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拾捌話 閻毘遺魔境編伍

「【浸食】、それがある限り我々に勝つなんて夢のまた夢。大人しく、死んでください」


 今度は毒の槍を作り出したクバイは、妃紅葉は今度は雷を放つ。目にも止まらぬ速さで動く雷に当たって、その雷と共に毒は森の木々へとぶち当たっていた。しかし毒はゆっくりと、だが確実に妃紅葉の方へと向かっている。


(これが【浸食】の効果……確かに厄介ですね)

有効だろう。毒、という相手の体力をじわじわと削る魔術に対しても良い組み合わせであると思われる。


「ほらほらぁ! 毒ならいくらでも生み出せますよ? なにせこの閻毘遺魔境は毒の魔境なのですから」


 相手に当たるまで止まる事のない、侵入して進撃する魔術。相手を追い込むのに対して、これ以上ないくらい

 次々と毒を物体として放つクバイ、その毒を鋭く放って穿つ雷で木々へとぶつけて行く。毒を遠くへと放り投げていくが、その毒は【浸食】によって妃紅葉の方へと向かっていた。毒は侵食と同時にゆっくりと混ざり合い、戻って来る時には投げる前の10倍以上の大きさになっていた。

 その戻って来た毒を練り上げ物体として、自前の毒を加えてさらに大がかりな物へと変えていた。


 毒を放り投げて、雷で遠ざける。

 大きくなった毒を放り投げて、今度は大きな雷で遠ざける。


 毒を食らうのが厄介だと判断した妃紅葉が毒を遠ざけるも、毒はいくらだろうとクバイから作られて放り投げられていた。


「……こうなったら手助けしなくちゃ」


 クバイの【浸食】は確かに厄介ではあるが、私――――マキユス・スカーレットだったら話はまた別である。相手の長所は毒がいつまでも向かって来る事であるが、それはマキユスの魔術の糸なら関係無い。

 まず魔術で糸を作り上げて、その糸で毒を操作すれば良い。【侵入】とは言っても動作が鈍く、動き自体も実に単調。触れなければ良いのならば、触れずに糸で縛り上げるマキユスなら大した脅威ではない。

 ――――だからこそマキユスは一緒に戦おうとしているのであるが、妃紅葉はそれを拒否していた。


「大丈夫こん、これくらいの相手で頼っていては先が思いやられるこんよ。それに、まだ妃紅葉という真の実力を見せつけるこん。それを用いれば、やはりさして強そうに思えないこん。

 けれどもあの毒なんかで私の貴重な生命(ライフ)を消費するのはしゃくだこんが……これ以上無様な姿は晒す訳にはいかないこん」


 妃紅葉はそう言うと、空中に陣を作り出す。魔法陣、彼女の身体をすっぽり収めるほどの魔法で作られた陣には10個の小さな円が書かれており、その円の中が徐々に赤い色で染まって行く。


「誇ると言いこんよ、『猛毒機械クバイ』。この技を使うのは、かなり珍しいこん。なにせ、貴重なライフを10個も消費する大技だからこんね」


「――――それならその前に猛毒によって押し潰します!」


 妃紅葉が魔法陣を発動するその前に、クバイは大きく、そして邪悪に成長した猛毒を使って妃紅葉へと押し潰す。先程までの猛毒は地面を溶かしていた猛毒が、今や地面の中へと深くしみこんで地中の奥深くまで汚染していた。先程までは濃い緑色だった猛毒は、目も見張るような紅の色に変わったところから見てもその猛毒性は増しているのだろう。何重にも、絶対に蘇られないように幾重にも折り重ねて、妃紅葉が猛毒の山の中へと消える。それを見て安心したクバイは、その毒をさらに混ぜ込んで、その毒性を強めていく。


「――――どんな技を使うつもりだったのかは分かりませんが、この猛毒には抗えない。幾重にも折り重なり、毒同士が融合して生まれたこの猛毒は、我らが主であるナナミ・ブスジマ様からいただいた特別製の猛毒。

