表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/26

三島駅

「もうすぐ三島駅ですね」

 ワクワクしているのだろう。朱音は車窓にかぶりつきである。

 なんといっても、東海道新幹線の車窓といえば、三島から新富士にかけての富士山である。

 富士山を見るのは、実はなかなかたいへんなのだ。晴れていれば必ず見えるというものではない。

 どんなに晴天でも、山に雲がかかっていれば見えないのだ。

 車内にいる人間は、この区間は富士山を見ようと必死になる。これもまた、お約束だ。

 そんな中、服部は反対側の車窓に目を向けた。


「ただ今、三島駅を通過中です」


 車内アナウンスが流れた。

 建造物を越え広いいくつもの線路が見える。

 やがて、車窓に並走するレールがある。これは『上り』のものではない。

 三島駅には、三島車両所というのがある。そして、いま見えているのは、こだま車両の待避所だ。このレールは、その車庫と本線のレールをつないでいる。


──ん?

 

 服部は目を凝らした。

 新幹線に並走して走る人影だ。

 ありえないスピードで走る、その人物は、何かを投げつけた。

 それは、窓ガラスにぶち当たる。


──みかん手裏剣?


 みかんの房を投げつけるその攻撃は、わずかに開けられたその穴から噴き出す果汁が、目つぶしになる。

 しかし。


──残念だったな。


服部は新幹線と並走するという荒業を見せつける人物を見つめる。


──新幹線の窓は、開かない。しかも、みかんで、窓が割れることはあり得ない。さらにいえば、窓が反対だ。


 服部が見守る中、みかん手裏剣は正確に車窓に当たっている。しかし、窓ガラスを汚すだけで、そこに留まることもできない。

 やがて──服部は、思わず目を伏せた。

 みかん手裏剣を投げながら、高速で走っていた人物は、並走していた線路が唐突に消えるのと一緒に、姿を消した。


──哀れな。


 服部は、ため息をついた。おそらく我を忘れて加速し攻撃をしていたせいで、線路がなくなるまえに止まることができなかったのであろう。


「あーん。やっぱり見えない!」

 朱音が口を尖らした。

「ん?」

 服部が目を向けると、車窓には見事な富士山の姿がある。

「何が見えない? 富士山はそこにあるだろう?」

「富士山は見えますよ?」

 朱音はそういって、ふぅっとため息をついた。

「やっぱり、「のぼり」じゃないと見れないというのは、本当だったのですねー」

 残念そうに口を尖らす。

「三島と言えば、富士山だろう?」

「いーえ。斎王的には熱いスポットがもう一つあるのです」

 朱音は指を立てる。

「斎王的には?」

 服部は首をひねる。

 三島と言えば、富士山である。あえていうなら、先ほどの忍者が消えた発射台のように見える三島車両所が、名所と言えば名所なのだが。

「見たかったなー。リニューアル原分古墳」

「原分古墳?」

「知りません? 七世紀ごろに作られた古墳なのですけど、発掘調査後、移築されたんです」

「移築?」

「はい。だから、リニューアル古墳」

 朱音はギュっと手を握り締めた。

「かつての建築様式そのままに移築した古墳は、古墳時代のパワーを取り戻しているという噂がありまして」

「……古墳時代のパワー?」

 朱音はにっこり笑う。

「移築は大事ですよ? 神社の遷宮は当たり前ですよね。新しい古墳には新しい力が宿るのは当然です」

「ふむ」

 服部は、先ほどの忍者を思い浮かべる。

 結果は無残であったが、ひととして、ありえぬスピードを手に入れていたのは事実だ。

 ひょっとしたら、斎王を狙うのは、そういった新しい力を手に入れたモノなのか。

「みたかったなー。残念」

 がっかりする朱音を見ながら。

 服部は、迫りくる『敵』の大きさに、肌が泡立つのを感じていた。


 

食べ物を粗末にしてごめんなさい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