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高浪君に恋は重い  作者: エクレア食べたい
1/1

高浪君の回顧録

 「恋愛」


 それは我々人類にとって生物学上必要不可欠であり喜劇的であり悲劇的な代物。


 一人称が安定しない高浪和葉(たかなみ かずは)22歳会社員は、今とてつもなく頭の沸騰しそうな問題に直面している。


 そう、「恋愛」だ。小中高と程々に恋愛のようなものを経験し、人間不信を拗らせ独身会社員をかれこれ4年もやっている俺に何故か変なフラグが立ったようなのだ。


 いや待ってくれ。何かの悪い冗談でしょう。よりによってこの俺に、よりによってストレスMaxのこの時期に、そんなフラグを回収するなんて神が逆立ちしたって無理だ。


 事の始まりは一か月前に遡る。どう考えてもキャパオーバーな業務に気絶しそうになりながら迎えた新年度の夜。久しぶりに某SNSの通知がポコポコと賑やかになっていた。


 「うっさ・・・。」


 また空気の読まない奴がグルチャで吠え始めたかと思い、通知OFF設定に指を伸ばそうとスマホを手に取る。全部OFFにしたらしたで何の話も通らなくなるので、ON・OFFを律儀にやるわけだが正直メンドクサイことこの上ない。空気を読まない吠える奴にはその分の消費エネルギーを請求してやりたくなる。


 「また内輪ネタ?」


 とりあえず何が楽しいのか一切不明なネタを公共の場で垂れ流さないでほしいものだな。


 うんざり全開でスマホの上に指を躍らせる。ロックを解除した先に現れた文字の羅列は俺の予想とは違った。


 ”今度集まりませんか!!”


 あらまぁ普通の内容。しかも中学時代のグルチャとはこれまたびっくり。しかもよくみてみたら可愛いスタンプまで付いてた。それだけで既にイレギュラー。野郎のチャットとはわけが違うのだ。文明国に突然投げ込まれた未開人の気分になる。はて、メッセージの主は・・・白風茉由(しらかぜ まゆ)??聞き覚えがあるけど・・・。


 ”いいじゃん!”

 ”茉由じゃん久しぶり~!”

 ”白風かー、懐い懐い!”


 既読がどんどん付いていって返信も飛び交う。

 やはりみんなアクションが早いなぁと思いつつ俺も返信する。


 ”久しぶりじゃん!”


 途端に返信が止んで既読が付いていく・・・あれ・・・?あー・・・。知ってる。この切れ目ね。

 知ってる知ってる。放っておけば誰かしら再開するでしょ。


 とりあえず返信合戦が再開した後は俺はROMることにした。


 こういう集まり事は勝手に中心人物がやってくれる。うむ、素晴らしき適材適所。

 あっという間に日程も決まり会場へ向かった。


 小さいレストランを貸し切りか。白壁とイタリアレンガを基調にした内装もセンスがいいな。もともと多趣味ではある。こういう内装関係の仕事に就いても良かったかなと思う。


 「よう、高波じゃん!」


 会場に入るなり声を掛けられる。えーっと名前が思い出せない・・・柏木だか樺澤だったか・・・。


 「佐伯順(さえき じゅん)だよ!相変わらずだね高波は!」


 おっと全然違った。そうそう佐伯だ。幼馴染で元カノ的な何かだったボーイッシュ系女子だ。元カノと言ってもなんかお互い好きかもねみたいな感じだったので、経験豊富な方々から言わせればノーカンにされそう。


