質話 守牢主魔境編弐
羅明日魔境の主であるキングマグマスライム。それを倒して《魔王》として認められた俺、夜中黒須はユリウス・スカーレットと一緒に次の魔境、守牢主魔境へと向かった。
守牢主魔境。一番最初に訪れた火山地帯のような羅明日魔境とは違って、次に訪れた守牢主魔境はきらびやかな黄金の都市で、誰も居なかった羅明日魔境とは違ってこの魔境では悪魔達がうじゃうじゃと居た。けれども重要なのはそれではなく、この魔境に居る悪魔は2種類に分かれているという所である。
守牢主魔境の1つの種族はお金をばらまいて豪遊する鬼の悪魔達。全員が色鮮やかなテッカテカな彼らは身体が大きければ大きいほど、盛大な調子で豪勢にお金をばらまいていた。
もう1つの種族は小柄なピクシー達。大きさは大きくても30cmくらいで、けれども全員が貧しく、その小柄な身体には似合わない重労働を行っていた。全員が泥まみれやすすや汚れにまみれており、さらには全員の視線が「自分達は弱者である」「劣っている」という卑屈さをこちらに見せていた。
「身分制度……この魔境はそれが顕著なようですね。真ん中の平民を失くして代わりに奴隷階級となるピクシーを増やす事で、悪魔達の豪遊を可能としているんだな」
俺がそう聞くと、見ていられないとマキユスさんは視線を下に向けたまま答える。
「えぇ、絶対的な力上位社会が多い《魔界》では、富める者が富み、貧しい者が貧しくなる。と言うのは良くある事。この魔境は支配者のせいでさらに歪んでいるみたいです、ね!」
マキユスさんが言葉を切ると共に、物陰から襲撃者が現れる。小柄ながら可愛いらしいその襲撃者達は、その手に槍や剣などの獲物を持ってこちらに向かって来ていた。マキユスさんはと言うと、腰のバックへと手を伸ばすとそこから糸を取り出す。
「良い機会だから、妾の能力とこの魔境の真の闇をお見せいたしましょう」
するりと、彼女の手から放たれた糸は大きな網として展開すると、ピクシー達を全員その網の中へと放り込まれる。
「捕縛あんど収束」
彼女が手を握り絞めると、網が縮んでピクシー達は喚く。その喚き声がどんどん小さくなっていくと、網から1本の糸の状態になる頃にはピクシー達の声は消え、最後には金貨が落ちる。
「……モンスターを倒したから報酬、という訳か」
俺は金貨を手に取る。金貨には見た事がない男の顔が描かれているが、マキユスさんに見せたが「普通の金貨」と断言していたのでその通りなのだろう。
RPGゲームだとモンスターを倒すと報酬としてアイテムやお金が落ちたりしたりする事があるが、これはその一種なのだろうか?
「いえ、残念ながらこれはゲームなんかじゃありません。
敵を倒してお金が落ちる、これがこの魔境の支配者の能力です」
「いや、ゲームだろう? 悪魔を倒すとアイテムやお金が落ちるのは、《魔界》だとポピュラー……なんじゃないのか?」
「そんな事はありませんよ。悪魔は倒されてもアイテムやお金が落ちたりなんかはしませんし、身体の維持を出来ずに消えるのがほとんどですね。あなたが前居たニホンのように、骨や皮は残ったりなんかはしませんよ。
ゴルドデニシュ、それがこの守牢主魔境の主である鬼の名前です。彼の能力は転生、無機物を生命体へと変換する力……分かりやすく言えば"お金をピクシーへと変える力"です。彼はその能力を使い、お金をピクシーへと変える事で、さらに多くの大金を手に入れようとしているのです。少量のお金で大金を得る、いわゆる投資に似たような形ですよ。違うのはその少額のお金が生きているという所でしょうか」
いや、それは投資ではないと思うが……。
「大金持ち、あまり敵対はしなさそうだが……どうしてこのピクシー達はいきなり攻めて来たんだ? まだこっちは会っても居ないのに」
「世の中には人を売る事でお金を得る層があるんですよ、残念ながら。
ですので、この大人数のお目当ては妾達。いえ、彼らの雇い主からして見れば、妾達を売って得た報酬がお目当てと言う所でしょうか?」
と、道の脇やら草葉の陰から現れたピクシー達は全員こちらに武器を向けていた。その顔は怯えていたが、自分を生み出した創造主の命令には逆らえないのだろうか、それを止めようという意思は感じられなかった。
「……なぁ、マキユスさん。《罪双域魔界》の《魔王》となれば、これも止められるのか? このピクシー達の無意味な重労働、という意味だが」
「ある程度、ではありますが支配者の《魔王》として命令する事は出来るでしょう。ゴルドデニシュに対して、《止めろ》は無理でしょうが《自粛しろ》程度には。まぁ、それも勝って見ない事には分かりませんね」
そうか、なるほど。
とりあえずゴルドデニシュという奴を止めれば、このピクシー達ももう少しまともな対処がされるんだな、と納得した俺はそのまま奥の城を見る。
黄金の、この魔境でもとびきり大きくて、悪趣味なくらいに黄金色に輝くその物体を見る。
「じゃあ、倒すか。
この光景は、俺は見ていてイライラする」