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3話 LET'S GO

 トラックの荷台に揺られることおよそ30分。


「ねえ、その…。気を悪くしないで欲しいんだけど」


 橘が話しかけてきた。


「ヒロフミ君はどうして…。その…。なんていうか…」


 橘はおれが死んだ理由を知りたいらしい。

 おれは親父の顔色を伺って生きてきたから、相手が何をしたいのか、言いたいのかを読み取るのは得意だ。


「ああ。おれの親父はクソ野郎でね。

物置に3日閉じ込められて飢え死にしそうになったんで物置をぶっ壊して脱出したら

絞め殺された」


 ショックを受ける橘。軽い満足感を覚えたが、すぐに自らへの嫌悪感に取って代わる。


「おい、ヒロフミ。オブラートに包むってことを知らんのか」


 カズキが顔をしかめて諌めてきた。

 おれは諌められたことで、子供っぽいと思いながらも反発する。


「悪かった。3日何も食ってないと神経が麻痺してね。特に痛みとか苦しみはなかったよ。親父に対する殺意はあったがね」


「ふう。なかなかいい教育を受けたみたいじゃないか。なあ?」


 やれやれ、と首を振るカズキに食って掛かる。


「おかげさまでね。あんたたちはそれはそれは上等な死に様だったんだろうな?」


 橘が目を伏せ、ぼそぼそとしゃべる。


「ご、ごめん…。あたしが変なこと聞いたから…」


 カズキが目を吊り上げた。


「ゆかりが謝ることじゃない。そうだな、ヒロフミ。俺の死んだときのことを話してやるよ」


 カズキが話を続ける。


「俺の家は代々医者でね。俺も当然医者にすべきだと教育されてきた。だが、俺は医者ではなく、警察官になりたかったんだ。

 親は大反対した。そんな泥臭い仕事をする息子はいらないと。そして俺は家を出て、一人で暮らし始めた」


 ―――なんだ?急に昼ドラみたいな話が始まったぞ。


「俺は奨学金を貰い、大学に通った。学歴を手に入れて、警察の上層部に登る為だ。そうすれば、救える命が多くなると考えた。

命を失いかけた人間を救うのではなく、人が命を危険にさらす可能性を減らしたかった」

橘に目をやる。潤んだ目でカズキを見つめている。


「だが、学業に没頭するあまりに周りから目を背けていたらしい。

ある日、父親から届いたメールをふと見ると、母親が末期のガンだと書かれていた。

それまでにも何度も連絡は入っていたが、俺は無視を決め込んでいたため、気付かなかった。

慌てて駆けつけたが、母親は病院のベッドで死んでいた。俺は母親の死に目に会えなかった。

その後俺は自暴自棄になり、酒を飲んで歩いた。

死因は酔って車道に飛び出し、車にはねられたからさ。

とんでもなく間抜けな話だ。笑っていいぜヒロフミ」


―――勘弁してくれ。医者の息子のボンボンが人生踏み外し始めで酔っ払って事故死?

マジで噴出しちまう。


手を握り締めて神妙な顔を装う。橘を見ると、後ろを向いて目を拭っている。

―――くそっ。どいつもこいつも。


スマホから声。「くっ…。た、大変だったね。カズキさん。

でも、死んだ後もこの世界で人を救うなんてことをしてるあなたのことを

お母さんはきっと誇りに思ってくれていると思います!」

カズキ。「ああ。そういってもらえると救われるよ。ありがとう新山さん」


スマホに目をやる。新山が舌を出して笑っている。

―――ありがとう新山さん。空気を読んでくれて。


そしてカズキはおれと絶望的に性格が合わない。

早くもこの転生者コミュニティはいろんな意味でだめじゃないかと思い始めてきた今日この頃。

皆様いかがお過ごしでしょうか。


現実から逃げていると、カルヴィンが声を上げた。

「おい、もうすぐ着くぜ。滞在ビザをポケットから出しとけよ」


カズキ。「ビザ?そんなものあの集落にあったか?」

なんて冗談の通じないやつだ。おれは疲れてきた。


新山が小声でおれに囁く。「カズキか。あいつ敵に回すとうっとうしそうだね。

仲良くしといたほうがいーよ」

そう言われてもな。


イェスパー。「じゃあ、新しい魔法使いはまず俺たちの裁判を受けてもらおうか」

どうやら、面通しをしろってとこか。


橘。「さ、裁判!?あたしたちのときはそんな!」

この冗談通じないコンビはどうやって社会生活を送る気だったんだろうか。


カルヴィン。「ヘイ、ゆかり。落ち着けよ。ジョークだ」

イェスパー。「からかい甲斐のある子はかわいいな。安心しろよ。

いつものリーダーとの面会をするだけだ」


―――異世界人の方がまともってどうなんだ?


