拾弐話 羅子都魔境編肆
後日談というか、これは後戦談と言うべきなんでしょうか? まぁ、後戦談と言うと何の事だか全く分からないので、やはり後日談と言うんでしょう。
――――という事で、後日談。
私と妃紅葉の戦いは引き分けとなった。
勿論、一度は妃紅葉の命を確実に命を奪ったこちらの勝ちだと言えなくもないですが、【髪は女の命】という謎理論で私の髪の一部を切った妃紅葉さんの勝ちだという容赦なさすぎ、いや意味が解らない理屈のせいで自身の勝利だと言って譲らず――――結局は、私と妃紅葉さんの引き分けという形になりました。
「納得いきません……」
「納得いかないのは、こちらの方ですけどね。
――――と言うより、何故生きているんですか?」
『やった!』などと軽くは言いませんが、少なくとも確かな実感はあった。
幻覚などで感覚を騙されているという感じでも無く、確かに妃紅葉さんの命を奪ってしまったという感覚はあった。もし仮にあの段階から完全復活したとするならば、それこそ私の知らない魔術術式の類である。
「ふふん! 引き分けとは言え、妾の命を奪ったあなたに特別に教えてあげるでありんす。
これこそ妾の真の切り札、『種の保存』。妾は自身の命の予備を用意しており、もし命を落とした際に自動的に復活するようになってるのでありんす。
只今の妾の命は、1つ減って残り98なのでありんす」
「むちゃくちゃな……」
……生命のストック?
あぁ、なるほど。それで、命を1つ奪った程度では意味がないという意味ですか……。
(この女狐を本当に黙らせるには後98回、いやどうやって命をストックしているか分からない以上それ以上になる可能性もある。どちらにせよ、これ以上戦うのは無意味、ですね)
けれどもだったらなんでクロスさんにあそこまで妄執して、強いと思っているんだろう?
彼女ほどの実力とストックがあれば、どんな敵であろうとも時間さえあれば倒せるだろうに。まぁ、それだけ彼女の獣系悪魔としての本能がクロスさんの強さを認めたという証なのでしょうか?
「けれどもマキユスの能力もびっくりしたでありんす。魔術自体を糸として使うだなんて、考えもしなかったでありんす」
「……便利ではありますが、あまりお勧めはしません。なかなか面倒な能力ですので」
魔術を別の物体へと構築して、それを武器として操る。
簡単に見えるだろうがこの魔術の構築は、厄介な上級魔術であるためにあまりお勧めはしない。そもそも簡単ならば、元と言え、《魔王》の地位を得る事は出来なかっただろう。
「まぁ、幸いな事に命はいっぱいありんすので、試しておくでありんす。
【命を捨てる覚悟】で覚えなければならない魔術は、この世に星の数ほど存在しているのでありんすよ?」
(それは俗に、禁術と呼ばれる物ではないのでしょうか?)
禁術は、命を落とすほどの危険を乗り越えてようやく使える禁断の魔術。
……もっとも、ストックがある彼女にとってはあまり関係ない事なのでしょうが。
「……うぅっ、しくったのでありんす。妾の予定ではマキユスを倒し、その実力をクロス様に認めて貰い、これからは2人で《罪双域魔界》の《魔王》と、その妃として君臨するという妾の完全な花嫁ライフプランがぁ……」
「いや、別に着いて来ても構わないですよ?」
別に着いて来てはいけない、という制約はなかったはずである。
私は1人でこの《罪双域魔界》で降り立つとなると、少し可哀想だからという理由で《魔王の神》枢木エヴァンジェリンの手によって一緒に送り込まれた者。現地で実際に協力者が出来るのは、むしろ願ったり叶ったりである。
「ほ、ほんとうでありんすか!? 妾、夜中さんの旅に同行して良いのでありんすか?!」
別に構わないと言うと、妃紅葉は嬉し気に目から滝のような嬉し涙を流し、そしてそれを和服の裾で拭う。そして楽しげに騒ぎ出す。
「あ、ありがとうでありんす! よし、なら今から妾同行のお許しが得られたパーティーを開始しますのでありんすよぉ!」
「うぉーい! パーティー開始でありんすよ、者共!」と、妃紅葉が配下の者達に言って出る中、私はきょろきょろと辺りを見渡す。
「……あれ? そう言えば、クロスさんは?」
・妃紅葉
…螺子都魔境の支配者。人獣種狐娘族。
『諦めが悪い、魔術の天才』と言われるほど、魔術に関して秀でている。彼女は螺子都魔境を支配するのに相応しい固有魔術『種の保存』という魔術によって、《99》の残機を持っている。他にも面白い魔術を持っているが、それはまた別の機会。