陸話 守牢主魔境編壱
守牢主魔境。《罪双域魔界》の中でも有数の豪遊地帯であるこの魔境は、街全体が黄金に輝いている金持ちと言う言葉が相応しい場所である。一日中明かりによって光輝くこの魔境に暗闇という言葉は似合わない。裕福と言う言葉が似合うこの魔境には1つの明確なる格差が存在する。
妖精、大きさとして10~30cm程度の小柄な彼らが文字通り汗水垂らして働く事によって、この魔境の支配者と一部の有力貴族悪魔が遊んで暮らせる。一方的に極めて貧しい者を作る事で、富める者をさらに富めさせるという仕組みである。
そんな守牢主魔境の支配者、黄金の大鬼――――ゴルドデニシュは白銀の豪華なソファーに寝転がりながら、ごくごくと大酒の入った樽を樽ごと飲み干していた。
「デニシュ様、ご報告があります」
と、上機嫌で大酒を飲むゴルドデニシュに10人、いや10匹のピクシーが仰々しく構えると、一瞬にして上機嫌から急転して不機嫌な顔を見せるゴルドデニシュ。
「なんだよ、なんだよぉ。おれっちは今、こうやって豪遊しているのが分からないのか? おれっちの日常は豪遊。金を集めるのはお前らの仕事、それを使うのはおれっちら悪魔の仕事。
報告なんかどうだって良いんだよ。金、金、金を持ってこい」
「……この《魔界》に来た新たな《魔王》様候補についての情報なのですが」
「それを先に言わんか馬鹿者!」
バンッと怒気を込めて床を叩くゴルドデニシュ。その顔には自分が悪いという気持ちは何一つ思っておらず、傲岸不遜な態度であり、それに対してピクシー達は一瞬きりっと睨み付けたような気もしたが、すぐさま元の感情が感じられない、いや押し殺したような顔へと戻る。
「今度の《魔王》候補様はこの隣の羅明日魔境にて降り立ちました。種族は魔人族の一種、身体的特徴や身体能力に優れている点は不明、もしくはないと考えられます。また、連れとして《磨紅魔界》の元魔王、マキユス・スカーレットが居ました」
「ほぅ、マキユスか。《磨紅魔界》と言えばマキユスが治めていた頃は、大掛かりな美術品の輸入輸出によって、この守牢主魔境の財源に匹敵するほどの大財閥魔界となっていたあの魔境の支配者か。確かスタイルも良かったし、あの商魂テクニックは欲しい所だな。
それで、その《魔王》候補と言うのはどれくらいの強さだ? 金になりそうか、それともならなさそうか?」
そう聞くとピクシーの一番左に居た、黄色い肥満体の者が「分かりません」と答えた。
「羅明日魔境のキングマグマスライムが放った武器状の溶岩を打ちかえし、さらに肉体強化スキルを使っているのかと思わんばかりの身体能力の高さ。しかし、その者はその強さを自分が貰ったスキルの副作用と答えていました。それが本当かどうかは分かりませんが、本当だとするとまだ底が見えません」
「ほぅ、黄色いのにそう言わせるとなると油断できないな。おれっちは黄色いのが好きだからな。黄色と言えばお金の色だしな。……で、どれくらいでこちらに来るんだ?」
ふんっとソファーにきちんと座り直して、支配者然とした面持ちで座っていた。それに対して、真ん中の緑色の他よりも小柄なピクシーが「え、えっと……」と戸惑いながらも答える。
「この城に辿り着くのはおおよそ200時間……くらいでしょうか。この魔境に入るのはあと19時間ほどです」
「ふん、まぁそれくらいか。なら、これくらいで良いか」
と、ゴルドデニシュは懐から金貨を放り投げる。何枚も、何十枚もの金貨を投げて、ゴルドデニシュはにやりと笑っていた。
「金ならいくらでもある、金になるそいつらを捕まえろ。今まで通り、な。
なにせ、金はいくらあっても困らねぇからな」
ゴルドデニシュ、《罪双域魔界》を構成する7つある魔境の1つ、守牢主魔境の支配者。
金を得るためならなんでもする、金第一主義。
ただいま捕まえて売りさばいた《魔王》候補者数――――228人。