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伍話 羅明日魔境編弐

《GUOOOOOO!》


 と、溶岩から現れたドラゴンの姿をしたそいつは1つ大きな雄叫びをあげると、そのままどっぷりと溶岩の海の中へと再び沈んでいく。そして少しした後、そいつが沈んだ所から2匹の銀色の像が飛び出して、黒く焦げた土地に落ちる。落ちた像は顔に恐怖を張りつけた2匹の悪魔の、リアルな像だった。


「この像、さっき食べられた悪魔達か?」


「えぇ、恐らくそうでしょうね。敵を知らなければ対策が立てないでしょう、今からお教え致します。

 スライムというのは、最初に食べた物によってその生態が大きく異なります。毒を食べてポイズンスライム、鋼を食べてメタルスライム、血を食べてブラッドスライム……などですが、この魔境のスライム、キングマグマスライムはそれとは一線を画した生まれ方をしたのです」


 と、そう言ってマキユスさんは軽く語り出す。


「羅明日魔境の元となった《羅明日魔界》は、元々悪魔が住む必要のない《魔界》。元居た《魔王》も、ただそこに居るだけのまるで世捨て人のような生活を送っていたそうです。

 全域が溶岩というその《魔界》には、他の《魔界》から出たごみや遺体などが捨てられ、灰として処理されていました。所謂、ごみ処理場ですね。そのごみ処理場にごみと一緒に捨てられたのが、さっきのスライムという事です。なにも食べずに、この溶岩の中で初めて食事を行ったスライムはマグマと一体化して、長い年月を経てキングスライムに……魔境化する前に名ばかりだが《魔王》として振る舞っていた悪魔が消えた今、キングマグマスライムはこの魔境の主となっているという訳です。正直、厄介ですよ」


「あぁ、それは知っている、ゲームで(・・・・)


 スライム、一部のゲームでは最弱の魔物として扱われているがその本質は進化する耐性持ち。

 拳で殴っても、剣で斬っても、銃で撃っても、傷付く事はない。なにせスライムは粘体、粘り気のある液体のようなもの。水を殴っても、斬っても、撃っても意味はないようにスライムに物理攻撃は効かない。唯一、効果的な魔法攻撃も効かないものも居る。勿論、対処法がない事もないが、それでも厄介である事に変わりはない。

 俺が知っているゲーム知識通りだとすれば、スライムとはそういうモンスターである。


「まぁ、唯一こちらにとって嬉しい情報としては、あまり知能が高くない所ですかね」


「……そんな悪魔に認められないといけないんだろう?」


「えぇ、それが《魔王》の条件ですので」


 と言って、マキユスは1枚の紙を俺へと差し出す。そこには7つの余白が用意されており、そのうちの1つである「憤怒」と書かれている場所が赤く光り輝いている。


「とりあえずほとんどの悪魔は力で屈服させればいう事を聞いて従います。スライム程度の低い知能であろうとも、力で屈服させれば強者の主として認められるくらいですから。問題はどう倒すか、ですね」


「それなら簡単だよ」


 と、俺はそう言って石の欠片を手に取ると、それを溶岩の中へと落とす。すると、先程よりも強い雄叫びをあげて、溶岩の身体を持つスライムが這い上がる。そしてきょろきょろと辺りをうかがい、俺の方に視線を向けて口を開けると、背中から生えている翼をゆっくりと羽ばたかせる。

 飛ぶのかと身構えていると、スライムは崖のような絶壁をなめくじのようにぬるりとこちらに這い上がって来ていた。


「あのスライムの動きならば、既に知っている(・・・・・・・)。石とかの投擲物に反応したのではなく、餌となる悪魔の汗……老廃物。生きていると分かる物に対して反応して、捕食する為に顔を出す。

 ……という事で、これで戦えるな。あの支配者(スライム)と」


 ばんっと両手を合わせて音を出すと、俺は武術の構えを取るとスライムに向き合っていた。スライムは歩く度にぽちゃん、ぽちゃんと溶岩の液体を汗として地面に落とし、大きく口を開けるとそこから武器が現れる。


 剣、弓矢、大槌、銃、大剣、槍、ナックル、矛、杖、エトセトラ、エトセトラ……。

 ありとあらゆる銀色の武器が、とろとろと端から熱い、熱い、高温の溶岩を垂らしながら宙に浮かんでいた。そしてスライムはとんとんっとこちらに歩み寄っていた。


「……溶岩の中に落とされたごみの中には折れた剣や錆びた弓矢、軸が折れた大槌、重心がずれた銃などありとあらゆる武器なども熔けています。その溶岩に熔けたものの記憶から、武器の形を溶岩として再構成してるみたいですね」


「えぇ、知ってる(・・・・)


 俺はゆっくりと歩き出すと、スライムは作り出した武器をこちらへと放っていた。剣は回りながら、銃は放ちながら、槍は捻じられながら、俺の方へと攻めて来ていた。

 ひょいっと避けると、地面に落ちた剣はそのまま粘性で熔けた溶岩となっていた。


(――――落ちた瞬間、溶岩に戻るか。まぁ、ただ武器の形を真似ただけの溶岩って事か)


《GUOOOOOO!》


 投げられた武器群を避けながら、俺はキングマグマスライムへと近付いて行く。近付けば近付くほど、その武器の多さと種類が増えていく。

 そんな俺を見て、マキユスは声をかける。


「ねぇ、クロス。あなたは枢木エヴァンジェリンからなにか能力(スキル)を貰ってるんでしょう? そのスキル、キングマグマスライムに通じるの?