 「お、おう。覚えてるさ、当たり前だろ・・・。」


 「語尾に(震え声)、ついてるよっ。」


 二カッと笑いながら近寄ってくる。なんだと思ったら人差し指で肩をなぞってきた。


 「相変わらず黙ってればカッコよくてなによりだよっ。」


 「やかましい。」


 本当に昔から距離感の近い奴だ。


 「とりあえず何か飲もう。佐伯は?何飲む。」


 「んー、あたしはカシオレで。」


 「ほう、てっきりウォッカでもいくかと思ったわ。」


 「あのね和葉・・・。」


 呆れる佐伯を尻目にさっさとカシオレを2つ持ってくる。


 「ほれ。」


 「ん。」


 「和葉もカシオレ?」


 「あぁ、あんまりビールとかワインとか好きじゃなくてな。」


 「ふーん。」


 「柏木は他の奴のところいかなくていいのか?」


 「へ?あぁ・・・行くよ?ついつい懐かしいオモチャを見たらいじり倒したくなっちゃって!」


 「だーれが知育玩具だ。」


 「知育玩具レベルだって自覚してるってこと?それはそれは残念!」


 「やかましい、さっさと行ってしまえ。」


 「言われなくても行くよ!」


 小さくあっかんべーをして去っていく。相変わらずなのは佐伯もだな。


 一人になる。スマホを見るとまだ開始30分も経ってない。浦島時間になる呪いのアイテムでも拾得してしまったのだろうか、おまわりさーん。落とし物ですぜひ受け取ってくださーいとでも言って引き取ってもらいたい。


 「まぁ、一人で飲む酒も、悪くはない。」


 どうしたって一人にはなるものだ。たまに何人かに声を掛けられた。普通の会話を繰り広げる。


 「あっ、高波君!久しぶり。元気だった?」


 おや?白風さんじゃないか。


 「やぁ、久しぶり!元気だよ。白風さんは?」


 「私もボチボチかなぁ~。」


 「何か飲む?」


 グラスが空だ。ここで聞かないというのは野暮というものだろう。


 「ううん。少し飲みすぎちゃったからいいよ。もう、みんなお酒強すぎ!」


 なるほど人気者は辛いというものか。


 「白風さんめっちゃ人気者だからね~大変だ。」


 「そんなことないよ~。高波君だってかっこいいよねって話題になってたよ?」


 いやいや無い無い。


 「お世辞がうまいなぁ・・・そのコミュ力分けてほしいもんだ。」


 「お世辞じゃないよ?正直言うと高波君のことは気になってたし・・・。」


 「飲み過ぎってのは大当たりみたいだね。少し風にあたってきなよ。」


 「あー!信じてないでしょ!」


 肩を押してテラスに誘導してあげた。それにしてもみんなよく飲むよく飲む。

 実家が近所だった高木はなんか似非ハーレムを構築してるし。ってよく見ると佐伯まで取り込もうとしてるのかよ・・・歪みねぇなあいつ。


 でもなんだか心が軋んだ。いつもの嫉妬かよ・・・。女々しさ極まってるな。


 「高波君?具合、悪いの?」


 白風さんが俺の顔を覗き込んできた。

 窓ガラスに映る自分の顔を見る。ひっでぇ顔だな。それは元からか。


 「なんでもない。大丈夫だよ。俺も飲み過ぎたっぽいからちょっと手洗い行ってくるよ。」


 ひとまずトイレに逃げ込む。鏡に映る自分。改めて見ても酷い顔をしている。

 まぁ納得だ。佐伯とは何食わぬ顔でお互い話したり砕けた会話も全然できるが、実際のところ佐伯の顔を見るとどうしたってあの時の話を思い出さなきゃいけないのだからこうもなる。


 「まだまだ青いってことなのかなぁ・・・意味わからんわ。」


 佐伯と俺はその昔半分付き合ってたみたいなもんだった。でもお互いのことは大事に思ってたし、俺も佐伯のことは大好きだった。

 が、現実というのは残酷で、もともとボーイッシュで男友達の多い佐伯はよく男友達とも遊びに出掛けていた。だがある日、その中の一人が突然佐伯に告白をしてデートに連れ出したのだ。佐伯自身も困惑していたが、なんだかんだで嫌いじゃない相手からの告白では満更でもないようだった。

 俺はその事実が受け入れられなかった。1万歩譲って連れ出したのまでは許してやってもいい。だがだ、お互い好きだよって言いながらなんで一線を簡単に飛び越えてしまうのか、俺にはそれが理解できなかった。

 佐伯は友達だって言ってた。でも正直信じられなかった。佐伯のSNSにあげられる写真全てがそいつらと一緒なんだろうとしか思えなかった。もはや誰のことも信用できなかった。

 好きだと言ってくれてたその気持ちすら信じられなくなった俺は、メンヘラなどと周りから言われ、当時の佐伯にも避けられるようになった。それからというものの、付き合っても長続きしない恋愛だけをして、高校卒業後に当時の彼女と別れて以降一切恋愛なぞやめてきた。


 「精神をえぐったナイフは永遠にその精神からは抜け落ちないってか。あと何回刺されたら許されるんだろうな・・・。」

 

