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内宮の戦い

「伊賀忍法、風の龍!」

 宇治橋を走りながら、文乃が叫ぶ。

 真昼間だというのに、忍者装束の黒ずくめたちが、突風にあおられて吹き飛んでいく。

 忍者装束で襲撃とは、目立ちすぎることこの上ない。もっとも、三重県は日本でも有数の忍者の土地柄だけに、観光客もアトラクションの一つくらいにしか思わないのかもしれない。忍者が何人か、五十鈴川に落ちたが、どよめきと同時に何故か拍手が巻き起こった。

 神苑を抜け、手水舎まで来ると文乃はようやく足を止めた。

 人の気配はなくなり、五十鈴川のせせらぎの音が聞こえてくる。

 さすがの天才幼児も肩で息をしていた。

 服部は抱き上げていた朱音を、そっと大地におろす。朱音の頬がほんのり赤いのに、今さらながらに気が付いたが、そういう状況でもない。

「待ち伏せしていたやつらは大方、いなくなったようだ」

 服部は朱音に、手を清めるようにつげながら、辺りを見回した。神域に似つかわしくない気配を感じた。

「頭が、この先にいるって」

 文乃が、キッズ用の携帯電話をのぞき、服部の方を見上げた。

 文乃も、気配に気づいている。

「朱音、ここから先は、文乃と行け」

「服部さんは?」

「ちょっと、用事が出来た。文乃、()()をよろしく」

「うん」

 文乃は、戸惑う朱音の手を握り、拝殿へと向かった。

 服部はその足音を背に、懐からクナイを取り出して木の枝に向かって放った。

 ざわっ

 木の葉がざわめく。

 服部は、横に飛んで、放たれた手裏剣をよける。

 瞬間、相手の姿が目に入った。

──ならば、これか!

 伊賀名物のカタヤキを相手に向かって投げつけた。

──手ごたえはあった。

 服部は次々とカタヤキを投げ続ける。

 相手は、カタヤキの軌道に翻弄されながらも、欠片も落とすことなく口にしていき、しまいに口も手もいっぱいになってしまって、大地に倒れ伏した。

「……あいかわらず、カタヤキに目のない男だ」

 服部は、倒れた男を見下ろし肩をすくめた。

 咀嚼するのに夢中になって、男は既に戦意を喪失している。

「……まけ……た」

 口にモノを入れた状態では、うまく話せないようだ。

 しかもあれだけの量のカタヤキをいっぺんに口に入れたのだ。口内にかなりの傷をうけているだろう。

「いつ、気がついた?」

 男、あおむけに倒れた猿上が問いかける。

「わりと早い段階で」

服部は肩をすぼめた。

 それでも、しのぎをともに削った仲間が、裏切るなどと最後まで信じたくはなかった。

「第一に、幼稚園バスのセレクトだな」

幼稚園バスは、派手で目立つ。

スピードも出ないから追跡されやすい。

 意表を突くという意味で提案された案ではあった。しかし、幼稚園バスで神社の駐車場に入ることがわかっていれば、何も公道でチェイスを仕掛ける必要もなく、待ち構えればよい。情報が漏れていたなら、何の意味もない作戦である。

「第二に、走ったコースだ」

駅から内宮まで、バスは最短ルートを走った。

「幼稚園バスは、本来、住宅街の細い道を走る。まっすぐ主要道路をひたすら走るのは、マレだ」

 もちろん、例外はある。しかし目立つ車体で、さらに目立っていたのは事実だ。

 つまり、通園中の幼稚園バスであるという偽装すらしなかったのである。

「第三に。伊賀流あげての作戦で、俺と並び立つ立場にいるのに、今の今まで出番がなく、この後におよんで初登場ということはどう考えても違和感がある」

「それは作者の都合であろう」

猿上の表情が曇る。

「そうかもしれない。だが、それ以上に、時代の流れというものがある」

「時代の流れ?」

 服部は大きく息を吸った。

「知っているか? 少年漫画の十週打ち切り制度というのは、ある日突然、強引な山場が作られ最終回をむかえる」

「それと、これとは……」

 否定しようとする猿上に、服部は目を伏せた。

「お前は知らぬのか? 今日で、平成が終わるのだぞ?」

「平成が……終わる?」

「当初の設定がどうであれ、平成が終わる以上、斎王は任につかねばならぬ。ゆえに、おまえの出番はこれまでなのだ、猿上」

 服部の表情は苦い。

「そ、そんな……」

 猿上は、手に持っていたカタヤキをすべて口にして、大粒の涙を流したのであった。

すまぬ。猿上

平成が終わるのだ ヾ(>y<;)ノうわぁぁ

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