捌話 守牢主魔境編惨
多くのお城においては調度品と呼ばれる嗜好品が飾られている事が多く、その多くは城主の権力と権威の象徴である。よってその意向が強ければ強いほど、調度品の総額が高額になって行く事はしばしばである。
一方、《魔界》や魔境における城に求められているのは頑丈さのみ。悪魔という力至上主義、親であろうとも利用出来る者ならば利用し尽くせば良いとさえ考えている者達が住む所で、ただ脆くて、なおかつ高価な物という調度品の価値は人間界以下へと成り下がる。
よってもし、魔境における城に調度品が飾られている場合、それはなんらかの罠か、よっぽどの馬鹿のする事である。
=著書「調度品と《魔王城》における関係について」参照=
守牢主魔境の中でもとびっきり豪勢で、なおかつ悪趣味な建物―――守牢主魔境城(《魔王》の城だから魔王城であるため、魔境の城は全て魔境城という名前らしい、響きとしてはあまりピンとこないが)へと辿り着いた俺とマキユスさん。
すんなり入れたとは言えず、守牢主魔境の支配者たるゴルドデニシュの配下であるピクシー達が邪魔をしてきたので、あまり順調に言ったとは言えなかった。そのほとんどのピクシーをマキユスさんの糸で対処したのだが、気になったのは城前に居たピクシー達の強さである。
魔境の城下町で襲って来たのは大きくても30cm程度で、倒された後に残った金貨は1枚。けれども魔境城の前に居たのは一番小さいので50cmくらい、なおかつ倒された後の金貨は5枚。
「城に近ければ近いほど、ピクシー達の強さが上がっている。それに落ちる金貨の枚数も」
「そうですね、これから察するに使う金貨の枚数によって生み出す事が出来るピクシーの強さが変わるタイプの能力みたいですね。金貨1枚ならば最下級、5枚程度ならば下級くらい、でしょうか? 妾の推察ではありますが、多分それが正解だと思いますよ?」
「そうですね」と俺も頷くと、俺達は重苦しいような扉を開ける。その中には全部、悪趣味と言えるくらいに豪快な金を使って作られたと思われる、そんな廊下が続いていた。
床と壁は黄金と白銀の二色の豪華な装飾が施されており、そして廊下の端にはいくつかのキラキラと輝くような甲冑やら、良く分からないような巻物など無駄に高そうな物が並べられていた。悪魔の居城としてはこんな高そうなのを置いてたら盗まれそうだなと思っていると、その背後からセキュリティーサービスの姿が目に入る。小さな、5cm程度の触れたら消えてしまいそうなくらいに弱そうなピクシー達ではあるが、その手には紋章の描かれた紙を持っていた。
「調度品に触らせるな、という命令でも受けてるんでしょうかね?」
「あの紋章を調度品に触れさせると、そのまま金額と同じくらいのピクシーが召喚される。それがゴルドデニシュの能力、と言った所でしょうか?」
俺とマキユスさんがそんな事を考えながらトコトコと、城の中を進んで行くと、そいつは現れた。
「正解だぜ、金鶴共が」
と、がはがはと下卑た笑いを浮かべて、黄金の大鬼は現れる。
黄金の肌のその大鬼は銀色のガウンを着て、全身に高価なダイヤのネックレスやサファイアの腕輪など豪華な装飾品を身に着けていた。そしてその手には宝石などを埋め込まれた黒い大きな金棒を持っていた。そいつの背後には黄金を持った4匹のピクシー達が構えていた。
「よぉ、《魔王》候補さんとマキユス・スカーレットさんよぉ。
おれっちの名前はゴルドデニシュ、この守牢主魔境の支配者にしてこの最高にイカして最高にイカれた城の主だぜ。さっきからおれっちの能力の事をああだこうだと言ってやがるが、おれっちの能力はそんなに大した物じゃない。おれっちの能力は【黄金に価値を】」
彼はそう言いながら懐から1枚の金貨を取り出すと、それをクルクルと回転させるように宙へと放り投げる。放り投げると金貨は空中の一番上空にて一瞬止まると、金貨は小さなピクシーへと変わっていた。そしてゴルドデニシュの隣にて降り立つと、ニコリと笑みを浮かべる。
「このように、黄金に命を与えるっつー能力なんだが、これでも色々ときつい訳なんだよ。能力名が【黄金に価値を】なんて名前からなのかは分からねぇが、最低金額金貨1枚からのスタートだぜ? 別に金貨にこだわっている訳じゃなくて、そこの調度品のように金貨1枚以上の価値がある物ならばおれっちはピクシーだろうと、ドラゴンだろうと、なんだって生命体として再構成出来る。ピクシーにしてんのは、一番利用えるからだからな。
