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拾肆話 閻毘遺魔境編壱

 《魔王の神》枢木エヴァンジェリンによって、《魔王》として転生された者の数は実はけっこう多い。神様の不手際や意図せぬ事故と言うのは少ないが、それでも自殺や事故などによって死ぬ人間と言うのは案外多く、そう言った人間達に対して枢木エヴァンジェリンはこう尋ねるのだ。


 ――――あなたは死にました。もう元の世界に戻る事は出来ませんが、あなたさえ良ければ異世界に《魔王》という形ではありますが、ある程度望む形にて転生してあげます。断った場合は転生されずに意識を消して輪廻の輪に加えますか?


 この場合、与えられた選択肢は2つ。異世界にて《魔王》という形である程度望む形で転生するか、あるいは自分の意識と言う名の魂を消すか。その際、駄々をこねる場合においては1秒ばかり魂を本当に消滅させて、その選択肢を選んだらどうなるかという事を多少思い知らせておけばさらに分かりやすい。

 人間と言うのは2つの極端な選択肢を提示された場合、それとは違う第3の選択肢と言うのを取れないものだ。本当だったら第3の選択肢があるとしても、それが考えられないのが人間というものだ。通常時ならばそれも考えられるとしても、死んでしまって意識が混濁状態の時にそんな無理難題な二択を提示されて果たして答えられるだろうか? いや、答えられないだろう。


 閻毘遺魔境の主であるナナミ・ブスジマもそういう形にて、枢木エヴァンジェリンに《魔王》にされた者の1人である。もっとも、閻毘遺魔境が《罪双域魔界》に連結された時に《魔王》ではなく、支配者という形にランクダウンしてしまった訳だが。



 最初に言っておこう。ナナミ・ブスジマ……ニホンに居た時には毒島七海(ぶすじまななみ)という名前だった彼女は、かなりわがままだった。物事を正しく認識出来ず、過剰な意味でとらえる傾向があったため、彼女にとってはつらい結果でも端から見ればそうではなかった、という形で、彼女の死んで《魔王》になったという話を聞いて欲しい。


 高校生だった彼女は生前、日々いじめに遭っていた。人よりも発育が良かった彼女をクラスメイト達(勿論、同性である)が「げへへぇ、良い身体なぁ」「羨ましいわぁ!」「憎い……胸大きい、憎い……」という女学生同士の、女学校特有の割と良くあるレベルのスキンシップをいじめと呼ぶかどうかは別として、彼女はいじめにあっていた。そう、これは単純な認識の問題だ。

 どの程度をいじめと呼ぶかの問題だ。スキンシップを行った彼女達にはいじめという認識は一切なくても、自意識過剰な上に妄想癖があった七海がいじめだと認識しているのならば、それは確かにいじめなのである。


 そしていじめに耐え切れずに自ら命を絶った。まぁ、実際には「これ以上、私のKI☆YO☆KI身体が傷付けられるなんて耐え切れない! し の う!」という突発的で傍迷惑な行為だったのだが。

 彼女の葬式には多くの者が参列したが、彼女の書いてあった妄想たらったら、自意識過剰にもほどがあるレベルの痛い日記という名の黒歴史暴露大会になっていたことを彼女は知らなかったのだが。ちなみにその新幹線に飛び降りるという自殺のせいで、新幹線の運行が乱れてしまい、結果として親戚一同に新幹線を乱した責任という名の多大な賠償金を支払わせる事となり、大変な損害を与えた事も彼女は知らない。


 死んで、うとうととしている彼女の前に現れたのが、《魔王の神》枢木エヴァンジェリンである。

 生前、ネットなどで異世界転生や転移小説を散々読みまくっていた彼女からして見れば、《魔王》なんかよりも勇者がやりたかっただろうが、あいにくと勇者を任命する者として日々清廉潔白を求めている《勇者の神》には傍迷惑な言動が目に余る彼女の応対は出来なかっただろう。

 エヴァンジェリンは彼女に例の質問を投げかけた。《魔王》か、意識を消すかという二択である。

 わがままな人間と言うのは案外我が身が大事という人間が多いようで、あっさりと彼女は《魔王》になる事を了承した。


 エヴァンジェリンはホッとした。すんなりと《魔王》になる事を認めてくれたので、意識を消すという面倒が省けたことに対してである。断じて彼女の意識を消すのが惜しくなったとかではない。神にとって、本来人間の意識のありなしなど、どうでも良い事なのだから。


 しかし、ここからが問題だった。

 エヴァンジェリンの《ある程度融通する》という言葉を盾に、彼女は自身の転生後のステータス構成、とりわけスキル構成を重視した。大抵の人間は長くても2時間くらいで決める所、彼女はそれに1日かけた。それも人間という短命な種族の1日ではなく、神と言うほぼ尽きる事がない長命な彼らにとっての1日という時間……人間の時間に換算すると10年以上もかけた。

 流石にエヴァンジェリンも飽きたというところで、ようやく彼女は自身の納得のいくステータスを完成させた。それがこうである。


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種族;蛇女(ラミア)悪魔

名前;ナナミ・ブスジマ

称号;転生者 《魔王》候補

スキル;猛毒生成 邪眼 無限成長 道具作成 蛇召喚 《嫉妬の業》

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 何と言うか、普通だった。


 種族も蛇女という彼女におすすめする種族の中で一番上にあったものであり、スキルのうち、猛毒生成・邪眼・蛇召喚も蛇女という悪魔を選んだ者ならば8割の確率で選んで取っていく物だった。

 とりあえず無限成長というのは止めさせた。彼女の性格上、そのまま成長しまくって神を殺せるだけの力を得られると困った事態になりそうだったからである。その代わり、猛毒生成と道具作成のレベルをあげた上で、成長(神)というレベルまで落ち込ませて貰ったのだが……。


 《魔王の神》として多くの《魔王》を導いてきたエヴァンジェリンにとっては、ある程度予想通りの内容だった。いや、神時間で1日もかけた割には大した事がないなという意味で。


 そんな普通なスキル構成の中で、エヴァンジェリンは1つだけ気になったことがあった。

 《嫉妬の業》というスキルである。何故、これがあるのかは分からなかったが、これ以上彼女の相手をするのが面倒になったエヴァンジェリンは、そのまま彼女を《閻毘遺魔界》へと転生させた。


 その後、スキルと生前の知識、生前に勉学にはまったく関係ないが知っているとなんだかカッコよく見られるという理由で無駄に集めていた知識によって、彼女は《閻毘遺魔界》の《魔王》となり、《魔王》らしい生活を送っていた。

 《閻毘遺魔界》が魔境という形にて《罪双域魔界》の一部となった後は、彼女は《魔王》になるべく奔走したが、悪魔よりも面倒な性格のせいで受け入れられなかったという理由で、《魔王》になってはいないが、彼女は《魔王》という椅子を経験した者としてこの《魔界》での《魔王》という地位を欲していた。


 ここにその候補者が来ると聞いた時には胸がわくわくしていた。

 さぁ、どうやって殺そうか。自分が求めている椅子に無理矢理割り込んできたこの男をどう痛ぶろうかという意味で。


 まぁ、それが非常に面倒臭い女、ナナミ・ブスジマという悪魔である。

 ちなみに気になった《嫉妬の業》というスキルの説明についてはしない。それはこの先の物語で、その効果のほどを見て欲しいからである。本来、エヴァンジェリンが渡していたはずのスキルリストにはなく、彼女がいつの間にか手に入れていたそのスキルのほどを。

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