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三好3

 1558年6月7日

 阿波の長宗我部元親は悠々と行軍を続けていた。

 城攻めや、三好方を多少の小競り合いはあれど、どういうわけか大きな抵抗はない。そのおかげか損害はわずかに2百。阿波一国を落とそうというのに、抵抗が少なすぎる。それに淡路は3日で占領に成功したという。元親は何か裏があると睨んでいたが、白地城や畿内に兵力が集中しており、まだ阿波には配備が行き届いていなかった、と思っておくことにした。未だに讃岐での事件には気づかない。阿波方面軍の士気は高く、すでに戦に勝った気でいる者も多い。そんな長宗我部勢に阿波の情報がもたらされるまでしばらくかかるようであった。







 讃岐の香宗我部勢は一気に窮地に陥った。

 三好勢1万5千と、一向宗4千が十河城に迫っているという報告を受けたのだ。さらに忍びの宝庫くでは一向宗は本願寺の扇動によるものらしく、三好方に本願寺が参戦したことは調べずとも知るところとなった。香宗我部勢は直ちに十河城から撤退を開始。長宗我部海軍の待つ沿岸まで出るため進む。しかしその頼みの綱である海軍に淡路水軍が迫っていると知らせを受けた。どうやら三好は淡路島を捨てて四国と畿内の領土防衛に乗り出したらしい。淡路からの早馬によれば、洲本城はもぬけの殻で三好兵は一人たりともいないという。

 これに親泰は持っていた采配を折ることで答えた。そして行先を変更。堅城・王佐山城に向かい、夜間に襲撃した。幾百と知れない損害を出しつつ占領。すぐさま城を修復し始める。最優先は門、その次に城壁である。城内の死体は適当な場所に穴を掘って埋めた。


 そして2日後の同年同月9日である。

 この頃には海軍の戦闘も終わっていたが、王佐山城は三好勢に包囲されていた。この情報は親泰の忍びによって、勝瑞城を落とし、白地城にも迫りつつあった元親のもとに届いていた。元親はすぐに向かおうとしたが、親泰の書状を見た家臣に止められ白地に向かった。




 1週間後の16日、この頃には十河城に向かう道中に別動隊で攻略した讃岐の諸城も奪い返され、その別動隊2千は壊滅した。親泰の讃岐方面における作戦は失敗のだ。王佐山城を丸々奪い取ったとはいえ、王佐山城に籠っていた兵力と親泰の兵力には差があり、王佐山城のもともとの兵力に対しての兵糧では親泰勢にはだいぶ少ない。故に親泰は決断を迫られていた。

「敵方は1万9千、対して我らは5千。兵力差4倍……話になりませんな。殿、如何致しましょうか?」

 隠居のみでありながら、親泰に従いついてきた親秀は聞いてみた。

「……この城に鎧はどれほどある?」

「そうですな、死体から剥いだものでざっと800ほど。これ以上はございませぬ」

 今回の王佐山城強襲で親泰は城兵を皆殺しにした。というよりは気づいたらそうなっていた。

「では、鎧を着せた兵たちを三好方に潜り込ませることはできるか?」

「どうでしょうなぁ……三好の足軽の姿に扮することが出来れば苦労はしませんが……。少しでも怪しまれればおしまいにございます」

 これに親泰は黙ってしまう。それほどばかりに困窮しているということである。そんな親泰に”降伏”の二文字が思い浮かぶが、直ちに払拭する。

「三好方は一向宗を引き込んでいる様子。武士の戦に坊主や民が参陣するなど、到底受け入れられぬ者ではありませんでしょうなー」

 親秀がポツリと何気なく溢した一言で親泰は一つの案を閃いた。

「長門守!」

「はっ!」

 長門守と呼ばれた男は、藤林長門守で親泰に従った伊賀の忍びである。

「お前の忍びを一向宗に扮させ、三好兵を挑発してやれ」

「ははっ!」

「久武!」

 次に久武親信の名を呼んだ。

「はっ!」

「籠城戦に備え鉄砲衆の指揮を執れ」

「ははっ!」

 その後も参陣武将に命令が伝えられる。

 ここに親泰生まれて初めての大博打が今始まろうとしていた。


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