 だから正直俺は自分の価値をちり紙一枚分あるかないかぐらいだと認識してる。不要になれば捨てられる。そういう存在。小学生のときだって友達に約束を守られた試しもなかったし、そうされてきたからこそ人間というものに絶望した。手前勝手に約束は破り、人の悲しみなんてものはちり紙同然に踏みつぶされていく。そういうものなんだと言い聞かせて精神を保ってきた。

 きっとこれも被害者面なのだろう。悪く言われるだけだ。否定されるだけだ。もう9年近く経とうというのにまだこれだ。死にたくなる。


 端的に見れば佐伯がそういうところにひどく鈍感なのが悪いと言えるのだが、俺には佐伯を批判なんてできなかった。佐伯のことを悪く言いたくなかった。どうにもならない。袋のネズミだ。地獄のヴェルダン1丁目だ。信じられるのは自分だけ。


 「ほんっと、情けねぇわ。」


 佐伯は俺のことを”あたしの帰る場所”と評していたが、俺にとって佐伯は”帰れない場所”だった。強くいる俺にしか興味なかったのだろう。だから俺には帰る場所はなかった。一人寂しくこの世の理不尽に銃を向けて逃げ出すことしかできなかった。だから信じられなかった。



 もう忘れようとしてきた。でもコノザマだ。



 うんざりして手洗いから出ると白風さんが待っていた。30分はトラウマに拘束されていたはずだ。なのになんで。


 「和葉君・・・あの時のこと、まだ辛い?・・・。」


 あー、知ってたのか。


 「まぁメンヘラ極めた俺が自殺未遂繰り広げたくらいだもんな・・・。」


 「和葉君はメンヘラなんかじゃないよ。」


 「いーや、メンヘラだよ。」


 「佐伯さんが悪いと思うよ私は・・・。あんまりだよ。」


 そら話を聞く限りじゃあいつが悪いだろうな。だらしなさすぎる。

 でもな・・・。


 「白風、悪い。佐伯のことは悪く言わないでくれ。でないと君のことまで許せなくなっちまう・・・。」


 佐伯を悪く言うのだけはやめてほしい。それは同時に俺へナイフを突き立ててるのと同じだから・・・。


 「いいよ許さなくて。でももう和葉君がボロボロになっていくのは見てたくないよ。」


 そいつはどうも、でもそれって自分が見たくないもの見たくないだけだろ・・・。あー俺最低。


 「白風さんは関係ない。こんな奴には深く首突っ込まないことをお勧めする。」


 「嫌だ。」


 「不幸になるだけだ。来ないでくれ。」


 「嫌だ。」


 「関わろうとする理由が見つからないだろ。いい加減にしてくれよ。」


 「そうやって怒れずに苦しむ君を見たくないよ!だって好きなんだもん。」


 「は?」


 「あのときどんどん苦しんでく君を助けられなかった。なのにそんな酷い目にあってもみんなを思いやる君がずっと好きなの!」


 「やめてくれよ、君にはもっといい人間が山ほどいるだろ。わざわざこんな地雷物件を好き好んで選ぶ必要ない!」


 「自分を地雷とかいうのやめてよ!和葉君はもう十分傷ついたでしょう?なんでまだ傷つけるの?」


 「っ・・・。」


 言葉が出ない。あぁ、珍しく熱くなった。頭が沸騰してる。いったいどこでこんな頓珍漢を好きになるフラグが設置されたのか・・・いやでも回収なんてできっこない。神が逆立ちしてストリートダンスをキメても無理だな。そうそう、恋なんて重いだけ。傷つけるだけ。白風さんのその思いだって罪悪感の過剰成長みたいなものだろう。


 「もういい加減自分を好きになってよ。」


 「後悔しかしないよ。あと付き合う前から過熱しているカップルは秒で冷めてくのが定説なんだ。」


 「和葉君はね・・・理屈ばっかりなのよっ!」


 なんか白風さんの様子がおかしい・・・。


 「らまされらろおもっれ、らまってほれららい!!!」


 ろれつが回らなくなったと思った瞬間。僕と白風茉由さんの唇がダイナミック初めましてを遂げた。

ちょっと書いてみたいなーって書いてみました。結構真面目に書いてみたつもりです(実体験塗れなんですが(笑))よかったらなんでもコメント貰えると嬉しいです!連載していくので今後ともよろしくお願いします!!(*´▽`*)

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