第5話 護衛依頼と完成
これから一年使う資料に早くもコーヒーこぼしました。
「じゃあなルーキー。頑張れよ!」
「ああ、あんたらもな」
門の前でリタがエリカに別れを告げている横で俺はといえば名前も知らない冒険者たちに声を掛けられては曖昧な返事を返していた。いや、リタのことしか興味なかったからな。顔は見たことあるしパーティーに誘われたりもしたけど名前は覚えていない。覚える気がないとも言う。
「よしそれじゃあ出発しようじゃないか。エリカ、お母さんを怒らせるなよ」
「分かってるよ! だから早く無事に連れてきてね」
「ソータくんにリタちゃん、早く行こう」と催促されてリタも少し寂しそうにしながらついていく。
リタも泣いたりしないみたいでよかった。
魔物も盗賊も襲ってきたりしないのでとても暇だ。まあ俺が魔物を感知しては遠くへ転移させてるからなんだけど。
理由は簡単。リタが夜に俺以外の男の近くにいるだなんて到底許容できないからだ。リタの貞操だけじゃない、リタの寝顔や安眠など守らなくてはならないものがたくさんある。いくらエリカの父だと言っても男には変わりない。リタの可愛さの前には野獣になってしまうことだろう(錯乱)
そんな危険にダラダラと晒しておく俺ではない。魔物や盗賊の被害など気にせずすいすい進めるのだ。野営は少なくて1回、多くても2回までに収まるだろう。どうだ、手出しなんてできないだろう?
ガルルルル
とりあえずジルに心の中で威嚇しておいた。
「エリカから聞いたけど二人は付き合っているらしいね」
襲われる気配が微塵もなくて退屈だったのかジルが話しかけてきた。
「まあそんなとこだな」
真剣にあたりを警戒していたリタが顔を赤くしながら狼狽えている。
「え! そっ、そんなんじゃないですから!」
否定されてしまった。ショック!
「ははは。よく分からないがお似合いだと思うよ」
おお。よく分かってるじゃないか!そうなんだよ!お似合いなんだよな!
「そんなことより! ガイオンに何しに行くのか聞いてもいいですか!」
そんなことって…。まあ俺も気になってた。
「ああ、実は私の古い友人が息子を残して亡くなってしまったんだ。前にお見舞いにいったんだがその時に俺が死んだら息子の面倒を見てくれって頼まれてたんだ。ほら、リタちゃんに以前助けて貰ったことがあったろ?あの時はお見舞いの帰りだったんだ。だから今回はその子、レオンって言うんだが、そのレオンを迎えにいくんだ」
おお、息子を頼むはこっちだったか。
「そのレオンさんってもしかしてエリカと恋仲だったりしますか?」
リタがそういうとジルの顔がはっきりと曇った。 なに? リタエスパーなの?
「まあ確かに仲はいいが恋仲かどうかはわからないな! あれでうちのはなかなかモテるからな! ははは!」
わかりやすく父親してるな。
エリカがモテるのに特定の相手を作らなかったのはもうレオンってやつがいたからってことなんだな。罪な男だ、レオンとやら。
歩き始めて結構進み、もう日も暮れかかっているので野営することになった。ジルは野ざらしのまま寝るつもりだったらしく、テントは持ってきていなかった。それじゃああまりにも可哀想ということでジル用に小さめのテントを貸してあげた。
「おお、ありがとう。助かるよ! 食事は任せてくれ。料理は得意なんだ」
ジルはそのまま火を起こして料理を始めた。リタはどうするのだろうと聞いてみるとリタもそのまま地べたに寝ようとしていたようだ。それが普通なのだろうか?
