曲解最終話 深淵地域脱出編微意 狐娘之章
――――《罪双域魔界》の魔力調整を初めて100年後。
俺をこの世界へと送った神様、《魔王の神》枢木エヴァンジェリンがやって来た。この深淵地域には誰も入れないはずなんだけれども、神様の枢木エヴァンジェリンにとってはこの程度なんてことはないらしい。
「いやー、ほんとーに助かったよ。まさか、崩壊するはずの《罪双域魔界》をこんな形で再調整してくれるなんて思いもしなかったよ」
魔力の再調整をしてるのでろくに話す事が出来ない俺はただ頷く事しか出来なかった。ろくな会話ではなかったが、それでも枢木エヴァンジェリンは満足そうにこちらに話しかけて来た。
「ほんとーは《魔王》として夜中黒須くんにやって貰っている間に、魔力の再調整の調査員を派遣するつもりだったんだけどね。君は10万年かけてやるつもりだったみたいだけれども、その調査員なら5万年くらいで終わるはずなんだけどね。
――――なんなら今から変わるかな? 君よりも少々不真面目で、もしかしたら適当な仕事によって、今よりも魔力が暴走する可能性もあるけどね?」
そんな、不真面目な人と最初から変わるつもりはない。自分がすべき大切な仕事を人任せにするつもりはない、俺はそう告げる。告げると言っても、今の俺は思考だけしか出来ないのだから。
けれども、神様は十分に理解してくれたようである。
「あぁ～、あっ。そう言えば居るよねぇ、"大切な仕事は、信頼出来る自分自身でやっておきたい"というような、仕事中毒者さん。
まぁ、これ以上無茶しないでくれるとありがたいよね。勝手に無茶をするのは結構だけど、それを見て心配に思う人も居るんだから。君を助けるために1人の人間が頑張っているみたいだからね」
そう言って、エヴァンジェリンは消えた。
俺はそのまま何十年、何百年も、《魔界》の魔力調整に勤めるのであった。
10年もすると、この道に入ることを少しだけ後悔するようになっていた。
50年もすると、基礎を確立した。
100年もすると、戸惑う事がなくなった。
200年もすると、天明を悟った。
300年もすると、なにを聞いてもどうじなくなった。
500年もすると、心のおもむくままに行動しても、道理に違うことがなくなった。
そして、俺は――――
既に何年が経ったのかは、分からない。
どれだけ魔力の再調整が終わったのかは、分からない。
永遠と続く時間の中、ただ黙々と作業の日々が続く。
《俺》という意識が希薄に消えつつある中、そいつは現れた。
「やったぁ、こん! ようやく開いたこん! みっしょん、こんぷりいとなんだこん!」
いっぇーい、と嬉しそうな声をあげる妃紅葉だった。1000年という年月を感じさせない身体ではあるが、その背後の尻尾だけが前よりももっとふかふかに、前よりも色が濃く色づいていた。
妃紅葉は嬉しそうにこちらを見つけると、その場から飛びあがると俺に向かって飛びつく。開いた扉の外を見ると、そこは既に夕暮れの時間帯だったのか、外は真っ赤に染まっていた。
「クロス様クロス様クロス様クロス様クロス様クロス様クロス様クロス様、クロスさまぁ～! 会えた会えた会えた会えた会えた会えた会えた会えた、会えたぁ～!」
会えてうれしくなって感情が制御出来ないのか、そう言ってむぎゅーと抱きしめたまま妃紅葉は離れない。その顔は満面の笑みであったが、俺は不思議で仕方がなかった。
10万年かかると思っていた作業が急に終わりを告げていたからだ。この扉が開いたというのはそう言う事なのだろう。だが、ただの再調整でない事は確かである。
10万年かかる《魔界》の魔力の再調整。その作業は微々にして遅々、そんなに容易くやれる作業ではない。
変換すべき魔力を体内に入れて再調整して放出を繰り返す作業。その作業スピードは1000年かけてやっと1％ほど、10年単位ならば0.01％ほど変わってるなと徐々に感じるものであった。もし仮に別の魔力変換装置を作ったとしたら1年毎にその変換率は増え、10年で1％の再調整率へと成長――――と言うのなら分かる。 だが、妃紅葉が来る前――――1％程度しか終わって無かったはずの魔力の再調整が、急に100％になったのだ。
"急に"という部分に対して、どことなく不気味さを感じる俺。
そしてそれを行ったと思われる妃紅葉。彼女は見かけこそ前と変わっていなかったが、その魔力の質は違っていた。
魔力の全容が見えない。これだけ近くに居て《魔界》という膨大な量の魔力に長年触れて来た俺は、子の近くなら普通は相手の魔力がどれほどのものか判別出来るくらいにまで成長していた。そんな俺が、《魔界》の魔力の大きさを感じる事が出来る俺が感じられないほどの量の魔力。
ひとしきり俺に抱きついていた妃紅葉。ある程度楽しんだ妃紅葉はにっこりと顔を微笑ませる。
「クロス様クロス様! 妾ね、妾ね! 物凄い頑張ったのよ! 聞いて聞いて、ねぇ聞いて聞いて!