カズキが口を挟んだ。「マルコムのところに顔を出すのは後でもいいんじゃないか?

ヒロフミは疲れているようだ」

気遣っているのか、虚仮にしているのか。


どちらにしても、頭に血が上る。前者なら特にだ。

「おれは構わねえからそのマルコムさんのところに行ってくれ。

挨拶もしないで家に上がりこむ趣味はねえ」


イェスパー。「どうやら、ヒロフミとは仲良くなれそうだな。

口の利き方がいかしてる魔法使いは初めてだ」

カルヴィン。「カズキたちは紳士なのさ。

俺達みたいなチンピラと一緒にしちゃあ坊主がかわいそうだぜ」

「おれも礼儀を習ってない口でね。あんたたちと話してると落ち着くよ」


カズキがやれやれと首を振った。妙にその仕草が神経に障る。

くそっ。苛立つな。うまくやれ。溶け込め。


橘が声を上げた。「あ、しゅ、集落が見えてきました!」

ちくしょう。橘に気を遣われてしまった。

おれがひどくガキに思え、癪だがカズキに頭を下げる。


「さっきはすみません、気が立ってたみたいです。申し訳ない」

カズキが引きつった笑みを浮かべる。「いや、俺のほうこそ。

君は今日来たばっかりで気持ちの整理もついてないだろうに噛み付いて悪かった。

俺が大人気なかったよ。後、敬語はよしてくれ。仲間なんだ」


ああ。そうだ。少なくともおれが一人で生きていけるまではこの世界でよろしく頼むぜ。

橘がほっとした顔をしている。


そういや、まともな大人と会話したことってほとんど無いな。

親父は論外。学校の教師も狭い世界で生きているような感じだった。

これからはカッとなって反射的に噛み付くのを注意しよう。


何気なくスマホを見た。新山が手を振っている。

微笑んで手を振り返した。


「げっ。心を入れ替えましたー。って感じ?

あたしはチンピラフミさんとの掛け合いが結構好きだなー」

誰がチンピラフミさんだこの野郎。語呂がすげえ悪いぞ。


睨みつけると、新山がニッと笑った。

と、軽トラが停車し、おれは顔を上げた。


異世界で初めて来た集落の印象は、刑務所だ。

高さ4メートルほどの石垣で周りを覆われ、入口に守衛が立っている。

まあ、人を襲う二足歩行のトカゲがうろついてる土地だしな。物々しいのも当然だろう。


イェスパーが車を降り、守衛に声をかけた。

「カズキがまた魔法使いを連れてきたぜ。マルコムに会わせる」


守衛は眠そうな顔を上げもせず、行け、と手を振った。


イェスパーが煙草に火を点けながら戻ってきて、再び車に乗り込んだ。

カルヴィンが車を発進させ、集落に入った。


集落内はバラックが立ち並び、閑散としている。

ときおり、道端で泥遊びをしている子供や、銃を持って歩いている男などを見かけた。


「なんか…。戦時中の軍の駐屯基地って趣きだな」

カズキ。「ああ。この辺りは国の辺境だからな。魔物や敵国との戦争の最前線ってところだ」

「そんなところに転生させられるおれたちの身にもなってもらいたいよな」


橘がくすっと笑う。


集落の中を10数分走ると、前方に役所のような施設が見えてきた。

カズキが施設を指差した。「あれだ。あそこにこの集落のリーダー、マルコムがいる」

カルヴィンが施設の脇に駐車した。


車から降り、伸びをする。


橘。「マルコムさんに会ったらちょっとびっくりするかも。でもいい人だよ」

うーん。かわいい。


新山。「あざとい!ゆかりちゃんまじアザトース!宇宙の支配者!」

死ね新山。


イェスパー。「こっちだ魔法使い殿。足元に気をつけて」

カルヴィン。「お手を。ご気分はいかがかな?」

「うっせえ。早いとこ済ましちまおうぜ。のど乾いた」


馬鹿笑いするイェスパーとカルヴィン。

カズキ。「ヒロフミが取られちまったな。俺はさみしいよ」

新山。「あたしもさみしいよ!」


「とっとと行くぞ」

木製の古風な扉のノブに手をかけた。

瞬間、手に電気が走ったかのような衝撃。思わずノブを離し、手を見る。

「何!?」


新山。「静電気ですね。ビビフミさんには恐怖の対象の様ですが、実は自然現象なのです」

カルヴィン。「この扉には人体に電気を流してスキャンする機能があるんだ。

武器を持ち込まれたくないからな。事前に登録してない武器類を持ってると警備が飛んでくるぜ」

「そうかい」


再びノブに手をかけ、開け放つ。

ロビー。カウンター。待合スペース。やはり役所のようだ。


カウンターに赤毛の女がいる。

「あっ、イェスイェスにカルぴん!おかえりー!ズッキーとゆかちゃんも!

