壱話 神的干渉編壱
――――魔界。
全ての混沌と闇と悪意と自由をごちゃまぜにした世界。
何万、何億とも知れぬ悪魔が我が物顔で自分の力を誇示して日々を送っている世界。
一口に《魔界》と言えども、その世界は様々だ。
全てを凍えさせる極寒の魔界《凍静魔界》と呼ばれる魔界もあれば、あらゆる物に猛毒が宿る《毒森魔界》と呼ばれる魔界。
環境も違えばその力の質や大きさ・求められる者、暮らす者さえも違うとされている魔界の総数は数字で表せる範囲はとうに超えており、その数は今もなお宇宙が広がり続けるのと同じように増え続けている。
そして《魔界》には1つのルールがある。それが――――《魔王》。
全ての魔界に対して、その魔界の長であり王として君臨する者の名を、人々は畏怖の念を持って《魔王》と呼ぶ。
どんな小さな《魔界》であろうとも《魔王》は居り、大きな魔界に至っても《魔王》の数は変わらない。
それがルール。掟、常識、というものである。
けれどもどんな物であろうとも、例外というものは存在する。
――――《罪双域魔界》。
後にそう呼ばれる事になる《魔界》には数多の種類の悪魔が居たが、統治すべき者……《魔王》が居なかった。
世界を治める。それか、ある程度形を整えている役割を担っているともされている神々はすぐさま対応する。
魔王を選び、育てる役割を持つ神が一柱。【魔王の神】という役割を担っている月裏イヴァリストは、この《罪双域魔界》に対して《魔王》を生み出した。
まずは《罪双域魔界》の悪魔に力を与えて擬似的に《魔王》を生み出したが、すぐさま消えた。"倒された"、のではなく"消えた"のである。それも文字通り的な意味で。
次に別の《魔界》、なんらかの理由によって《魔界》が消滅してしまった元《魔王》達に《罪双域魔界》へと派遣した。しかし、またしても消えた。この場合の"消えた"は、《魔王》ではないただの悪魔へと成り下がってしまった、という意味だが。
その後も様々な形にて、月裏イヴァリストはこの《魔界》にアプローチして見た。だが、その全てが空振りに終わってしまった。元からさほど積極的ではないイヴァリストは、強行的な手段を取る事も出来ずに、ただその《魔界》について傍観するしかなかった。
結局は他の神々の助けもあって、一番無難な所に落ち着いた。
"異世界転移"。
別の世界から《魔王》の資質を込めたる者を《魔王》として招き入れるという結果に。
夜中黒須。
それが月裏イヴァリストに頼まれて《罪双域魔界》の魔王になった、チキュウのニホンで15歳という若さで死んでしまった少年の名前である。
これはそんな少年が、《罪双域魔界》の真の《魔王》に至るまでを描いた、短い記録である。