表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/26

解凍磁場の術

 服部は身構えた。

 パーサーの女には、スキがない。

「あ、あのー」

 無邪気に、朱音がパーサーを呼び止める。

「はい」

 にこやかな笑みの中に鋭さを感じる。

 緊張が、服部と女との間に生まれた。

「アイスクリームと、きんぴらカツサンド。あと、ホットコーヒーをお願いします」

「おい」

この緊張がわからないのか、と服部は朱音に目配せをする。

「ああ!」

 朱音は、服部に頷いた。

「忘れてました。うなぎパイもください」

「……うなぎパイ?」

 服部が思わず唸る。

「静岡の名物も買っておかないと。通過するだけでは、静岡県に申し訳ないですから」

 そういう問題なのだろうか。

 確かに、静岡県の新幹線駅というのは、熱海、三島、新富士、静岡、掛川、浜松と六駅にも及ぶが、『のぞみ』停車駅は一つも存在しない。ここまで『ひたすら通過される』都道府県も珍しい。

 もっとも、一つの県にこんなにもたくさんの新幹線駅があるというのが、かなり珍しいのではあるが。

 朱音はいそいそと財布を取り出した。

「はい。では、まず、うなぎパイ、きんぴらカツサンド、アイスクリームですね」

 ワゴンから次々に品物を出し、朱音の前に差し出した。

 女は、服部が注視する中、ホットコーヒーをカップに注ぐ。

 そして、服部にニコリと微笑み、コーヒーを朱音に手渡した。

 代金をやりとりする間も空気は張りつめている。

「ありがとうございました」

 女は艶然と微笑み、ワゴンをひいて背を向けた。

「わーい。いただきまーす」

 服部が、女の背を見送っているうちに、朱音はきんぴらカツサンドを躊躇なく口に運ぶ。

「……これまた、微妙なもんを」

 服部は、うれしそうに食べる朱音を呆れて見ながら、不意に術の気配を感じた。

 アイスクリームからだ。

「これは……」

 服部はテーブルに載せられたアイスクリームに手をのばした。

「あ、ちょっと服部さん」

 朱音の抗議を無視して、ふたを開ける。

 ふたを開けた途端、目に見えぬ磁場がアイスの容器で発生した。


 伊賀忍法、磁場消失


 服部の唱えた術が完成し、アイスの振動が止まる。

「えっと。何ですか? いったい」

 朱音は、服部の手にしたアイスを見ながら、首をかしげた。

 見れば、すでに、きんぴらカツサンドは完食済みである。恐るべき、斎王だ。

「なんでもない」

 服部は、アイスをテーブルの上に戻す。

「早く食べろ。溶けるぞ」

 ふぅっと、服部は息をつき、持参した伊勢茶を口にする。

「何言っているんですか。新幹線のアイスはですね、時間をかけて……」

 朱音は、アイスのスプーンを手にしながら、アイスを手に取った。

「あれ?」

 アイスはやわらかに、差し込んだスプーンをやさしく迎え入れた。

「食べごろになっている?」

 目を丸くして、朱音はアイスを口にする。


──おそるべし。風魔流、解凍磁場レンジでチンの術。

 服部は、パーサーの去った扉のほうを見つめ続けていた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