あ!新しい人だ!

ねえ、名前を教えてよ!あたしはミリシャ!ミリーって呼んでね!」


なんだこいつは。


新山。「なに!?このキャラの立ちまくった女は!?言わせて貰うけど、

テンション高い系の美人枠はあたしで埋まってるの!

ぽっと出の女にこのポジは渡さないんだから!

ヒロフミ!浮気はちょんぱの刑だよ!なにがとは言わないけど!」


橘。「ミリーさんただいま。この人はヒロフミくんだよ。マルコムさんに会ってもらおうと思って。マルコムさんは奥?」


ミリシャ。「そだよー。ヒロくんは食べ物何が好き?あたしはコーヒー牛乳!」

新山。「飲みもんやんけ!まさか不思議ちゃん要素であたしとの差別化を!?

くそっ!あたしも新要素を身に付けなくては!」


疲れてきた。話を終わらせる。


「よろしく。奥に通してもらっていいか?」

ミリシャが赤毛を指に巻きながら口を開く。「おー。クールだね。かっこいい!

好きな女の子のタイプは?あたしはゆかちゃん!」

「ああ。おれもだ。それじゃ中に入らせてもらうぜ」


勝手に横を通り抜け、先に進む。

何気なく振り向く。橘が顔を赤くし、うつむいている。


カズキ。「やるな。俺もそのくらい何気なく女の子を口説けるようになりたいよ」

イェスパー。「さすが兄弟。ミリシャの扱い、一発で正解を選んだな。

俺は慣れるのに2年かかった」

橘。「は、早く行きましょう!」


カウンターの横のドアを開け、奥へと入る。

毛足の長いカーペットが敷かれ、高価そうな椅子やテーブルの置かれた部屋だ。

おれは社長室を想像した。


奥のでかい机に男が足を乗せ、ふんぞり返って葉巻を吹かしている。


男が口を開いた。「帰ってきたな。くそったれのチンピラ野郎ども。そのガキは土産か?」

カルヴィン。「よおボス。今日もご機嫌だな」

「ご機嫌ン?お前らのしけた面のせいで俺の気分は絶賛急降下中だ。

こいつでも飲んで口を閉じてろ」


男は机の上のボトルを手に取り、イェスパーに放って寄越した。

イェスパー。「ありがたく頂戴するぜ。マルコム」

イェスパーがボトルのキャップを歯でかじって外し、棚の上にあったグラスに注ぎ始めた。


こいつがマルコムか。なるほど癖のある男だ。


マルコム。「ほおおお。お前さんが魔法使いの国から新たに来た坊主か。ひねた面してやがんな」

カズキが口を開こうとするのを制し、前に出た。

「ああ。あんたがここのボス猿か?よろしく。キリシマ・ヒロフミだ」

マルコムはたっぷり2秒硬直すると、下を向いて震えだした。

橘が慌てる。「ヒ、ヒロフミくん!マルコムさんは…!」


マルコムは顔を上げると大口を開けて大笑いした。


「いや、魔法使いの連中はみんなそこの嬢ちゃんみてえにおっとりしてるもんだと思い込んでた!

いやいやいやいや失礼した。歓迎するぜ!ヒロフミ坊や!」

机を叩いて馬鹿笑いするマルコム。


カズキが呆れたように声をかけてきた。「ヒロフミお前、本当に日本人か?」

「さあな。お袋に聞いてくれ」



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




マルコム。「それじゃ、おまえ、魔法使いじゃないってのか?」


「何度も言わすな。勝手におれを魔法使いと呼んでいたのはお前らだろ?