 先程までの命を削る程度の猛毒と思わないでくださいね、この猛毒は魂すら削り汚す」


 ジュ――――ッ、と猛毒は地面を、妃紅葉の身体を、そして毒そのものをも汚していた。


「……多少程度くらいの力を持っていると思いましたが、どうやらそれは勘違いだったようですね。

 それならば私も、これからは本気を出すしかありませんね」


 そう言いながら私は、滅菌する為に火炎の魔術と毒を洗い流す水の魔術をそれぞれ糸へと編み上げ、その2本の糸を絡ませて編み上げる。その上で糸に毒を弾く魔法も、気休めではあるが張って置く。魂そのものに影響を及ぼすほどの強力な効果を持っている毒に対しては、どれほど効果をもたらすかは分からないが、やらないよりかはマシである。そう思っていると、猛毒の山から音が聞こえる。


―――……ッ。


 初めはただの気のせいだと思った。だってあの猛毒から生き返るだなんて思ってもみなかったから。


――――……ッン。


 だけれどもその音は段々と大きくなっていた。


――――ドンッ! ドンドンッ!


――――ドーーーーンッ!


 そして、猛毒の山を押しのけるようにして、彼女は現れていた。しかし彼女の姿は猛毒を食らう前とは違っていた。

 彼女の尻尾は前よりもふわふわっと、もふもふっと、先程よりもその質量のもふもふ度は上がっていた。9本の尻尾のうちの1本を首元へと巻いており、190cm代のモデル染みたプロポーションをさらに強調するような黒いドレス。胸やお尻はさらに女性らしく大きくなっており、腕は真っ赤に燃えていた。瞳は炎のように勝ち気に揺らめいており、顔には龍を思わせる刺青が施されている。


「ほぅ、あの毒から逃れましたか。だとしてもちょっぴり姿が変わったくらいでは、私は倒されませんよ?

 喰らいなさい、猛毒フェスティバル!」


 【浸食】する猛毒を、姿が変わった妃紅葉へと放っていた。それに対して妃紅葉はその猛毒を殴っていた(・・・・・)。そして殴ると同時に、猛毒は消し飛んでいた(・・・・・・)


「――――ッ! 私の最高傑作の猛毒が消し滅ぶ? それも、ただの拳程度で? ちゃちな魔術程度じゃ、その猛毒は防げないのに……」


 そんな中、妃紅葉は口角を少し上げていた。


「……ムダ、よ。今の妾に(・・・・)、その程度の毒程度じゃ話になりませんから」


 歩きながら猛毒を拳で弾き飛ばして、妃紅葉はクバイの元へと向かっていた。厄介だった【浸食】の特性も、消え去った猛毒には効果がないらしい。そして妃紅葉はクバイの目の前へと立つ。


「妃紅葉のとっておきの大魔術、『価値ある世界線の妃紅葉(わらわ)』。

 貴重な命のストックを10個も消費して発動するこの大魔術は、今目の前にいる敵に対して最も効果的な、『わたしが考える最強の妾』を呼び出すこの魔術が発動した今、あなたの勝ちはあり得ないこん。なにせ今の妾は、全てのものを己が鍛え上げた武術のみで弾き返せるという、武術に特化した世界線から来た妾なのだから。少なくとも先程までの妾とはまったくの別人、格が違うこん」


 ドンッ、と格を見せつける妃紅葉。そして彼女は首に巻いていた狐の尻尾をクバイへと巻きつけて自身の前へと見せつける。


「くっ……! だがしかし、まだ私にはこれがある! 毒の鎧!」


 と、猛毒の鎧を着込んだクバイ。しかし尻尾には毒は一切つかず、逆に尻尾に触れた部分から毒が浄化されている。


「この世界線の妾は魔術の勉強を一切せず、ただ盲目的に自分の身体をいじめぬいて七武道の中でも最高峰と名高い超魔流を越えて、超絶魔流と呼ばれる武術を作り上げた、肉体技術の天才。

 あなたの毒は超絶魔流の秘伝の技により、触れた瞬間異空間へと飛ばされるんだこん。そして……」


 そう言いながら尻尾で掴まれて動けないクバイに、右手を添える。


「これこそが超絶魔流の究極の秘術、相手の肉体にある魔力。もしくはそれに近いなにかを媒介として、敵の肉体そのものを破壊する秘技。今こそ未来の妾の力というものを見せて上げるこん!

