弐拾弐話 繰異怒魔境編肆
物体のみならずそれを体内へと取り込むスキル、『無限に吸収する悪魔』。
体内に取り込んだものに合わせて身体を再構成するスキル、『模倣する盗賊』。
異物を身体から取り除くスキル、『吐故納新』。
「――――その3つが俺が《魔王の神》枢木エヴァンジェリンから貰ったスキルである」
20年以上続くあの伝説的なゲーム作品、昔からゲームが大好きな俺は《魔界》で悪魔達の王である《魔王》になって欲しいと頼まれた時、すぐに頭に浮かんだのはそのゲームだった。典型的な現代っ子であった俺はパソコンとかウェブを見て、そう言われていたことも知っていたし、だからこそそれを可能とするための、以上の3つのスキルを《魔王の神》枢木エヴァンジェリンから貰ったのだ。
「炎ならファイアークロス、剣ならソードクロス、光線ならビームクロス……分かりやすい例で言えばその辺に成れれば良かったんですが、どうもそこまで分かりやすい形にはこの身体は変化出来なかったみたいで、それだけが残念ですかね」
まぁ、それでも良かったと言えるのかもしれない。なにせこの《罪双域魔界》の問題を、《魔王》として対処出来そうだから。それだけでも良かったと言える。
「……やはりな。あの対決を、ナナミ・ブスジマとの対決の際、クロス……お前は魂をも破滅へと導くナナミの猛毒を喰らって死にかけ、そして即座に耐性を身に着けて、毒で戦っていた。あたかもナナミの毒をコピーしたかのように」
魂を滅すると言う強力な毒、あれは本当に事実だったのか。確かにそんな猛スピードで身体が熔けているような感覚はあったし、なにか身体の芯にまで猛毒が回っているような感覚は合った。
そんな猛毒を身体の中に入れていたナナミをコピーすれば耐えられると思っていたが、その判断はどうやら正しかったみたいである。
「――――ファトトト……その反応はどうやら正しかったみたいですね。ちゃんと正しいと証明出来たところで、我が下剋上を行った理由が分かるだろう。
なにせ、我はその対抗策を持っているのだから!」
ぎゅるるるっ、と彼の鱗を纏った両腕が黒い鋼鉄の腕に変わって行く。そして鋼鉄の腕の先から刃物が出て来ると、鋼鉄の腕の上で高速で回転して行く。
「怪盗七つスキルの1つ、『変装術』!
本来は顔のみを別人に変えるスキルであるが、我はこのスキルをさらに成長! 変質させた! 今では身体のどんな部分であろうとも、別の部分へと変質させる事が可能となった! ただでさえ硬いドラゴン族の腕の上に鋼鉄の硬さを加えて、我はこの技を生み出した!」
高らかに笑いながら鋼鉄の腕の上で刃物を回転させるカイトドランの腕はまるで掘削機のようであった。カイトドランはさらに翼を、噴射装置へと変えていた。
ブースターから出る火炎によって自由自在に高速で飛び回るカイトドランは、俺の真上にて空中で停止する。
「他の6つの怪盗スキルに頼るまでもない! このドリルの回転の一撃によって、沈めて見せる! コピーすら許さないほどのスピードこそ、クロス! お前から《魔王》の座を奪って見せる!
怪盗奥儀、ドリル・ファントム・シュゥゥゥゥゥト!」
そしてカイトドランはドリル化した腕を前へと突き出し、そのまま俺に向かって突進。コピーする間も与えないという言葉の通り、カイトドランのスピードを俺は追う事は出来なかった。そもそも相手から能力を頂戴すると言うスキル、『無限に吸収する悪魔』は確かに相手から炎などの魔力を手に入れて自らの力とするスキルではあるが、このスキルは元となったゲームとは違い、『対象に直接触れなければならない』という欠点が存在する。
今回の場合、カイトドランのドリルに対抗する為にドリルを生み出そうとすれば、あのドリルが俺の身体を貫く前に触れるという、無理難題な自体が発生する。そんな事は……そう、出来ないのである。
カイトドランは怪盗七つスキルのうちの一つ、相手のスキルを読み取る『価値鑑定眼』によってそれを理解していた。故にだからこそ、ドラゴンの悪魔としての特性を全て封じた。
ブレスを吐けば吸い取られ、硬い鱗で殴れば避けられて吸い取られる。ならば、一瞬で相手を倒す一撃必殺の攻撃を、相手が触れる前にぶつければ良い。そこまでの勝利の論理があったからこそ、カイトドランはクロスに戦いを挑んだのだから。
決着は……"一瞬"だった。一瞬で、片が付いた。
「かはっ……!」
腕をドリルのように回転させていたカイトドランは血反吐を吐き、その場に倒れ伏す。
そして、俺は"カイトドランと同じく鋼鉄化した腕"を元に戻すと、カイトドランに、いやこの戦いを見ていたこの《魔界》に住まう全ての魔物達に向けて言い放つ。
「《魔王》と言うのは、この程度で簡単に倒される存在ではない。
分かったら止めておくんだな。《魔王》になる、というのはそんなに簡単な事じゃない」
・カイトドラン
…繰異怒魔境支配者トレジャドランの息子。ドラゴン族。
怪盗に憧れており、トランプなどもカッコいいと思って使っている。自分の持つスキルを怪盗七つスキルと称しており、その1つの『変装術』を用いてドラゴンの腕を武装する事で驚異的な攻撃力を手に入れる事に成功する。