弐拾話 繰異怒魔境編弐
羅明日魔境のキングマグマスライム、守牢主魔境のゴルドデニシュ、螺子都魔境の妃紅葉、蔵賭弐位魔境のライブラ、繰異怒魔境のトレジャドラン……そして新たに閻毘遺魔境のナナミ・ブスジマの名前を加えて、これで《罪双域魔界》の7つの魔境のうち、俺は6つの魔境の支配者からお墨付きを貰った。残る魔境は1つだけ、富羅射土魔境の支配者である。
富羅射土……今までのように七つの大罪を意味しているならば傲慢を意味するプライドから来ているのだろうが、"傲慢"な魔境ってどんな魔境だろう?
まぁ、どんな魔境だろうと構いはしない。行ってやる事は変わらない。
その魔境の主である支配者と話をしたり、実力を認めさせる――――それで終わりである。
ナナミ・ブスジマを退け、マキユスと妃紅葉と合流した俺達は閻毘遺魔境を出た。そう、最後の富羅射土魔境へと向かうために、繰異怒魔境の道を歩いていた。
《罪双域魔界》の構造上、富羅射土魔境に行くには繰異怒魔境を通らなければならないらしくて、マキユスさんは少々謝っていたのだがぼくとしてはどちらでも良かった。まぁ、これからこの《罪双域魔界》の《魔王》となるのだから、どんな場所か見ておきたかったというのもあった。今までは全部の魔境を周っているのだからコンプリートしてしておきたいという気持ちの方が強かったが。
……えっ? 蔵賭弐位魔境には行ってないって? 大丈夫、そのうち行くのだから。
と言う訳で、繰異怒魔境を歩いているのだが、
「……なんだかずいぶんと寂れた場所だな」
繰異怒魔境は変わり映えがしない、真っ白な岩肌ばかりが続く岩山地帯だった。山と山の間が不自然な等間隔で並んでおり、山肌にはぽつりぽつりと言った感じに大きめの横穴が開いている。外には悪魔一匹たりとも見受けられず、その代わりに横穴からは《ブヒヒヒッ!》《グギグギギギッ!》という奇怪な笑い声がこだましていた。
「……ううっ、相変わらず不気味な魔境だこん。元々、ここに居るのがドラゴンばかりってのが理由の1つでもあるこんが」
「あぁっ、そうですね、『収集癖の変態悪魔』、それがドラゴンという悪魔ですからね。
収集物を外に探しに行く時以外は、洞窟で収集物を見て笑い声をあげている。自分の世界にひきこもる変態達、それがこの魔境に居るとされるドラゴンという種族なのですから」
同行者の2人からは辛辣な言葉ばかりが聞こえる。
ニホンに居た時だと、ゲームの中で見るドラゴンはとても強い生物として出て来たのだが、どうやら《魔界》で見られる本物のドラゴンは、変態と呼ばれるような種族だったらしい。なんだか自分の知っているドラゴンが汚されたみたいで、ちょっぴりだけショックである。
――――いや、ゲームとかでも財宝を住処に集めていたり、あまり巣からは出なかったりするようなものもあったような気が……そう考えると正しいのだろうか? けれども洞窟の中から聞こえてくる奇声は、なにか違うかも知れないが……。
「でもまぁ、この魔境は素通りできるからありがたい」
既にこの魔境の支配者であるトレジャドランからの承認は、蔵賭弐位魔境の支配者であるライブラから念話という形ではあるが、連名にていただいている。
流石にこの山々にある洞窟を1つ1つ探りながら、魔境の支配者を探すのは骨が折れる作業になりそうである。2人の話からすると、ドラゴン達は収集物以外のことは無関心みたいだし。
そう思いながら繰異怒魔境の、どこまでも続く白い砂地の道を進んでいると――――マキユスがスーッと瞳を線のように一本の筋へと変わり、糸を構えていた。両手で出した糸を組み合わせて、蜘蛛の巣のようなものを作り上げていた。スッと、蜘蛛の巣を作り上げると同時に糸にトランプがベトッ、ベトッと、貼りついていた。
「……トランプ?」
糸に貼りついたものがトランプだと認識した瞬間、それは煙のようになって消えていった。妃紅葉がトランプが飛んできた方向を、その辺り一帯を燃やすほどの大きな火炎にて辺り一面を火の海に変える。
火は30秒ほどついていたと思うと、火が消えると同時に無傷の1匹のドラゴンが姿を見せる。
そのドラゴンはただのドラゴンという訳ではなく、黒一色の服装で自分を着飾っていた。頭には黒いシルクハット、そして黒いコートを着込んだ灰色の身体のドラゴン。瞳だけが黄金色に輝いており、背中から見える大きな黒い翼には赤色でドクロマークが描かれていた。
「ファトトト……やはりこの程度の小道具では、大将首は盗れませんか。まぁ、この程度で終わってしまったら拍子抜けすぎて残念だったので、これはこれで怪盗冥利に尽きるって奴ですね。
――――初めまして、我はこの繰異怒魔境を統治するトレジャドランの唯一の子、カイトドラン。今から我はそこに居る男、クロス・ヤナカに一騎打ちを、この《罪双域魔界》の《魔王》という地位を賭けて勝負を挑む者なり!」