番外編 大垣
ぷるぷるとして、すきとおった衣の中央に、こしあんが入っているのがわかる。
冷たい水で冷やされた、夏限定の和菓子『水まんじゅう』である。
「本当においしいです! これがまた、麦茶でいただくのも最高ですね!」
至福の顔で、朱音がまんじゅうをほおばる。
「ちゅるんとした感じが、ほんとうに涼をいただくって感じです」
「まあ、夏の和菓子だし……」
服部は、和菓子店の喫茶室で大きくため息をついた。
「うまいのはわかる。だが、なんで、伊勢から東京に戻るのに、大垣に寄らねばならないんだ?」
ここは、岐阜県大垣市。水郷の町で有名だ。
「服部さんの郷里の伊賀上野にも寄りましたよね?」
「まあ……一応」
服部の用事に強引に同行して、伊賀上野に行った朱音である。
「伊賀上野と言えば、松尾芭蕉です」
「……まあな」
忍者の里であると同時に、伊賀上野は、松尾芭蕉ゆかりの地である。
「ですから、松尾芭蕉と言えば、奥の細道。奥の細道と言えば、大垣です」
「その論法、飛躍しすぎじゃないのか?」
服部は大きくため息をついた。
「いいんですよ! 水まんじゅうはこの時期にしか食べられないんですから! 最近は、フルーツ入っていたり、ほんとうに素敵ですよね!」
「……相変わらず、よく食うな」
令和の世になっても、斎王の秘術は健在のようであった。




