第2話 ソータくん
ソータとリタって手書きのメモだと一目で見分けがつかないことがわかりました。
「登録でお願いします」
落ち着いた声だった。
「登録には手数料として銀貨一枚必要となりますが問題ありませんか?」
たまに冒険者登録が無料だと思っている人がいる。
冒険者カードは等級は低いがこれでも魔道具の一種なのだ。 無料配布しているわけがない。
「大丈夫です」
その言葉を聞いて用意していた登録用紙とペンを渡す。
「この紙に必要事項の記入をお願いします。 文字が書けなければ代筆しますので言ってくださいね」
冒険者は職業柄、文字が書けないという人が多い。
文字が書けるなら商人や役人などもっと安全な道があるからだ。
それでも冒険者になるという人もいるからやっぱり冒険者という職業は人気なのだ。
登録の案内をしていると唐突に声とともに男が割り込んできた。
「おいおい、ギルドはこんな弱そうなガキの登録まで認めてんのかよ! ガキの遊び場じゃねーんだぞ?」
この声はよく知っている。最近この街のうわさを聞きつけてやってきた冒険者の一人だ。
名前は……ゴーグだったっけ。
あんまりいい噂は聞かない、素行に難ありだから気を付けてとみんな言っていた。
登録をしようとしていた男の子はなにも言えずに目をキョロキョロさせている。
怖いんだね。分かるよ。大丈夫!今助けてあげるから!
「登録するしないはギルドと当人の意思次第です! あなたには関係ないはずですよ、ゴーグさん!」
そんな私の言葉に面倒そうにこちらをみるゴーグとすこし驚いている様子の男の子。
素行の悪い冒険者から新人冒険者を守る。今の私って結構かっこいい?
「俺はギルドのことを思って言ってるんだぜ? 褐色娘」
その言葉を聞いて頭に血がのぼってしまった。
「いい加減にしてください! それ以上騒ぐならそれなりの措置を取らせてもらいますよ!」
冒険者ならいざ知らず今この男の子はまだ一般人だ。そんな人に絡むなんて非常識というものだ。
ゴーグは舌打ちしてからイライラした様子で去っていく。
ふん、いい気味です。いっそのこと私に絡んできたらボコボコにして衛兵に突き出してやるのに!
ゴーグと入れ替わるように男の子が前に来る。
すれ違ってからゴーグがものすごい顔で睨んできてるのに気づいていないみたいだ。
「あの、大丈夫でしたか? 気にしないでくださいね」
「はい、大丈夫ですよ! 助けてくれてありがとうございます」
明るい声で感謝を伝えてくる男の子。 文字は書けるようですらすら書き始めた。
「いえいえ、これくらい当然のことですから」
冒険者は素直にお礼を言える人が少ない。みんな変なプライドでもあるのか「ああ」とか無視とかそんなのばっかりだ。
ますます冒険者っぽくないな、この子。 大丈夫だろうか?
用紙はすぐに書き終わったようでその後の手続きを進める。
犯罪歴を確認して用紙に書いたことに嘘がないかどうかを調べる。
どちらもクリアだ。 ここで引っかかる人も結構多い。
犯罪歴で引っかかることはほとんどないけど、登録用紙に見栄を張って出来もしないことを書いたりするんだ。本当にバカな人が多い。
「こちらがギルドカードとなります。 あとはギルドカードに血を垂らして頂ければ登録完了となります。 登録手数料の銀貨一枚ですが、現金と依頼報酬からの天引き、どちらになされますか?」
Fランクと書かれたギルドカードを男の子、ソータくんに渡す。
「現金で」
握りしめてでもいたのかすぐに銀貨を手渡してくれたので受け取る。
冒険者カードの方を見るともう血は垂らしたようでちゃんと登録できていた。
どこからも血が出ていないところを見ると容器にでも入れてきたんだろう。
登録で血を垂らしたときに少しでも痛がったりするとまわりの冒険者からそんなんじゃ冒険者やっていけないぞとなめられる、という話が冒険者志望の子どもたちには広まっていて自信がないなら持っていけばいいということでそれ用に容器が開発されたりしている。見つかってしまえば臆病者だと言われてしまうからいかにばれないようにするかがポイントだ。
でも実は血が出てないことから受付嬢にはすぐばれてしまうのだ。
ソータくんも一応外聞を気にしているのだろう。
少し微笑ましい。
冒険者カードを少しうれしそうに見つめるソータくんに私もかつて言われて嬉しかった言葉を告げる。
「登録手続きは完了しました! これであなたも冒険者の仲間入りです! おめでとうございます!」
ソータくんは感動しているようだ。
うん、私もすぐにでも冒険に出たくなって説明も聞かずに飛び出しそうなところをお父さんに止められたんだ。なんていうか、感動するよね!