 ――――奥儀、超絶魔力破滅衝!」


 バンッと、拳を突き出した妃紅葉。そこから出た衝撃はクバイの身体を通り抜けて、衝撃はクバイと共に消滅する。


「一体、クバイはどこに……」


「――――異空間へと飛ばしたこん」


 スッと、いつの間にか私の背後に移動していた妃紅葉がそう言う。逃げようにも、先程のクバイと同じく、クルリと尻尾で万力のような力で締め上げられていて逃げられない。


「この体術特化の妾の技は全て、対象を異空間へと飛ばす技。あまりにも凄すぎる達人の衝撃は当たった相手をも巻き込み、誰も手出しできない場所へと飛んで行くこん。

 ……分かったこん? これこそが妾が、マキユス・スカーレットよりもクロス様のお役に立つ証明だこん」


「……確かに強い魔術ですね」


 妃紅葉は狐系の獣系悪魔。狐系は歳月を経た者ほど強くなるとされ、ある者は世界を1つ創造せし得たという。そんな未来の才能溢れる力を持つ自分を今この場において呼び込む。まさしく桁外れの力である。


「もっともライフを10個消費する以外にも、色々とデメリットはあるこんが、この魔術の一番の利点は"経験値"」


「けいけんち?」


「そう、妾が未来の姿で居られる時間は10分間。それ以上は未来の時の流れが、この時間から外れてしまうんだこん。けれども未来の姿で居たという経験は、経験値として元の妾へと吸収されるこん。つまり、変身すればするほど、元の姿になった時に強くなるんだこん!

 妾は将来の姿を用い、未来の技能をほんの少し、本来の姿へと還元! これこそが、妾のこの技の最大の利点なんだこん! いつか、本来の姿でもあなたを、マキユス・スカーレットを越えて見せるこん」


――――でも今はその時じゃないこん。


 ポンッと、白い煙と共に元の姿へと戻った妃紅葉は、私にそう言った。


「いつか、将来の姿に頼らずに妾本来の力で勝てたその時こそ、妾の力が認められた証拠こん! その時には《罪双域魔界》の《魔王》となられたクロス様の隣でお妃として……ぐへへっ」


 なにを想像しているのか、涎を口元から垂れ流した妃紅葉を、私は呆れた顔で見ていた。


 将来の自分を使って、猛毒を使う敵を撃破する。

 それが妃紅葉の戦い方。




 それじゃあ、そんな力がないはずなのに――――"魂をも滅する超猛毒のナナミ・ブスジマの元から戻って来たクロス・ヤナカさん"は、いったいどんな力を持っているのでしょう?

 無傷で、私達の元へと戻って来た彼に対して、ホッとするよりも先に私の頭はそのことについて考えていた。

・クバイ/猛毒機械クバイ

…閻毘遺三大王の1体。蛇女族。

 猛毒を体内で生成する身体機能と【浸食】の魔術特性を持っている。【浸食】によって彼女の放った猛毒は対象を追い続ける。身体はナナミの独断専行によって7割以上が機械と化しており、ナナミへの忠義は鉄よりも硬い。


・『価値ある世界線の妃紅葉(わらわ)

…妃紅葉の切り札の1つ。ライフストックを10個も使うが、今自分が一番必要な力を持つ者へ、複数ある未来の世界線から選び出して変身すると言う固有魔術。『体技を極めた未来の妃紅葉』、『呪術を極めた未来の妃紅葉』など長命な狐族の理論上、体術だろうと魔術だろうと呪術だろうとそれを極めた者へと変身できる。

 10分間しか変身出来ないが、変身した際に使った技の経験は経験値として本体に上乗せされる。


・ブスジマ・ナナミ

 閻毘遺魔境の支配者。蛇女族。

 《魔王の神》枢木エヴァンジェリンによって転生された者の1人で、元《閻毘遺魔界》の《魔王》。かなり自意識過剰な性格で、被害妄想が強い。魂すら滅する猛毒を持っており、《嫉妬の業》というスキルによって相手を嫉妬するほど強くなるという馬鹿げたスキルを持っている。

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