とまぁ、こんな風にお金の価値と連動して、生命体を呼び出す能力なんだが、さて問題だ」
と、彼はそう言って後ろに居た金塊を持ったピクシー達を自分の前へと出していた。そして金塊に軽くタッチすると、4つの金塊がうねうねと動き出す。
「金貨1枚で劣等種のピクシー、レッサーピクシー。金貨5枚で最々下級のピクシー、ワーストピクシー。
その理屈でいけば、金貨ですら現せないようなこの金塊ならどのような生命体が生まれるのだろうか、ってな」
うねうねと動いていた金塊は宙へと浮かぶと、それは大きな姿へと変わる。
それはさきほどまでのピクシー達とは違って輪郭がはっきりとはせず、けれども今までのピクシーなんかよりかはあからさまに強さが、格というものが他とは一転していた。
ピクシー達は悪魔だった、人だった。少なくとも生物である事は確かだった。
けれども金塊から生まれつつあるそれは、自然。世界の理を体現したかのようなものであった。
「原始精霊とおれっちは呼んでいるが、こいつらの強さは他よりも凄いぞ? なにせ、こいつらはピクシーのような雑事をこなさせるような奴らではない。火や水などの自然を操る、強力な自然と言う現象の担い手達だ。
さぁ、《魔王》候補よ。この《罪双域魔界》の《魔王》になるんだったら、おれっちのこの程度のモンスター達をサクッとやっつけてくれないかな? お前の実力を見なければ、おれっちはお前らをきちんと売りさばけないからな」
パチンと指を弾いて音を鳴らすと、ゴルドデニシュの背後に4体の強力な精霊が生み出されていた。そして4体の強力な精霊達はそれぞれ燃え盛るような火炎を、轟々と流れ渦巻く水流を、天からの裁きにも似た雷鳴を、万物を吹き飛ばす暴風を、それぞれ生み出してこちらへと向けていた。
「《魔王》の力、見定めさせてもらおうじゃないか。
――――やれ! 殺すくらい派手にな!」
ゴルドデニシュの声に合わせ、強力な精霊達は自らが操る元素を俺へとぶつけて来た。
全てを燃やす炎が。
骨を全て切断するほどの量の水が。
神経全てを焼ききるほどの雷が。
天高く連れ去ってしまうほどの風が。
そんなどれか1つでも致命傷になりそうなくらいの力が、俺と言う1人の人間に対して同時に振るわれる。
「おれっちはこの技を【絶滅必死の四撃】と名付けてる。
1つでも人を殺すには過剰戦力な物を4つもぶつけてるんだ。その威力は4倍でも、4乗でも足りない。こんな攻撃を喰らえば大抵の悪魔は死ぬ、魔力の欠片すら残さずに絶滅させる。だからこそ、必殺技なんかじゃなくて必滅技の――――」
と、得意げに話しているゴルドデニシュの横を4色の線が光る。4色の線は彼の精霊達の身体のど真ん中を貫き、精霊達はピクシー達が倒された時と同じく元の姿へと戻る。
「知ってるか?
得意げに自分の能力を話す時ってのは、大抵負けフラグなんだぜ?」
俺はささっと服についた埃をはたくと、ゴルドデニシュの方へとゆっくり歩み寄る。
「走るってのは勝負を急ぐ者のする事だ。
歩くってのは勝負を急ぐ必要のない者のする事だ。
どうだ、哲学っぽくないか? ゴルドデニシュさんよ」
「お、おかしい! おれっちの必滅技は的確に相手を滅亡させる! 今までの相手だって――――」
と、そんな事をほざいているゴルドデニシュの首元を掴む。
「ゲームにおいてはね、必殺コンボってのはないと俺は思ってるんだ。だって必殺って事は必ず相手を殺すような技、そんな技はこの世には存在しない。必ず弱点なり、対抗策がある。俺が神から貰った能力も、万能ではあるが、無敵ではない。けれども、お前のような驕った悪魔を倒すには十分なくらいの能力だ。
――――他人を働かせて、なまけているような悪魔に、必滅技とか良く分からない中二ネーミングさせられるか! しっかり能力を活かすように努力しやがれ!」
その後、ゴルドデニシュは真面目になった。
ピクシー達の無理な労働を取りやめ、週6日勤務にシフトした。元人間としてはブラックだと思うが、ピクシー達がそれで救われた顔をしているのだから、俺はもう何も言わなかった。
ともあれ、完全に俺に服従(絶対に勝てないと本能で察する)したゴルドデニシュから2つ目の承認を得た俺とマキユスさんは、次の魔境――――螺子都魔境へと向かうのであった。
・ゴルドデニシュ
…守牢主魔境の支配者。大鬼族。
特殊なスキル『転生』というスキルを持っており、無機物を生命体に変える事が出来る。彼は主に金貨を妖精や精霊に変えており、金貨の枚数によって妖精や精霊の格を上げることが出来る。生粋のだらけ者。