 マグマの身体で、物理攻撃が効かないスライムに、どんなスキルで戦うのか楽しみですよ」


 ワクワクしているマキユスに、俺は少し嘲笑した後に答える。


「あぁ、それだけどな。俺が貰ったスキルは"三つ(・・)"。けれども、こいつと戦った後もまだ残りの6つの魔境の支配者さん達に認めなければいけないんだろう? ほとんど悪魔は力で屈するのならば、これから何度も戦うんだろう。

 ゲームでも、こちらの手の内がバレているならば対応策が取られて面倒になる」


 これから火事が起こると知っていたら、消火設備を整える。

 銃で暗殺される前に、防弾チョッキを着て置く。

 転ぶ前の、杖装備。


 ……とまぁ、そう言う風に予め対応出来るなら対応する。


 そう言う意味でも、情報を小出しにする事は大切である。この戦いも見られている可能性がある。俺が相手の立場なら、多分そうする。


「――――だから今は、その副産物のみで戦おう」


 と、俺はそう言って投げられた溶岩製の武具を手に取る(・・・・)。そして手に取った溶岩の武具をそのままキングマグマスライムに投げつける。


《GUO?!》


 投げ返した武具はキングマグマスライムを切り裂く。


「見掛けは武具でも、その本質は生きる溶岩スライムの身体の一部。俺は返す際に、俺が持つ魔力を加えさせて貰った。それによって中身はまた別物となってしまった。ただ跳ね返ったのと違って、俺の魔力が加わっている別物。一瞬で打ち直した別の武具はお前の身体を貫く。

 ……ほら、弾はお前が出してくれるのでいっぱいあるぞぉ」


 と、俺はそのまま投げ返し続ける。

 相手が放ってもう止まらない、重力とかの物理法則に従ってこちらに向かって来るのを落ち切る前に触れて、投げて、当てる。


「さぁ、楽しもうじゃないか! この戦い(ゲーム)をさ!」






「頭イカレてますね」


 と、マキユスは冷たく言い放つ。


 マグマとなるのを知ってて、武具を持って打ち返す。

 確かに他人の魔力がこもった物を受けると不調になったり、ダメージになったりはするが、彼はどこで知ったのだろうと、マキユスは考える。

 少なくとも枢木エヴァンジェリンが教えている時間はなかったはずだ。


 スキルは3つ、その副産物といったが、得体が知れない。

 普通ああいう場合、ほとんどの人は1つ強力なスキルを貰うか、あるいは際限ないほどのいっぱいのスキルを貰うかのどちらかのはずだ。

 だが、3つといった。3つと断言していた。


(つまり、それは1つの作業に使うスキルなのでしょう。

 『身体防御』と『自動反撃』のように、防御と反撃を両立させる。複数のスキルを組み合わせて1つの動作として構築する。発想としては悪くないですが、それにしてもマグマを持って投げ返すと言う行動が、副作用になるような組み合わせってなんだろう? 今、私が考えても分からないなら、確かに他の6つの魔境のけん制になってますね。

 実際、見てましたし(・・・・・・))


 彼らからして見れば、突如として沸いて自分達の上に立とうとする者。

 気になって密偵を送るのは至極当然。


(しかし、まぁどの魔境も対応に困るでしょうね。どんなスキルなのか分からないんだから。

 けれども、スキルなんかよりもっと怖いのは――――彼の顔)


 ゲーム(・・・)

 彼が言葉の端々に入れ込むその言葉は、こちら側として見れば恐怖にしか感じない。


 熱量を持ったマグマが、武具の形となってこちらへと向かって来ている。

 そんな状況で彼は、笑っているのだ(・・・・・・・)。楽しいと、命のやり取りをそう認識しているのだ。

 自分は夢の中に居て、相手は空想上の夢の住人かなにかで、自分は死ぬ事はない。

 そんな事を日々感じているような、なにも映し出していない虚無の瞳。


(妾は怖い、あんな瞳、怖くてしょうがない。

 ゲーム感覚と言えば聞こえがいいかもしれないが、自分の命がかかっている状況でもゲームのように楽しめる狂人、怖いに決まってるじゃないですか)


 あんなのとしばらく行動しなければならない、それを考えるとゾクゾクする。


 ――――けれども妾はニヤリと笑う。


 マキユス・スカーレットは悪魔だ、人間とは違う。

 狂っている、怖いと感じる。悪魔はそういうものに美学を感じる。

 自由の象徴たるその瞳、純粋なる悪を感じるその表情、


「やばいですねぇ、少し濡れてきましたよ」


 ――――すっごくゾクゾクする。




 ここは魔境。

 悪魔という人間とは違うものを軸に生きる悪魔達が暮らす場所。

・キングマグマスライム

…羅明日魔境の支配者。スライム族。

羅明日魔境の溶岩と一体化したスライム。《羅明日魔界》の溶岩には大量のごみや遺体が入れられており、溶岩には金属の記憶が宿っているため武具の形として再構成出来る。普通の生物が持つ心臓の部分に当たるキングマグマスライムの核は羅明日魔境の溶岩全域に広がっており、キングマグマスライムを倒そうと思うと溶岩全域を倒さないといけないので事実上倒すのは不可能である。

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