「リタはこれ使って。あとこれも」
先ほどよりも大きめのテントを建てる。そしてテントの中にウォーターマットレスを敷いてあげる。
「わあ!いいの? でもソータくんは? それに見張りもしないといけないしやっぱりいいよ…」
「じゃあ見張りは二人で交代でやって休む方がテントを使おう。先俺見張りやっていい?」
「うーん、分かった。それならいいよ」
ジルの作った料理はおいしかった。というか宿で食べた味だった。
ジルが言うにはこのままの速度で進んでいければ明日には着けるかもしれないとのことだった。
魔物や盗賊については任せておけ。半径五キロ以内にすら近づかせない。
夕食を食べた後、少し話して明日に備えて睡眠をとることになった。火の番と見張りはリタと俺が交代でやるのでと言うと早々にジルは貸してあげたテントの中に入っていった。リタも「夜中頃になったら交代しましょう」といって大きめのテントに入る。ウォーターマットの寝心地が良かったのかすぐに寝息が聞こえてきた。安眠が邪魔されてはいけない。防音の結界をはっておこう。
夜はもちろん起こさなかった。
朝の日が昇ってきて明るくなってきたのでジルを起こす。ジルはすぐに朝食を準備しようと言って料理をするみたいだ。
リタが寝ているテントに入る。すやすやと気持ちがよさそうに眠っている。リタの寝顔を眺める。眺める。眺める。
「朝食できたよー」
はっ! ジルが朝食を作り終えるまでずっとリタを見ていたようだ。もっと見ていたい衝動に駆られるが我慢して眠り姫を起こして焚き火の方まで連れていく。やっぱりまだ寝ぼけ目をこすっている。
「ソータくん! なんで起こさなかったの!?」
朝食中に覚醒したリタがそう言った。
「リタの寝顔があんまりにも可愛すぎて見惚れてたら夜が明けてたんだよ」
実際には暗くてよくわからなかったけどさっき見惚れちゃったから全部嘘というわけではない。
リタは赤面して言葉に詰まっている。なんだかもっといじめたくなるな。
「そういえばリタは野営でも朝は弱いんだね!」
「っ! それはソータくんが貸してくれたマットが快適すぎたせいだよ! いつもならなにか音がしたらすぐにでも起きれてたんだから! もういい! 次からは地面で寝るから!」
「冗談だって。何も起きなかったんだから問題ないでしょ?」
「やっぱり二人は仲がいいね、もう夫婦みたいだ」
そんなじゃれ合いをしつつ、ガイオンへ向かって歩き続けた。
日が沈みそうな頃、ガイオンについた。マリオンと同じくらいの大きさだろう。時計塔のようなものはなかったがなかなか人が多くて繫華街も賑わいを見せている。
俺たちはとりあえずジルの案内でレオンの家へと向かっていた。繫華街から進んでいくと次第に店が少なくなっていき、住宅が増えていく。マリオンでもみられるような普通の住宅街だ。そこにある二階建ての一軒家がレオンの家のようだ。呼び鈴のようなものを鳴らすとすぐに物静かな落ち着いた雰囲気の青年が出てきた。青年は俺たちの姿を確認して家の中へと招き入れてくれる。広くはないがリビングのような場所に案内されて俺たちは話し始めた。
「それではソータさんたちは今泊るところがないのでは? 部屋は余っていますしここに泊まられてはいかがでしょう? あ、そうだ。僕ももう明日にもマリオンへ行きますし、よかったらガイオンにいる間はこの家を使ってください。今月までは借りていますので」
色々話しているとそんなことを提案してくれた。今は二の月の中頃だ。そうするとあと二週間ほどは借りているのだろう。使うかはわからないが一応頷いておいた。
レオンは誰に対しても敬語を使っていてかっこいい大人なイメージだ。こういう気遣いもできるからエリカのハートを射止めたのだろうと思う。
レオンはすでに帰りの護衛の依頼を出していてジルが来るのを待っていた状態だった。迎えなんていらないんじゃないかと思ったがレオンの父、旧友の墓を訪れたかったからついでに迎えに来たのだとジルは言っていた。明日は朝から墓を参ってすぐにガイオンを発つらしい。宿は近くの人たちが手伝いに来てくれて大丈夫だとは言っても何が起こるかはわからない。だからできるだけはやく帰りたいんだろう。
「朝食を作っておこうかい?」
俺が宿の料理を気に入っていると知っているジルがそう言ってくれたのでありがたく提案を受け入れた。
「マリオンへ行くことがあったらまた料理食べに行くよ」
「ああ、その時までにもっとうまい料理作れるようにしておくからな!」
ジルの料理はどれも凝っていてなかなかうまかった。エリカのこともあるしこれから長い付き合いになりそうだ。
翌日、リビングへ行くとサンドイッチが置いてあった。二人がもう出発したことは知っている。まだ頭の中が寝ているリタと一緒にサンドイッチを口に運ぶ。
これでリタと二人きりだ。
リタが頼れるものはなくなった。
リタが逃げることももうないだろう。
これからリタに少しずつ俺の力と本性を教えていこう。
大丈夫だよ、リタ。
リタは受け入れるしかない。
俺に頼るしかないんだ。
あの時、俺の気持ちを受け止めてくれた時から。
リタが逃げない環境ができるのをずっと待ってたんだ。
そう、あの時からリタの未来は決まっていた。
リタは俺を好きになるしかないんだよ。
言質は取ってある?




