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ええじゃないか

 宇治山田駅に到着し、服部と朱音は、しまかぜから降りた。

 たくさんの人間が下車をしているため、用心をしつつ、ホームを歩く。

 できるだけ後ろをとられぬよう、人の波の後方についた。

 宇治山田を下車する観光客の多くは、伊勢神宮の内宮方面に向かう。

 内宮へは、バスかタクシーで十分程というのが定番だ。徒歩にこだわるなら、宇治山田ではなく、そこからさらに一区乗って、五十鈴川駅の方が、やや近い。ただし、五十鈴川からも徒歩だと内宮まで三十分ほどかかる。

 改札を出ると駅前に人だかりがあった。

 新しい時代の幕開けを、伊勢内宮で祈願しようとしている団体らしい。

 風切り音がした。

 服部はとっさに手をのばして、飛んできたものをつかんだ。

 いびつなごつごつとした肌触り。ずっしりと重い。

「牡蠣?」

「どうしたんですか?」

「気をつけろ」

 どうやら、目の前のたむろしている団体が怪しい。殺意を四方から感じる。

 露骨に攻撃はしないものの、一歩動くたびに、何かが起こる、そんな気配がした。

「迎えが来る場所まで移動したいが、何か注意を他にむけられないものか……」

「このたくさんの人たちの意識を、他に向ければいいのですか?」

「……まあな。しかし、派手に術をかますと目立つ」

 伊賀流忍術を使えば、人目を引くことはできるだろう。ただし、術を使えば、ここに居ると敵に宣伝しているようなものだ。

「そういうことならば、私に任せてください」

 朱音は自信たっぷりに笑った。

「伊勢の地に入った、斎王の力、お見せしますよ」

「何を──」

 するのか、と問おうとする服部を制し、朱音は持っていた袋から赤福の包みを取り出した。

「伊勢斎王、秘奥義! 『ええじゃないか!』」

 朱音の言葉に呼応するかのように、赤福が、容器を飛び出していき、たくさんの人々の頭上で強い光を発した。

「なんだ?」

 驚き、顔を上げた人々の口に、光り輝く小さな粒となった赤福が飛び込んでいく。

「おおおっ」

 人々の歓喜の声があがった。

 敵も味方も、部外者も。その光の恵みに心奪われている。

「しばらくは大丈夫ですよ」

 にこりと頷く朱音の恐るべき術に驚きながら、服部は待ち合わせ場所へと急ぐ。

「今のは?」

「ええじゃないかというのは、幕末におこった神の奇跡です」

 朱音は肩をすくめた。

「天から神社の札が降るという奇跡です」

「ええと。近畿説やら東海説やらいろいろある、幕末の騒動のことだな」

「そうです。信仰の残るこの地で、参拝したいという想いを抱く人が多いこの地でしか使えない、斎王の秘奥義中の秘奥義ですよ」

「なぜ、赤福?」

「最近は、神札より、食べもののほうが喜ばれそうなので」

 それは、朱音の感覚ではないだろうか?

 とはいえ、最大のチャンスである。

 服部は、駅のロータリーに停まっていたバスを指さした。

「乗るぞ」

「え?」

 朱音が驚きの声を上げる。

 そこに停まっていたのは、『内宮幼稚園』と大きなラッコの絵が描かれた幼稚園バスであった。


赤福のキャッチコピーで思いついたなんてことは……内緒です。

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