おれは一度もそんなこと言ってねえ」

マルコムが頭を掻いた。「そうかそうか。じゃあてめえにやる仕事なんかねえよ。

どこへでも行っちまいな」


カズキが勢い込む。「待ってくれ、マルコム。ヒロフミは能力こそ持ってないが、

くそ度胸と腕力がある。あんたなら気に入るはずだ」

橘。「そ、そうです!オオガラスを素手でやっつけたんです!」

どんどん印象が悪くなってくる。おれは溜息をついた。


カルヴィン。「まあ、2、3日使ってみるくらいいいだろ?俺はヒロフミが結構気に入ってんだぜ」

イェスパー。「そうだな。魔法が使えない、ってことは俺たちと同じ。ってことだ。

あんたは俺たちを放り出したりしないだろ?」

マルコムが肩を竦めた。「そんなに言うなら好きにしろ。俺は便宜を図ってやったりしねえぞ。

てめえらでガキのお守りをしてやるんだな」


吐き捨てる。「邪魔したな。マルコムさんよ」

踵を返した。


スマホから声がする。

「―――そして男は無頼を気取り、一人旅立つ。その先に待つのは地獄か廃墟か。

次回、第4話。男一人、荒野に立つ。来週もお楽しみにね!」

噴出しそうになった。心の隙をつくんじゃねえ。


再びロビーへ出る。

ミリシャがカウンターの裏から嬌声を上げた。「あー。ヒロ君だー。どーだったー?

これからあたしたちと働いてくれるのー?」


カルヴィン。「ヒロ君はクールすぎてボスとケンカになっちまったよ。ミリー。

なんかこいつにやらせる雑用はないか?」

ミリシャ。「えー。あたしのベッドメイクとか?」

イェスパー。「誰がお前の専属メイドにしろっつった。そしてその仕事は俺にやらせろ。

そうじゃなくて、ヒロフミの失点を挽回できるような仕事はねえか」


弾ける様な笑い声。「イェスイェスのえっちー。

うーん、そかー。しってんばんかい…。倉庫整理は!?」

イェスパー。「俺の話聞いてた?」


カズキ。「いや、案外良いかも知れん。ここの倉庫は武器やなんかの危険な代物が多い。

そいつを綺麗に分別し、いざというときにすぐ使えるようにするんだ。

今のところ短気なところしかアピールできてないからな。

マルコムに意外にまめなところを見せてやろう」


おいおい、勘弁してくれよ…。


橘。「ヒロフミくん。今日あったばっかりだけど…。ちょっと君は人に噛み付きすぎるよ。

倉庫整理で頭を冷やしなさい」

橘に諭されてしまった。しょうがねえ、やるか。


新山。「ゆかりちゃんに怒られたときだけ素直っぽいね。異常に分かりやすいよ、あんた」

うっせ。


カルヴィンがイェスパーをつついた。「さっきボスにボトル貰ったろ?俺にも寄越せ」

イェスパー。「いや、あれは…。控えめに言っても安酒だ。お前の上等な口には合わん。

俺に任せとけ」

口を挟む。「酒か?おれも一口欲しいな」


カズキが顔を顰めた。「ヒロフミ、俺の勘違いでなければお前は未成年だったはずだな?

さらに言えばこの後も仕事をするんだ。少しは反省したらどうなんだ」

カルヴィンと目が合う。肩を竦めた。


橘が頬を膨らませて詰め寄ってきた。

「ヒロフミくん…!あたしたちの仲間に入れてって言ってきたのはあなただったよね?

