風は見えない
耳の皿に触れる
微かにゴォゴォと
鼓膜が感じている
取りこぼした空気は
皿の裏側
ほんの隅に口づけして
大きな世界へ去って行く
姿は見えない
振り返っても分からない
柔らかさを温度差にして
目を瞑れば
吐息を残した感触
確かに触れていながら
忘れてしまう一瞬
夢心地は記憶に残らない
残せる人が居るなら
よほど、好きなのかもな
必要最低限の物しか
僕等は持てないから
全ての草木が
僅かにサラサラと
音を立てている
何かを喋れているような
その音は
少しだけ嫉妬させて
大きな世界へ去って行く
姿は見えない
目を凝らしても分からない
世界は区切られている
捨てることが出来ない物を
僕等は持たされているから
限りある時間は服装で
向こう側とは
たまにしか話せない
目が離せない一瞬は
見た者だけの物
まだ切り取れないし
切り取れたとしても
僕等は納得しない
物が揺れて
強くノックする音
部屋の中を響かせている
無言で何かを訴えるような
その行動は
畏怖の念を持って
大きな世界へ去って行く
姿は見えない
足跡だけが
街の中に残っている