妾ね、『価値ある世界線の妃紅葉』ではこの《魔界》の魔力を再調整出来ないっていうのがどうしても残念だったの。だって、どんな状況でも対処出来る力……それが妾の取り柄なんだから」
――――だから、妾がんばったの。
ニコリと笑う妃紅葉。その時、ゆっくりとだが空が動いた気がした。
「妾ね、いっしょーけんめー考えたの。どうすれば良いのかって、本当にいっしょーけんめー考えたの。
……で、思いついたの。このままじゃ《魔界》が爆発しちゃうなら、爆発しないように生み直せば良いって。
クロス様、空を見て! あの赤いの、空じゃないの! 他のものなの!」
動いたように見える空。それは勘違いでもなんでもなく、実際に動いていた。なにせ、それは生き物の一部……ただの尻尾なのだから。ただし、あまりにも大きくて、そう見えないだけで。
「妾ね、あの後成長したこん! 99だった命のストック上限を9999まで増やして、10個の命を消費する『価値ある世界線の妃紅葉』を越える切り札を生み出したんだこん。それが命1000個を消費して、自分が望む世界へと改編して連れて来るという能力……『夢ある世界線の妃紅葉』こん。
妾、それを用いてこの《罪双域魔界》そのものを爆発しないようにする、そんな存在へと変わったんだこん。それがあの巨大に見える尻尾なのこん」
空一面を覆い尽くして、夕暮れが来たとさえ思い知らせるほどの超巨大な尻尾。あれが尻尾……つまりは本体はさらに馬鹿でかく、宇宙をも越える存在になったんだと、妃紅葉は何事もないようにそう語った。
「宇宙そのものに干渉できるほどの大きさと力……星そのものを食べて生み直す力を得た妾。
その能力を使って、この《魔界》を爆発しないように生み直したこん! もうこれでこの《罪双域魔界》は爆発しないこんよ! この身体も、あれがあまりにも大きすぎるこんから、ちょっと分身を使ったんだこん」
星そのものに干渉出来るほどの力を得た妃紅葉。そんな規格外の力を用いたと語る彼女は、俺に対して褒めてと軽く言うが、俺は戸惑うしかなかった。
とてつもない大きさを誇る宇宙でさえ干渉できるようになった彼女に、どう接していいか分からなかったから。
「あっ、それとこれも言っておくこん。実は……制限時間付きだった命10個の変身と違って、今回のは制限時間がないこん……。命1000個も使ったから当然なんだこんが――――あの大きさじゃあ、クロス様と愛し合うのは難しいと考えたこん! だから妾、またしても考えたんだこんよ! なら、それを可能とする大きさまで文身体を作ろうって!」
――――その結果がこれだこん!
と、俺に話しかけて来ていた分身体の妃紅葉は後ろの――――俺が出来るだけ見ないようにしていた、1万も越える妃紅葉達が一斉に詰め寄って来て……
『妾、頑張ったこん! だから一生懸命、愛してね?』
曲解ですので、宇宙サイズとか、1万体の嫁とか、良く分からない結果に……。
さて、こんな形ではありますが、これにて今作は終了となります。
読んでいただいた方、本当にありがとうございました!