それなのにその態度は…!」

イェスパーがおれとカルヴィンの肩を掴み、顔を寄せてきて囁いた。


「そうだぞ、お前ら!ママの言うことが聞けないのか!?そんな悪い子は…!」


カルヴィンが駆け出す。おれは後を追う。イェスパーがついてくる。

笑いながら叫んだ。「お前ら、逃げろ!」


役所を飛び出し、3ブロックほど走り続けた。


イェスパー。「こっちだヒロフミ。ここに俺のヤサがある」

どう見ても車のガレージだ。

カルヴィン。「へへへ。新たな仲間に祝杯だ。まあ入れよヒロフミ」


中は雑然としていた。

バーベルやラジオ、液晶の割れたテレビなどが散乱し、サンドバックが吊るしてある。

ガレージの隅に居住スペースらしきソファーやベッドが置かれた一画があった。

イェスパーがソファーに腰を下ろし、テーブルにボトルを乱暴に置いた。


イェスパー。「さあ。飲もうぜ。魔法を使えない魔法使いに乾杯だ」

テーブルからひったくるようにボトルを取り、ラッパ飲みした。

アルコールが喉を焼いたが、不思議と心地よかった。

胃と口の中に芳醇な香りが広がる。


「うめえ」


カルヴィンにボトルを回す。同じようにラッパ飲みした。

イェスパーが再びボトルを手に取り、頭の上に掲げた。

「俺たちと馬鹿をやってくれるくそったれ野郎に乾杯!」

そういって、イェスパーもボトルに口をつけた。

そのまましばらく談笑した。


小一時間馬鹿話を続けた後、イェスパーが呂律の回らなくなった口でおれに話しかける。

「それじゃあお前らは、自分の国で死ぬとこっちに来るってのか?」

「ああ。カズキが言うには、おれが転送されたあの森がおれ達の国から来る場所らしい。

もしかしたらアメリカ人やロシア人なんかは別のとこに転生するのかもな」

カルヴィン。「死んだ場所もあるかも知れねえな。

それにしても、お前らの顔立ちはあまり見ないタイプだ。

なんつーか、顔に起伏が少ねえ」


そうだ。おれも気になっていたが、こいつら異世界人はモンゴロイド系の顔じゃない。

カルヴィンはスラヴ系。イェスパーはヨーロッパ系だ。

人種的特徴も気になるが、それより。


「おい新山。なんでおれはこいつらの言葉が分かる?」

スマホは沈黙している。


イェスパー。「ニイヤマ?それは何だ。お前ら魔法使い連中の神か何かか?」

「いや、この通信機を通しておれにコンタクトをとってくる女だ。

おれをこの世界に送り込んだのも新山だ。

おい。だんまり決め込んでるんじゃねえ。おれの質問に答えろ」

スマホを叩く。しかし新山は応答しない。


「ちっ。何だか知らねえが、新山はお前らと話をするつもりは無えみてえだな。

だがおれは、この世界に適応するように体を作りかえられてるらしいからな。

そのときに何かされてるんだろうさ」

カルヴィン。「そうか。まあ俺たちと話が出来るってのはいいことだ。

何しろヒロフミが面白いやつだってことが分かったんだからな」

イェスパーが酒を飲み、口を拭いながらソファーの背もたれに体を預けた。

「そうだな。仕事はおいおい覚えれば良いさ。今日は飲もうぜ」


と、外からノックの音。

イェスパー。「ようやくゆかり達が来たみてえだな。なかなか来ないから心配したぜ」

カルヴィン。「俺が出よう」

ふらつき、あちこちに手を突きながらドアに向かうカルヴィン。


―――カズキはおれを責めるだろうか?


カルヴィンがドアをおどけて恭しく開けた。

男が飛び込んでくる。こいつは…。


「イェスパー、まずい。蜘蛛が出やがった!」

集落の守衛だ。顔が青ざめている。


イェスパーが飛び起きた。「くそっ!何匹だ!?」

守衛が首を振る。「分からん。ただ、集落のあちこちにわらわらいやがる」

この慌てぶりだ。ゴジラみたいな蜘蛛にちがいない。


「おい、カルヴィン。蜘蛛ってのはなんだ?」

「この近くの洞窟にいる土蜘蛛だ。ときおり集落に人を襲いにくる。

武器を取りに行こうぜ。ヒロフミ」


カルヴィンが外に出た。イェスパーは守衛と話し込んでいる。

おれはカルヴィンに着いていった。


イェスパーのガレージから数ブロック走った。

さっきの酒でへべれけだ。視界が揺れる。

カルヴィンが立ち止まったが、おれは止まれずそのまま背中に顔をぶつけた。

酒臭い溜息を吐きかけられた。

「おいおい。大丈夫かよ。ここだ。この倉庫に武器が置かれてる」


カルヴィンに続いて倉庫に入った。

中はかなり広い。学校の体育館くらいのでかさだ。


スチールラックが立ち並び、そこに銃器や刃物、鈍器などが置いてある。

カルヴィン。「奥に行くぞ。この辺のは粗悪品だ」


足がふらつき、ラックに手を着きながら歩く。

時折、ラックから飛び出した斧や剣で手を切る。


奥には頑丈そうなドアがあった。ノブの上にパネルがある。電子錠のようだ。

カルヴィンがパネルを操作する。カチッ。

カルヴィンがドアの中に入った。おれも続く。


中は真っ暗だ。

「くそっ。照明のスイッチはどこだ?」カルヴィンが毒づく。


数歩歩いたところでコードに足を取られ、転倒した。

テーブルのようなものをひっくり返す。

手を床についた。なにか硬いものに触れる。


カルヴィンが怒鳴った。「おいヒロフミ、気をつけろ!」

パチッ。明かりがついた。


おれが触れたものは拳銃だった。

銃身が四角く、撃鉄の部分に緑色に発行するパネルがついている。

パネルを覗き込んだ。


―――ユーザー登録が完了しました。と表示されている。


「ヒロフミ、何だ、それは?」カルヴィンが近づいてきた。

と。背後で物音がする。

振り向いた。ドアから何かが体を覗かせている。


最初に目に入ったのは八つの光点だ。

更に、黒く長い足も八つ。


蜘蛛だ。でかい。


…2メートルくらいはあるんじゃないか?


おれは絶叫した。

きた!バトルきた!これでかつる!

(カラスは食料調達です)

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