出会いと説明の一日目その六
「はぁぁぁ!」
下段から上段にかけての斬り上げ。紫色の光を帯びているその刀をガードするための能力を発動させるタイミングがなく、攻撃に転じれていない。しかし、このままだとあと二分間何もせずにタイムアップ。せめて、一撃はいれたい。悠花も同じ気持ちなのか、さっきから剣の振りに焦りが見えていた。残り一分半...賭けるしか無いか。大きく後ろに飛び、悠花との距離を大きくとる。そして今度は右手に盾を纏わせて、手を握りしめる。盾も同じ形になるように纏わせて、左手には手を最大限まで開いて盾を纏わせる
「攻撃態勢に移りましたわね...ここからが本番といったところですか」
「まぁそんなところだ。俺の盾も柔らかいだけじゃないんでね」
離れた距離を詰めるために全速力で走り、悠花の出方を見る。さっきとは違い、ガードの体制ではなく攻撃の体制で迎え撃とうとしてくる。両手に意識を集中させて、もう一つの能力の発動の準備をする
「硬化!」
さっきまでは自由に動かせていた手が、固定され形を変えることができなくなる。その言葉を聞いた悠花は少し警戒をして、真っ直ぐだった刀身の方向が少し斜めになりガードの体制に近くなる。まずは攻撃の手段を封じるために、刀の中心を狙う。固められた盾と、刀が触れ合った瞬間キィンという金属同士が触れ合った時のような甲高い音が響き渡る
「接近戦を挑むとは、無謀ではありませんの?この状態で私の発動させたら、あなたの手ごと切れますわよ」
「やってみろよ?いいか、切れないから盾なんだ。だから、あんたの刀じゃ俺の盾は切れない」
悠花は少し笑ってから、刀に異能を発動させる。紫色に光りだす刀は俺の盾を...切ることはできなかった。少し驚いた表情を浮かべた悠花の刀は、一瞬力が抜けたため悠花の手ごと刀の持ち手をつかみ取り刃の部分に思い切り殴り掛かる。パリィンという音とともに刀の刃が宙を舞った
「その能力...中学校対戦型イベントであるバトルロワイヤルイベントで、味方チームを構いもせずに最弱の水波方中学校を一人で優勝に導き恐れられた『守れずの盾』の能力...対戦が始まった時点でまさかとは思いましたけどあなただったんですわね」
「その話はやめてくれ...昔の話だ」
俯き、体から力が抜けていく。バトルロワイヤルイベント年に一回中学校対抗で開かれるイベントなのだが、うちの中学校はそのイベントで一回も優勝したことがない。しかし俺が出た年、水波方中学校は初の優勝を飾った
「すみませんでした...ですが、その称号で臆することはないのでご安心を」
「いつでも変わらないんだな...だが、その折れた刀でどう戦うつもりだ?残り一分、こっから逆転するつもりか?」
「折れた刀でも使えないことは無いんですわよ」
折れて、地面に刺さった刀の破片を拾い上げ片方の手に持つ。しかし悠花が刃の方に力を入れたとしても、悠花の手からは一切の血が出ていない
「あんた...思い出したぞ。『切れない剣』の異能力者...でもなんで『最強の剣』だなんて呼ばれてるんだ」
「それも、私に勝ったら教えて差し上げますわ!」
振りかざされる二本の刀。硬化を一度解いてから拳の形を盾の形に変形させる。二本の刀から繰り出される素早い斬撃を的確にガードしていく。両方の刀を振ってきたため、どちらも弾き返し腹にスキを作り出す。盾の状態で殴りかかろうとするが、悠花は弾かれた手を握りしめてその勢いで両方の刀を投げてこようとする。俺の盾が悠花の腹に、悠花の刃が折れに投げられる直前で
「そこまで!両者止め!」
審判がタイムアップを知らせる。すぐに異能を解いてからリングの中央に歩いて行く
「ありがとうございました!」