
一時間と少しで適当に書きました。
人気があったら連載にします。