表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/26

斎宮駅

短いです

 松坂を過ぎた。

 服部は、車窓に目をやる。

 停車駅ではないが、『斎宮』駅がそろそろ見えてくる。

 古の『斎王』が住んだ宮があった場所だ。

 斎宮跡の遺跡の発掘調査は、1970年からはじまっているそうだ。現在は史跡指定をされ、さらに公園、博物館が整備されているらしい。

 隣に座った朱音の顔がいつになく真剣だ。歴代の斎王の住んだ土地の力を感じているのだろうか?

「斎王歴史博物館の、マスコットキャラクターも、このたびのことで、代替わりするそうです」

 朱音は窓の外を見ながらポツリと呟いた。

「マスコットキャラクター?」

「はい。新しい斎王のキャラは、卜定によって決められたとか」

「ふーん」

 服部は思わず、博物館のバックヤードで、学芸員たちが亀の甲羅を焼いているのを想像し、頭を振った。

 おそらく、そーゆーことではないであろう。

「ただし、明和町のめい姫ちゃんは、変わらないそうです」

「……別に、いいんじゃないか?」

 新しい斎王が、ひそかに立つとしても。市町村や博物館のキャラクターを変えようが変えまいが、自由だ。

 長く慣れ親しまれたゆるキャラをわざわざ引退させる理由はない。

「彼女たちは、表舞台に立つ、いわば表の斎王。一度お会いしてみたいものです」

「表ね……」

 イメージキャラクターに会って、どうするのだろう。

 謎である。

 いや、むしろ表の斎王というならば、斎王祭りの斎王の方ではないだろうか。

 毎年六月に行われる祭りは、まさに古式正しい群行の再現である。

 服部が指摘すると、朱音は「当然です」と、頷いた。

「伊勢の斎王祭りは、1985年から。最近は、伊勢神宮の新嘗祭にあわせての、外宮までの群行も行われています。古の斎王の儀式を伝えているといっていいでしょう」

「お前が行う儀式とは、全く違うものなのか?」

「違うと言えば違いますし、同じと言えば同じです」

 朱音は大きく息を吸う。これからのことを考えると、さすがにプレッシャーを感じているようだ。

「闇の王の復活を阻止する。その使命があるかないか、それだけですね。むしろ、儀式的なことは私の方が少ないかもしれません」

「そもそも闇の王って、どこに閉じ込められているんだ?」

 服部はかねてからの疑問をつい口にした。

「内緒です」

 くすりと朱音が微笑する。

 その顔は、知っているのか、知らないのか、服部には判断がつかなかった。

「それにしても、できれば斎宮駅で降りたかったです」

「歴代斎王の宮の遺跡がみたかったか?」

 長年にわたる発掘調査によって、斎王の宮は徐々にあきらかになってきたという。

 歴代の影の斎王たちが語り伝えてきたことと、別の歴史絵巻がそこにあるのかもしれない。

「いえ、うどんが食べたいんです」

 朱音は真面目な顔を崩さない。

「うどん? きしめんを食べたじゃないか。それに、伊勢うどんなら、伊勢神宮周辺でも食べられるのではないか?」

 服部も、朱音の食欲魔人ぶりには慣れてはきたが、それでも、あきれてしまう。

「伊勢うどんは、もちろん、食べるべきうどんではありますが、それではありません」

 朱音は、ぴしっと指を立てる。

「ひじきうどんです」

「ひじき?」

「特産なのです」

もちろん、ひじきが特産なのは、服部も知っている。三重県はひじきは国内有数の産地だ。

「ひじきを生地に練りこんだものです」

「なるほど」

昨今、麺に練りこんだ特産品というのは、各地で開発され、土産の目玉となっていたりする。海藻系となれば、ヘルシー志向な層にも人気なのであろう。

「とりあえず、そろそろ降りる準備をしろ」

「はい」

 列車は斎宮駅を通過し、伊勢市に到達しようとしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