表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/26

検札

やや短いです。

※画像あります。作品右上の表示調整でオン、オフができます。画面が重い場合は、ご利用くださいませ。

 新横浜を新幹線が発車すると、間もなく車掌がやってきた。

 彼は、車両に入ると静かに、頭を下げた。

 ちろり、と、服部は車掌に目をやる。

 すらりとした体格。ぴっちり着こなした制服姿に、一部の隙もない。

 ──こいつ?

 車掌は、黒革の分厚い手帳のようなものを持っていて、ギラリと目を光らせた。

 すうっ。

 車掌の足が動く。

 服部は身構えた。

「お客様、切符を拝見できますか?」

 車掌は、服部の席を通り過ぎ、前の14列目の乗客に声をかける。

「え、あ、はい」

 慌てた乗客の声。年老いた男性のようだ。

「……お客様。このチケットは、6両目のものです。申し訳ありませんが、もうひとつ前の車両にお移り下さいませ」

「す、すみません!」

「ごゆっくりでいいですから」

 車掌はにっこり微笑む。

 車掌は、立ち上がった乗客のために、一歩下がり、服部の隣に立つ。

 車掌の手から、さりげなく一枚の紙が、ひらりと服部の膝に落ちた。

『パーサーに注意せよ』

 服部はその文字を確認し、そのまま紙を握り締めた。

 前の乗客が、荷物をもって慌てて前へと走っていった。

 車掌は、服部に軽く視線を投げ、そのまま前方へと歩み去る。

「あれ? 私、切符、出してないのに」

 去り行く車掌の背を見ながら、朱音が首をかしげる。

「新幹線の指定席の検察は、2016年3月で廃止された」

「そうなのですか? ちょっと前に乗った時、あったような気がしましたけど?」

「自由席は、まだ検札がある」

「……あ、そうか。そうなのですね」

 朱音は、ふうん、と頷く。

「指定席を買って、自由席に乗るのは自由だし、それをやるやつはめったにいない。指定席の場合、どの指定席のチケットが売れているかは、車掌が把握できている」

「へぇー。でも、あの鋏を入れて切符切るって感じが好きなんですけどねー」

 朱音は懐かしそうにそう言った。

「鋏を入れて? お前、時代が古すぎないか?」

「そーですかねー」

 朱音はにっこり笑う。

 鉄道切符に鋏を入れていたのは、随分前の話だ。少なくとも、服部の記憶には、鋏を使われたといいうのは、ない。

  検札は、スタンプを押していたはずである。

「お前、本当に二十五歳か?」

「斎王には謎が多いのです」

 朱音は、そう言って微笑んだ。

「あ、もうすぐ、小田原ですねー。富士山、まだかなー」

「謎ね……」

 服部は朱音に目をやる。

 無邪気な笑顔。男装をするために、その顔に化粧っけはないが、白い肌はきめ細かく、ファンデーションを必要としていない。どう考えても二十代の女性である。

 くるりと動く瞳は、キラキラとして、思わず引き込まれそうになり、服部は慌てて目をそらした。

「あっ来た」

 扉の向こうから聞こえてくるカートの音に、うれしそうに朱音が反応する──服部は懐に手を入れ、身構える。

「お土産、お弁当、コーヒー、いかがでしょうか?」

 車内販売のワゴンを引きながら、妖艶な美女が、にこりと服部に微笑みかけた。


挿絵(By みてみん)




お気に入り様の情報に感謝です。

挿絵は金野文さまからいただきました。ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