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惨話 神的干渉編惨

「ククク……あはははははは!」


 と、《罪双域魔界》へ《魔王》として送り出された夜中黒須が居なくなって、そこで初めて枢木エヴァンジェリンは今まで溜まっていた物を吐き出した。つまり、ゲラゲラと笑い出した。


「普通、そう来るかな? なんでも叶えられるという状況なんかで、そんな事を願うかな?

 いや、こちらとしてはそれが一番楽で、簡単で、都合が良かったけれども、そんな都合のいい能力を選ぶなんてねぇ。つくづく馬鹿馬鹿しい、いや無謀だと笑いたいくらいさ」


「――――下品ですよ、エヴァンジェリン様」


 と、げらげらとお嬢様らしからぬ大口で笑う彼女を、後ろから1人の女性が(たしな)める。エヴァンジェリンが後ろを振り返ると、そこに居たのは絶世の美女。

 

 少し健康的に焼けた肌に宝石のように輝く水晶のような瞳、着ているのは蜘蛛の巣をイメージしたようなデザインが施されている藍色のベストを羽織っている。スラッとしたモデル映えしそうな身体つきで、異性どころか同性をも羨ましがらせる艶めかしい腰回りと胸元を服越しとは言え垣間見せる美しい美女。

 腰には黒いセカンドバック、中からは色取り取りな糸が見え隠れしている。足はスラッとして無駄な筋肉がなく、右手は神が決めた黄金律に沿うかのように美しく存在していた。

 唯一、左手は存在しておらず、肩の付け根から綺麗になくなっていたが、逆にその不完全さが彼女の神々しさという美しさをさらに高めていた。


「相も変わらず、人が悪い。いえ、この場合は神が悪いと言うべき? どちらにしても語呂も悪いですし、言い換えも悪いです。とりあえず妾から言わせて貰えれば、『最悪』とでも言っておきましょうか」


 と、片腕がないその美女は悪態を吐きつつ、残っている右手でエヴァンジェリンの肩を掴む。


「……で、私を呼び寄せたのはどう言う意味なのかしら? 《魔王の神》……いえ、《魔界(・・)の神》枢木エヴァンジェリン」


「なにって、決まってるじゃないですか。《罪双域魔界》についてですよ。《磨紅魔界(すれっどまかい)》の元《魔王》、マキユス・スカーレット」


 と、エヴァンジェリンはそう言って立ち上がると、元《魔王》――――マキユス・スカーレットへと視線を合わせる。


「《魔王の神》が《魔王》について信仰深いように、《魔界の神》たる私の関心は《魔界》にしか向いておりません。だから、彼が死のうが、生きようが、《魔界》が、《罪双域魔界》さえ無事ならそれで良いんですよ。そのために、わざわざ《魔王の神》などという偽りの称号を用いて騙した訳ですので」


「……とりあえず妾から言わせて貰えれば、『偽悪』と言っておきましょう。さっき彼に語っていたのも、全てが本当という事ではないのでしょう?」


「おやおや? 嘘を吐いたつもりはありませんよ? 複数の《魔界》が連結した連合《魔界》というのは実際にありますよ? 《罪双域魔界》もその1つだと説明しましたが? それのどこが間違いだと?」


「……確かに複数の《魔界》が連結して連合して、1つの大きな塊となった《魔界》は確かに存在はしています。ただし小さな島程度や領国程度しかない、本当に小さな物が合わさったという形でならであり、今回のような名称持ちで、どれも大きな《魔界》が連結したケースは過去に例がありません。

 そ・れ・に、一番大事な所は既に《罪双域魔界(・・・・・)には(・・)魔王(・・)が居る(・・・)じゃないですか(・・・・・・・)




 《罪双域魔界》……それは7つの《魔界》が奇跡的な確率で合わさって生まれた巨大《魔界》。元となった7つの《魔界》はそれぞれ魔境と呼ばれており、7つの魔境にはそれを統治する領主、《魔王》代わりの管理者……魔神(まじん)が居る。つまり《罪双域魔界》の《魔王》になるという事は、その7人の魔神に王として認められる事。

 分かりやすく言えば地球全ての国の王よりも上に立ち、地球の覇者として認められる事。違うのは国の数と、その国に住む者が人間か悪魔かという事が。


「そんな《罪双域魔界》の《魔王》を、赤の他人……ただの一般人なんかに頼むなんて。

 軽く見積もっても最低、普通に見ても最悪ですね。


 そんなにも《罪双域魔界》、いえ《魔界》が大事なのですかい? ――――《魔界の神》枢木エヴァンジェリン」



 "大切に決まってるじゃないですか"


 言葉にせずとも、エヴァンジェリンの顔はそう語っていた。


「……まぁ、とりあえずはそれで良いとしましょう。

 で? 元《魔王》なんかの妾に、なに用ですか? まさか、彼にどうすれば良いかという指導役として付いて欲しいとか? 社交性最底辺のあなたよりかは妾の方がマシですが、それならばあの《魔界》に送る前に話しかけて下されば……今からだと遅すぎだと思いますよ」


「いえいえ、遅い……なんてことはないですよ。

 なにせ今からあなたは使い魔として、夜中黒須について貰うのですから」


 えっ、と驚いて口をぱくぱくとさせているマキユスを尻目に、エヴァンジェリンは言葉を続けていた。


「《魔界》。その大きさは想像以上であり、なおかつ君が言っていた通り《罪双域魔界》はかなり特殊な構造の《魔界》。少なくとも名実ともに《罪双域魔界》の《魔王》となるためには、7つの魔境の支配者たる7人の《魔神》に認められなければならない。しかし今気付いたんですけれども、あそこを案内する者を付けるのを忘れていたんです。

 だから《罪双域魔界》を案内して、その上で《魔王》として先輩であるあなたに指導者として付いて行って欲しいんですよ。まぁ、君の上司には既に連絡は済ませています。後は実行するだけ」


「……了解は、妾の了承はないんですか?」


「――――知らないんですか?」


 うっすらと、全身が光っている中にて、マキユスはエヴァンジェリンを睨み付けていた。そして視界が光に包まれている中で、マキユスの瞳の中でエヴァンジェリンは悪そうに微笑んでいた。


「――――神と言うのはどこまでも理不尽で、不条理で、そして我儘なんですよ?」


 そのエヴァンジェリンの顔は悪者らしく、悪役のようであり、同時に《魔王》のようであった。

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