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第6話 一週間と

リタの地に足がつかない日々と

ソータくんはその次の日から依頼を受け始めた。

数種類の依頼を受けてそれをすべてこなして帰ってくる。

最初は心配で一つずつという制限をつけたけど受けて2時間程で達成して帰ってきた。

そしてもっと受けたいという。大丈夫そうだったので制限を取っ払って、複数の依頼を受けられるようにした。 彼はまだFランクの依頼しか受けられない。だから失敗することもないだろうと思ったからだ。


彼は三日ほどでEランクになった。

序盤のランクは上がりやすいとはいえ、異例の早さだった。

Eランクからは魔物討伐の依頼を受けられるようになる。

雑用や採取依頼が得意そうな彼でもそっちは苦手だろうと、みんなが思っていた。

それでも彼は変わらずにどんどん依頼をこなしていった。

一週間たった今では後二、三日でDランクに上がるだろうと目されているほどだ。

そんな彼を見てずるをしているのだといった人もいた。

でも依頼人はよく働いてくれたと証言するし、討伐を見に行った人も確かな腕があったという。

だからそんな噂もすぐに消えて、彼の実力はいろんな人から認められるようになった。


そんなソータくんは今日も気付いたら私の対面に座って朝食をとっている。

この一週間はずっとそうだった。 もう恥ずかしさなど消え失せて、なんだか心地よくさえ思えてしまっている。 彼はいろいろと案内をした私に恩を感じてくれているのかとてもよくしてくれる。

朝食は一緒に食べて、一緒にギルドに向かい、それぞれの仕事をして、いつも待っていてくれるソータくんと一緒に宿へ帰り、夕食を共にする。


そんな生活を送っていた。


あの日、ソータくんから感じた違和感の正体、私の中に生まれてしまったなにか。

その二つの答えはいまだ見つけられず、また新しい感情が生まれてしまった。

それが何かはすぐに分かった。


優越感だ。

いまやギルドの注目株のソータくんは私の受付にしか並ばない。

他が空いていても並んでまで私のところに来てくれる。

いつも男を手玉にとっている美人の受付嬢たちが彼を狙っても、彼がおちることはなく、私を忠犬のように待っていてくれる。

みんなが欲しがる彼を、朝から夕方まで独占している。


そんな事実が私を優越感に浸らせる。


同僚から彼との関係を聞かれてもただ宿が同じなだけだとしか答えられない。

私にだってわからないのだ。


彼は私のことをどう思っているのだろう。

噂を聞いて私のすごさに気付いたのかもしれない。


好きな人とは一緒にいたくなるものだとエリカが言っていた。

それなら彼の行動とは一致する部分もある。 それでもなにか違うものがあるような気がしてならない。

彼は私の生活の一番近くにいるはずなのに、必ず一定以上の距離からは近づいてこないような、そんなかんじがする。


最近彼の考えていることが全く分からなくなってしまった。

彼のことを考えていると頭がいっぱいになってしまう。



だからだろうか? サブマスターに呼び出しを受けてしまった。

あの人は本当に色んなことに気付いてしまう。

いっそのこと相談してみようかな? 大人っぽい人だし色々経験談とかありそうだ。

結構すんなり答えてくれたりしそうだ。


奥にある面談室のほうへ行くとサブマスターがいつもの睨んでいるかのような顔で待っていた。

緊張しつつも対面に座るとお茶を入れてくれた。


「なにか悩んでることがあるんでしょ? 言ってみなさい」


やっぱり分かってしまうようだ。 お茶を口に含み、考えを整理しながら話し出す。


「実はソータくんとの関係についてなんですが…「ソータくんって誰よ?」え…?」


結構有名だと思ってたのに知らなかったのかな? でもソータくんが登録した日にも会ってるのに…?


「えっと、一週間でDランク間近になった新人冒険者のことなんですが…」


「だから誰よ? そんな子がいるの? ていうかそろそr……


私の意識はそこで途絶えた。



―――――――――――――――――




「――っ!」


目が覚めるとそこはところどころボロが来ている家のような場所だった。

ここがマリオンだとしたら貧民街なのだろう。


さっきから体の自由が利かない。 口も体も縄のようなもので縛られてベッドに転がされていた。

でもそれだけじゃない。 指先すらまともに動かない。

自分の身体じゃないみたい。


身体強化も気配を感じることもできない。

魔力が使えなくなっているんだ。


どうしよう、何もできない…。



考えていると複数人の足音が近づいてきた。 

じきに五人の人間の姿がみえる。


「起きたようね。抵抗は無駄よ。分かっているでしょうけどね」


この声の持ち主は知ってる。 私が尊敬していた人、かっこいいと思った人。

実は助けに来てくれたんじゃ、なんてバカなことを思った。

でもそんなのは幻想だったと冷たい声を聞いて気がつく。


「ハハハ! いい気味だ! 私の邪魔をするからそんなことになったんだ! おい! 早く奴隷にしてしまえ!」


この声も知ってる。私に報奨金を渡してくれた人。

仕事をしないからいつもサブマスターと喧嘩していた人のはずなのに…


今では二人は隣に並び立って私に蔑んだ目を向けている。

手下であろう二人は下卑た顔をこちらに向けてきている。


奴隷商が私に近づいてくる。


もうダメだ。 そう思ってしまった。


魔力が使えれば、身体が少しでも動けばこんなやつら、すぐにボコボコにできるのに、何もできない自分が情けない。 魔力が使えず、体も動かない程度のことで抗うことを諦めてしまっている自分が情けない。



ごめんなさい、お父さん、お母さん。 二人の思い出の地に行けばなにかおこってくれそうな気がしたんだ。 エリカも、私なんかの友達になってくれてありがとう。



奴隷紋が身体に刻まれる。 契約が始まるみたいだ。



「奴隷になんかなりたくない」 そう泣き叫べたらどんなに楽になるだろう。

でも絶対にそんなことはしない。 そんなことをしてしまえばこいつらは愉悦に表情をゆがませることだろう。

せめてもの抵抗だ。


麻痺しているのに身体中がズキズキ痛む。



ソータくんは今何しているだろうか

ソータくんは巻き込まれないでいられるだろうか

ソータくんは何を目指しているのだろうか

ソータくんはいつかこの街からいなくなってしまうだろうか

ソータくんは……


こんな時でも、ソータくんのことを考えだすと止まらない。


ソータくんはデートについてきてくれていただろうか

ソータくんはいつまで私を覚えていてくれるだろうか








ソータくんは私を好きなままでいてくれるだろうか……?




ああ、なんだ。

気付いていたんじゃないか。


ソータくんの気持ちに向き合うのが怖くて。逃げるために理由を探していたんだ。


ソータくんが、気付かないふりをしていても私を見ていてくれて、居心地の良さを感じてしまって、結局は彼のやさしさに甘えてしまっていたんだ。



そんなことを今になってやっと理解するなんて本当に私は弱い人間だ。

弱い自分に向き合えないバカな人間だ。



彼を思うだけで抑え込んでいたはずの感情が溢れ出して止まない。

小さな涙が頬を伝う。






もっとはやく向き合えていたら、きっともう一つの答えも……



「そこまでにしといてもらおうか」

女性の涙ほどずるいものはない

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