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18話 GUNSHOT TO THE HEAD OF TREPIDATION

 カズキが頭を掻いた。

「コーイチの奴、遅いな……。もしかしたら今日は戻ってこないかもしれん」

「今日は野宿になっちまうかもな」


 とは言え、こんなところでは落ち着いて寝られない。


「つかさ。車の中で寝ろ」

「えっ?ヒロフミ達は?」


「交代で見張りをしながら仮眠をとる。敵意がおれに向いていればおれの銃は外さねえ。夜でも問題ないさ」

「そーじゃなくて!なんであたしだけ見張りから外すの!」


 カズキと顔を見合わせた。

「お前の能力。トカゲにも効くのか?」


 う、と詰まるつかさ。


 畳み掛ける。「おれ達はいい。物理的な攻撃手段を持ってるからな。だがお前は違う。人間相手の行動を止めるには最適だ。だが、今襲ってくる可能性が一番高いのは、イカれた生物だ。

お前の、言葉を媒介にして幻覚を見せる能力との相性は最悪。大人しく寝てな」


「だったら、あたしも銃が欲しい!」


「いずれ手にいれてやるよ。でも今はない。

もっと言えば、素人が銃を闇雲に振り回したところでおれの背中を撃つのがオチだと思うがな」


「じゃ、じゃあ!あんたの銃を貸しなさいよ!それであたしが戦う!」


「マルコムが言っていた。何故だか知らないが、おれにはこの銃を使う権利があるそうだ。更に、権利の無いものがこの銃を使用すると新山と同じ上位次元の管理者が襲ってくるとも言っていた。やめておけ」


 カズキがおれに囁いた。「ちょっと小便」


 カズキが茂みに消えていった。怒り心頭のつかさはそれに気づいていない。


 もはや、怒りによる震え声は泣き声に変わっている。

「な、なんでよ……!あんた、言ったじゃない!あたしに期待してるって!だから、着いてきたんだ……!あんたのお荷物になるためじゃない!」


「つかさ。悪い。少しだけ話を聞いて欲しい」

「うるさい!……。あたしがバカだったんだ。あんたがあたしに気を遣ってあんなこと言ったんだって。気付くべきだった。あたしがバカだったんだ……」


「つかさ!」


 身を震わせるつかさに言葉を続ける。


「お前の能力。ステモンズとの戦闘で見せたお前の判断力。身を呈して動くことのできる瞬発力。全てが必要だ。だが、それは今じゃない。だったら明日、お前が必要になったときのために体力を温存して欲しい。