流れるように冒険者について説明する。
Bランク冒険者からは指名依頼というものがある。
名指しで依頼をする分報酬は高くなるけどなにか特別な事情があるとき以外は受けなければならないとされている。
それを嫌ってCランクまでいってBランクの昇格試験を受けないという人もいるのだが、ソータくんは大丈夫そうだしそんな裏事情など聞きたくもないだろう。
説明はしてないが実はCランク以下も指名依頼を受けることができる。でもそんな案件は冒険者を害そうとする欲望が丸見えで受ける人はほとんどいない。 Bランクから発生するのは正確には指名依頼を受ける義務ということだ。高ランク冒険者になればなるほど責任が付きまとってくる。
冒険者に憧れて登録を済ませたであろうソータくんには聞かせたくない話だ。
「まだ宿をとっていないんですけど、どこかおすすめの宿ってありますか?」
この時間だと空いているところも少ないんじゃないかな。そうだ!
「宿でしたら私が使っている店があるのでそちらがおすすめです! 実は私の知り合いの宿でして、安くしてもらっているんですよ。 私の紹介なら安くしてもらえると思います。 あ、もう少しで仕事も終わるので案内しましょうか? 少しだけ待っていてもらうことになりますが…」
そういうとサブマスターが聞いていたようでもうあがっていいと言われた。
本当に気配りができて優しい人だ。
ソータくんを連れてギルドを出る。
残念ながらゴーグたちが待ち伏せていたということもないみたいだ。
かっこいいとこ見せたかったのに……。
ソータくんがゴーグたちのことをきいてきた。
怖いのだろうか、ちょっとかわいい。
ゴーグたちといえば悪い噂はたくさんあるのに被害者はほとんどいないし、犯罪歴も真っ白らしいということを聞いた。 ほんとにどういうことだろう。
歩いていると鐘がなっているのが聞こえてきた。
ソータくんは珍しいものを見たというような顔をしている。
街に入ってすぐ見えるのにギルドばっかりに気を取られていたのだろう。
話しているとすぐに宿につく。
「いらっしゃいませー! あ! リタ。おかえりー!」
中に入るとエリカが出迎えてくれた。
「うん、ただいま。エリカ。えっと! こっちにいるのがソータくん。さっきギルドで冒険者登録してきた新人くんでまだ宿決まってないっていうから連れてきたんだけど…?」
「なんだ、お客さんかー。彼氏連れてきたのかと思ったー!」
えっ、何を言い出すんだ。そんなことあるわけ……ないとは言い切れないけど!
確かに今はあんまりモテないけどすぐにモテるようになる! そうだ、きっとそうなんだ!
本気を出してモテまくってしまったら他の人に恨まれちゃうから! だからわざともてないようにしてるだけなんだ!
はっ!
「早く食堂へ行きましょう! 特別料金が終わっちゃいます!」
食堂から美味しそうな匂いが漂ってきて我に返る。 エリカのお父さんから「鐘が鳴ってすぐはお客さんも少ないから安くしている」と聞いて以来、ずっとそれで食べてきたのだ。
食堂に入るとやはり人はまだ少ないようで席に座ってソータくんを待つ。
彼も私と同じものを注文するようだ。 おいしそうに食べている。
ふふふ、おいしいだろう? 実はこれは裏メニューなのだ! 頼むのは常連くらいのものだ。
食べながら話す。 しかしさっきのことが頭の中でぐるぐるしている。
エリカは誰にでも気軽に話しかけているし顔もかわいい。
背が小さいから子どもに見えるけどしっかりしているし距離感を間違えたりもしない。
だから彼女の隠れファンだという人も多い。選ぼうと思えばいくらでも選べるのだろう。
比べて私はどうか……。
目の前の男の子を見つめる。 食べ方がとても綺麗だ。 字も書けるようだしなにより反応がかわいい。
彼は私のことをどう思っているのだろう。 色々助けたし悪い感情は持っていないと思う。
彼はこの街に来たばかりのようだし、こうすればお互いいいだろうか。
「私明日お休みで1日中空いてるんですよ。 よかったら街を案内しましょうか?」
実は先に動いたのはリタだったという話。




