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保育士おへそのごま の保育エッセイ  作者: おへそのごま
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暴力

ツイッターへの投稿に加筆しました。


 ツイッター上で『アンパンマン』が暴力的か否かという趣旨の話題が広がっています。

 僕自身は、「アンパンチ」は暴力以外の何物でもないと考えています。その上で、世の中にあふれる「表現された暴力」をどう捉えてどう子ども達に伝えるか、という話じゃないかと思っています。


 『アンパンマン』に限らず、子ども達の周りには戦うヒーローがたくさん存在しています。それらを「暴力」だからと丸ごと否定することは無意味だし、やるべきではないと思います。子ども達がそれらのヒーローに憧れる気持ちも十分にわかります。そんな憧れの気持ちから多くのものが育つことだって、たくさん見てきました。だから、そういう現状を認めた上で、大人として子ども達に何を伝えたいのか、を考えたいのです。


 ヒーローや戦いごっこについて考えるとき、必ず思い出される顔があります。


 以前、2歳児のときから年長まで持ち上がった子達に、年長の夏、今年と同じように戦争について話をしました。

 戦争の悲惨さ怖さなどについて話した最後に「きみ達に、死んでほしくない。誰も殺してほしくない。」と伝えました。


 ヒーロー好きなRくんが、ハタと気がついたような顔で僕の顔を見て言いました。「そっか。だからごませんせーは、戦いごっこ好きじゃないっていつも言うのか」


 2歳児からの4年間。ヒーローごっこ戦いごっこが大好きで、しょっちゅう何かに変身していたRくん。彼は4年間ずっと、憧れのヒーロー、強くてカッコいいヒーロー、ワルモノをやっつけるヒーローになりきって遊ぶことを、なぜ担任が「好きじゃない」と言い続けてきたか、そこで腑に落ちたという表情でした。


 もちろん、子ども達の発達において「なりきり遊び」、イメージの世界を誰かと共有して楽しむ「ごっこ」の世界の大切さは承知しています。絵本や物語などの世界からイメージを広げて遊ぶこともたくさんしてきました。

 もちろん「遊びだろうとごっこだろうと、ケガをするかもしれないから」「やられる方は嫌な気持ちになるから」理由をそえて伝え続けてきましたし、Rくんもその都度理解し、理屈ではわかっていました。


 それでも、カッコいいヒーローへの憧れの気持ちと、僕が戦いごっこを「好きじゃない」と言うことへの、理屈ではない「納得できなさ」「腑に落ちなさ」はずっと彼の中にあったのでしょう。それは僕もずっと感じていました。


 「だってカッコいいのに……」というのは紛れもなく彼の中にあった気持ち。その気持ち自体やそんな風に思うこと自体は僕も否定しなかったはず。

 だけど。自分の好きなものを、自分の身近な大人が「好きじゃない」ということに彼はモヤモヤを感じてきたのですね。


 それが、戦争という途方もない最大の「暴力」について語られるのを聞き、その上で「きみ達に死んでほしくない。殺してほしくない」という僕のメッセージで、自分達の問題へと引き寄せられて考えたときに、戦いというものがカッコいいだけではない暴力性を持つものだということに、気がついたのかもしれません。


 「そっか…」と言ったときのRくんの表情は忘れられません。


 子ども達に、「アンパンチ」が象徴する「暴力」をどう伝えるか。僕と彼との間では4年かかったよ、というお話です。

子どもの心の中で、何かが「つながった!」という瞬間に立ち会うたびに心が震えます。そこに自分の思いや願いが加わっていたとしたら、こんなに嬉しいことはありません。


今回もお読みいただきありがとうございます。

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