悪いが、おれは自分で言うのも何だが合理的に考えているつもりだ。

目的のために使えるものは使う。使わなくていいものは温存する。それだけだ」


 理詰めの説得。つかさはもっと怒るかもしれない。


 捲し立てる。「わかってくれ、とは言えねえ。でも、ただ単にお前を戦わせずに飼い殺しにしようってんじゃない事は理解して欲しい」


 つかさが溜息をついた。

「わかったわよ、あたしが駄々こねてただけだって。これ以上喚いたってあんたを困らせるだけだって」

「お前が必要なときは嫌がっても手伝ってもらうさ。寝てようが、片足が無かろうがな」


 更に大きな溜息。

「あんたって、あたしに気を遣ってるのか無神経なのかよくわかんない」

「お前に対して気を遣う?だったらおれは気を遣った上でお前をゲロ女と呼んだことになるな」


 寂しそうな笑みを浮かべるつかさ。

「ほんとに…。あんたって変な奴」

「変な女に言われたくねえ。そもそも、何の打算もなしにおれを助けたのはお前だ」


 よっ。と言って立ち上がるつかさ。義足にも慣れてきたようだ。

「寝るよ。あんたの口車に乗ってあげる。マフィアが襲ってきたら起こしなさいよ?寝てる間に銃で撃たれるのはごめんだからね」

「マフィアが来たらお前の独壇場だ。ミョルニルを喰らわせてやるんだな」


 あはは。と笑って車に戻っていった。


 タイミングを見計らってカズキが戻ってきた。

「さすが、最年長だけあるな。空気を読む能力が新山の500倍はある」

「いやいや。若い二人にしてやろうって親心だよ」


 二人で溜息をついた。


 カズキがぽつりとこぼす。「お前。もし、つかさの隣で寝たとして、我慢できるか?」

「出来ねえから必死こいてつかさをハブったんだろうが」


 大笑いするカズキとおれ。


 つかさが戻ってきた。「ちょっと!何であたしが居ない間に面白そうな話してるのよ!」


 はぐらかす。「ああ、悪い。好きな体位の話だ。お前は?」


 バシッ。目の前に火花が散った。


 さいってい、と吐き捨てて車に戻るつかさ。


「ヒロフミ、いくらなんでも今のごまかし方はないぞ」

「おれも言った1秒後に気づいたよ…」




※※※※※※※※※




「ヒロフミ。悪いが交代だ」

「んが」


 重い瞼を持ち上げ、カズキを見る。

「何か変わったことは?」

「特にないな。コーイチ達もまだ戻っていない」


 地面から身を起こす。

「あいってて…。背中がカチカチだ。早いとこ阿久津に戻ってきて欲しいもんだ」

「全くな。悪いが仮眠を取らせてもらうぞ」


「ああ。寝心地悪いとこだが、ごゆっくり」


 軽く笑い声をあげ、カズキが身を横たえた。


 さて。どんなバカどもが襲ってきても撃退してやるぜ。

 腕を組み、木にもたれかかって暗闇を見つめる。


 30分が経過した。何も変化はない。

 時折、虫の音が聞こえる。


 虫か。巨大ゴキブリとかが出たら、つかさはどんな顔をするだろう。

 想像してニヤける。


 腕時計を見る。一時間が経った。


 更にもう一時間。何も起きない。


 カズキとの交代は三時間おきの約束だ。後一時間。


 暇だな。退屈しのぎに、銃を出してみよう。

 あ、どのくらいの声で呼ぶと銃が飛んでくるのか試すか。


 ベルトから銃を抜き、地面に置いた。2メートル離れる。


 口の動きだけで、来い、と呼ぶ。

 銃は動かない。


 息の漏れるような声で呼ぶ。

 銃は微動だにしない。


 となりに居る人間にも聞こえないほどの小声で呼ぶ。銃はピクリともしない。


「来い」かなり小さな呟き。全く動かない。


「来いっ」同じ部屋にいれば聞こえるくらいの声。

 地面から銃が消えた。おれの左手に現れる。


 ちくしょう。それなりの声で呼ばないと来ないらしい。敵と対峙しているとき、

隠れて呼び出すことは難しいかもな。


 暇だ。銃を隅々まで見てみる。もう何度もやっているが。

 この銃、メンテとか必要ないのか?


 突然、背面の液晶パネルが赤色へと変わった。肝を潰す。


 聞きなれた女の声。「敵意を感知しました。脅威ランクBプラス。兵器の限定的使用許可を発行しました」

 ―――敵がいる!


 カズキを起こそうと息を吸い込み、考え直した。


 敵は、おれが存在に気づいたことをまだ知らないはずだ。

 身を低くし、耳をすます。


…微かに葉ずれの音が聞こえる。これが敵か?


 おれの服装は黒いジャケットにジーンズ。闇の中では目立たない。

 木の根元に屈み込むようにして身を隠す。


 わずかに葉を踏む音。来た!


 黒い覆面をした男が2人、視界に入ってきた。小銃を構えている。


 小声を出す。「出力は10パーセント。やつらを無力化しろ!」

「承認を受理しました」


 木の陰から左手に持った銃を出し、撃つ。銃声が静寂を切り裂く。


 連発する。5発、6発。


 数人の男の悲鳴。

「あっ?、うおっ!あっがああああ!」

「う、撃たれた!ちくしょう!」

「手が!俺の手がああああああ!」


 やったようだ。立ち上がり、木の陰から飛び出した。

 叫ぶ。「敵だ!応戦しろ!」


 熱線が悲鳴の聞こえたほうに飛んだ。木が炎に包まれ、辺りが照らされる。


 覆面の男が倒れている。3人。手や足を撃ち抜かれ、呻いている。


 いや、待て。もう一人居る。


 派手な金髪を逆立て、両手にオートマチックの拳銃を一丁ずつ構えている。

 なぜ、やつはダメージを負っていない?


 再び発砲。2発、3発。

 疑問はすぐに解消した。


 そいつは、両手で銃を撃った。空中で火花が散る。なんと、弾丸でおれの弾丸を叩き落しているようだ。

 強化された人間。ティンダロスだ。


 金髪野郎が声を上げた。

「はっ、ははっ!こんな森の中で寝てる能天気なバカがいると思ったら…!

最高のガンマンが居るじゃないか!おいおい、俺の部下達を一瞬で無力化しやがった!

