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内政

今回からちょっと空白を入れてみました。読みやすくなっているようであれば、今後ともそのようにします。

 1559年5月3日。長宗我部領・土佐国において、先代の国親が密かに行っていたことが明るみに出た。


 何と、親泰が改革を行っていた裏側で国親はなまり節や鰹のたたき、生姜に茗荷を生産していたのだ。何故これに気づかなかったのか。それは土佐国の生産物管理の責任者が隠していたのだ。何でも、国親からの命で時が来るまでは隠しているようにとのことだったらしい。その時とは、四国を平定して領内が安定した時。その時にこの秘密は開示される予定だった。そして、今それが開示された。


 さらに驚くべきことに、これは織田家の平手政秀から伝えられたとのことであった。さらには置き土産として、最近到着したフランキ砲を改良し、より信頼性の高いものにした改良フランキ砲まで置かれていたのだ。これにはフランキ砲購入によって資金を無駄にした親泰もビックリ。そしてその改良フランキ砲の生産体制を整えることもなく、後装式ライフル砲の研究のために砲身を半分に割った。


 そんな貴重なものは研究材料として有効活用されることになった。そもそも、グリボーバルシステムの製造方法を完成させて、均一な砲身を製造することに成功した長宗我部家には不要だった。既に生産を開始しており、大砲の種類をフランスのヴァレ・システムを採用していた。

 そんな状況の長宗我部家には遅すぎたのだ。


 そして、親泰はとある書類を決裁した。

『新型小銃開発案』という書類で、これに年間千貫文もの予算をつけた。この新型小銃は、紙製薬莢を使用した後装式ライフル。ライフリングの製造方法は開発中だが、スターリングエンジンを動力として銃身に施条を刻むことを検討している。


 そして、この案には三つの方式が検討されており、一つ目は管打式、二つ目はレバーアクション、三つ目はボルトアクションである。


 管打式の製造は容易だが、レバーアクション、ボルトアクションともなると製造に関する技術が問題となる。現在の状況では部品の生産を如何に効率よく、低コストで行う方法はなく、作る場合は手作業になる可能性がある。これをどうにか機械化するには、またそれを製作する相応の技術を必要とした。そこで、親泰はそれの開発も込みでの開発費用をねん出した。


「殿、堺の商人が参りました」

「通せ」


 大坂城が建設中であるため、仮住まいとして岸和田城に親泰は住んでいた。そこに堺の商人が謁見を求めてきたのだ。

 何の用だろうか。親泰はある程度は予想がついていた。

 恐らくは堺における商売の話だろう。何せ、先日に堺において商いを行うのであれば、香宗我部親泰に代表者が赴くように、と触れを出していた。


 そして、代表者が親泰の前に現れる。


「堺で商いをしております。今井宗久でございます。この度は堺での商いを是非許可していただきたく、代表者として訪れた次第でございます」

「そうか、分かった」


 これで終わるわけがない。宗久もそれはよく理解していた。そして、親泰はある書状を取り出した。


「堺における商売を許可するための条件を読み上げる。

 一つ、堺の周囲の堀を埋め立てる。

 一つ、領国法に基づき直ちに商いに関する許可願いを提出する事。

 一つ、月に収益の四割を納める事。

 一つ、会合衆を解体する事。

 一つ、堺は長宗我部家が直轄管理する」


 堀の解体は堺の防御力低下を意味し、領国法の商法での商売の許可願いは商人の勝手な商売を封じ、四割の納税は堺商人の経済力の弱体化を意味し、会合衆解体と長宗我部直轄管理は自治の終焉を意味する。


「ちと、厳しすぎはしませんか?」

「別に受け入れなくても構わん。石山のように全てを灰燼に還してやろう」

「脅しございますか?」

「実例を挙げただけだ。脅しで言ったつもりではない」


 嘘つけ、宗久は思うが口にはしない。


「で、返事を聞こうか」

「条件を飲みましょう」


 受け入れるしかない。宗久は長宗我部家が、親泰が必ずこちらに譲歩すると読んで来ていた。しかし、その予想を外して堺に対して受け入れ難い条件を突き付けてきた。

 これは親泰が別に堺はなくてもいい。そう言っているも同義だった。


「一つ伺いたいのですが……?」

「聞こう」

「何故ここまで厳しい案を?」


 知りたかった。各国大名家が喉から手が出る程欲しがる堺を、何故こうもアッサリと切り捨てる事が出来るのか。


「堺は三津七湊の一つ。重要な交易の要衝だ。それを支配したければ商人に譲歩して利益を得る方がいい。だが、それでは商人の利益が大きくなる。そして、利益よりも我々が被る支出の方が大きいだろう。何せ、堺を守るのに畿内に精鋭を配備しなければならないからな。軍事上の損が大きすぎる。だからこそ、それを補うための利益が必要だった。確かに従わない可能性もある案だったが、堺商人は商人故に無意味な報告を嫌い必ず受け入れると思った。自身の商品や建物や街が、屑となるのは許容しないだろうと」


 最初から読まれていた。宗久自身の根底に宿る、商人誰しもが持つ精神を逆手にとられたのだ。完敗だった。


「もし……もし私が拒否したら?」

「堺を焼くとかはしなかったが、堺の全資産を差し押さえただろうな。何せ、堺は長宗我部領内にあるのに領国法に違反するのだ。罰は受けてもらう。そのために条件に加えたのだ」


 全ては親泰の掌の上だった。

 こうして、親泰と宗久の会談は終わった。


 こうして、長宗我部は堺を手に入れた。堺は条約に従って直ちに長宗我部は進駐し、自治権を完全に喪失した。これには堺の住民から反発があったが、その後何があったかは分からないが沈静化した。噂によれば、賄賂を渡されたと言われているが、それは当事者のみぞ知る。

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