どうなってやがんだ!?ひゃははははは!」

 甲高い笑い声を上げる金髪。


 真正面から撃っても叩き落される。なら。

 おれは側面に2発撃った。


 金髪野郎。「お?お前か?ガキ。ふてぶてしいツラしやがって、なかなかそそるぞ。

俺と遊ぼう、ぜっ!と!」

 肩越しに両手の拳銃を1発ずつ撃ち、軌道を曲げて背後から迫っていたはずのおれの弾丸を見もせず撃ち落す金髪。


 出力を上げるか?いや、それより。


 カズキの熱線が、じょん、と音を立てて横一線になぎ払うように走った。金髪は身を屈めてかわす。

 つづいて袈裟懸けに走る熱線。それもかわされる。


 溜息をつく金髪野郎。「邪魔ぁ、すんなよ。俺は銃使いの坊主と遊びたいんだ!」

 金髪が構えた。銃口の先―――カズキ。


 喚きながら銃を連射した。全てを撃ち落される。


 金髪が木陰に身を隠した=リロードしている。


「残電力!」

「現在、電力は43パーセントです」


 やばい。そろそろ充電が要る。


「つかさ―――――――――――――――――――っ!」

「太古より地の底に住まいし炎の化身!灼熱を纏いて現れ出でよ!イフリート!」


 金髪野郎の悲鳴。「うおっ!?ぐっ!があああああ!

な、なんだこりゃあ!?ははははっ!あっ、おああああああああああ!」


 やつが隠れた木を熱線が何度も切り裂く。木が燃えながら細切れになった。


「カズキ!」

「こっちに来い!ヒロフミ!」


 駆け出す。車の陰に身を隠すと、そこにつかさとカズキが居た。

「お前の能力の射程と効力時間は!?」

「射程はあたしの声が認識できる範囲。時間は、おおよそ20秒!」


 カズキに声をかける。「殺ったのか!?」

「いや、死体が確認できん!油断するな!」


「残電力!」

「現在、残電力は51パーセントです」


 よし。少し回復した。


「出力を100パーセントに戻せ!」

「了解しました」


 銃を構えた。「カズキ!おれの腕を支えてくれ!」

「あ、ああ!分かった!」


 頭上から金髪野郎の声が響いた。「なんだあ今のは!?体が燃えたと思ったらもうなんともねえ!

面白え!お前ら面白すぎるぜ!」


 叫んで引金を絞る。「死ね!」


 久しぶりの激しい反動=車に叩きつけられるおれ/カズキ―――頭上/木の上―――金髪野郎。

 やつの迎撃―――宙に火花―――しかし、おれの弾丸は曲がらない=直撃。吹き飛ぶ金髪野郎。


 十数メートルのところでがさがさと言う音。地面に落ちたらしい。

 数秒後、やつの声が森に響く。

「がっ!はっ!…くそ、銃身が曲がっちまった。

しょうがねえ、出直すぜ!また遊んでくれや!妙な銃を使うガンマンのガキ!」


「カズキ、頼む!」

「ああ!」声が聞こえたほうを熱線でなぎ払うカズキ。


 木がなぎ倒され、どんどん火が燃え移っていく。


「ぎゃははははは!当たんねーよ!じゃあな、ガキ!」

金髪の笑い声が森に響き渡った。


「出力を5に抑えろ!」

「了解しました」


 連射する。銃声/遠ざかっていく金髪野郎の笑い声=やつを逃がしてしまった。


「くそっ!」

 カズキ。「さっきのやつらを確認しよう!」


 倒れた3人のところに戻る。


 火に巻かれ、のた打ち回っている=絶叫。


 つかさが震えている。肩を叩いてやる。

 カズキは目を見開いている。この光景を目に焼き付けているようだ。


「行こう。おれたちも火に巻かれてしまう。やつらを悼むのは後でゆっくりやろう」

「あんた、辛くないの?」


 おれは、お前に足を戻すためならなんでもやる。今更何とも思わねえ。


 黙って立ち去った。つかさが着いてくる。―――数秒後、カズキも後を追ってきた。


 突如エンジンの爆音。赤いスポーツカーが走ってきた。

「カズキさん!―――何が?」


 声を上げた。「阿久津!最高に格好いいタイミングだな!バッテリーは?」


「持ってきました!早く交換して離れましょう!」

「ああ!」


 背中を熱に炙られながら急ピッチでバッテリーを交換する。


「行くぞ!」アクセルを踏み込み、猛スピードで走りぬけた。

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