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13話 RORDKILL MORNING

おれは外に出た。

酒場の壁に、女が寄りかかって煙草を吸っている。


「どうした?酔っ払っちゃったの、ぼくちゃん?」

ムカつく女だ。―――サラ。


「お前に聞きたいことがある。答えてもらうぜ、サラ」


サラは酒場の壁で煙草をもみ消すと、好戦的な笑みを向けてきた。

「いっちょ前の口を利くじゃんか。言ってみな」


「お前の能力。おれが撃ったときに姿を消したな。あれはどういう理屈だ?」


「あたしはね、一瞬だけ亜空間に干渉して、自分の座標をずらすことが出来る」

サラが目の前から消えた。振り向く――――銃を向ける。


銃口の先にサラ。「あれ。脅かしてやろうと思ったのに」

「お前のやりそうなことはわかってる」

もっと言えば、おれは亜空間の動き―――サラが姿を消す瞬間、空間が揺らいだのを感じた。

直後、後ろでも空間の揺らぎを感知した。

そこにサラがいる。と思った。

何でそんなことがわかるのか。上位次元にアクセスしたせいかもしれない。


「へええ。なかなかかっこいいじゃん。あのつかさ?って子が惚れるのもしょうがないか」

「つかさはおれに惚れてるわけじゃねえ。

…お前の能力はおれに通じない。肝に銘じとくんだな。逃げようとしても無駄だ」


笑うサラ。―――心底楽しそう。

「いいね。文字通り殺し文句ってやつだ。肝に銘じとくよ」

あたしも軽く飲むかな、といって酒場の中に入っていった。


※※※※※※※


出発の日。


ミリシャ。「ヒロくん、元気でね。あたし、ヒロくんの事忘れないよ」

「おい待て。気持ちは嬉しいが二度と帰ってこないような言い方するな」


イェスパー。「お前が蜘蛛男から助けてくれた。俺の命をな。

本当は俺も着いて行きたいんだが」

「ありがとう。でも、イェスパーにはこの集落を守ってもらいたい。

手薄になっちまうしな。残る連中を頼むぜ」


カルヴィン。「ヒロフミ。お前と飲んだ日のことは忘れねえ」

「忘れらんねえよ。その後に蜘蛛に食われかけたんだからな」


マルコム。「カンビュセスの俺が所属してる機関に連絡を入れておいた。

都市でお前をサポートしてくれる。頑張れよ。ヒロフミ坊や」

「その坊や呼びはいつやめてくれるんだ?」


橘。「ヒロフミくん。カズキさんに駄々こねちゃ駄目だよ?」

「やっぱりおれの評価って駄々っ子だったんだ!?」


ウィルハイト。「な、なにかあれば通信で知らせてください。すぐ駆けつけます。

…カルヴィンさんとかが」

「最後まで決めろよ!残念だなお前本当に!」


酒場の店主。「コールマンとやりあってる時、俺のことをなぜジョンと呼んだ?」

「ああ、あんたの名前を出さないようにしようと思ってよ。

ジョン・ドゥ(名も無い死体)ってわけだ。いかすだろ?」

店主がキレた。「もっとましな呼び方があんだろ!」


さて。それじゃあ行くか。

「じゃあな、みんな。体を治したらすぐ戻ってくるからよ」


駐車場に向かう。カズキが待っていた。


カズキが手をあげた。「もういいのか?」

「ああ。それより、本当についてくる気か?カズキ」


カズキが腕を組んだ。「免許も持ってないやつが運転する車につかさを乗せられるか。

ただでさえお前は無茶な運転しそうだ」

「違いねえ」


二人で笑った。カズキと本気で笑いあうのは初めてかもしれない。


カズキが運転席へ。おれは、後部座席に座った。

「待たせたな。つかさ」


隣に座ったつかさがつまらなそうに髪をいじくっている。

「あんた、スカした言い回し好きよね。今時流行らないよ?」

「そうだ。スカした言い回しといえば、お前の詠唱。あれ本当に意味あんの?」


つかさが手を振り回して抗議する。

「あんた、そこつついてくるわね…!あれは、人の脳内に干渉するための

決まった言葉なの!能力を使おうとするとあたしの頭に勝手に聞こえてくるの!」

「でも、自分でもかっこいいと思ってるだろ?」


「う、い、いや、別に?」

「おれもちょっとハマってきてさ。いいよな。我の意思は神の意志!

ってさ。叫ぶと気持ちいいよな」


つかさが身を乗り出してきた。

「でっしょーー!?やっぱり!?なんだ、あんた話通じるじゃん!」

「はは、そうだな」この女、やっぱり本気でやってた。


カズキが声をかけてきた。

「楽しそうなとこ悪いが、そろそろ出発するぞ。ちゃんとシートベルトをしてくれ」

「そうだね。あんまりいちゃいちゃしないで。胸焼けするから」


助手席に座ったサラ。ティンダロスとの渡りをつけてもらうために着いて来てもらった。

「いちゃいちゃなんかしてねえだろうが。それより、変な真似してみろ。

速攻で殺すぞ」


「そのチンピラみたいな脅し。人生で100万回は聞いてる。今更なんとも思わないから」

「そうかい。ならもう100万回聞かせてやるぜ」


カズキが口を挟んだ。

「なんか、お前ら似てるな」


サラが心底嫌そうに。「はあ?どこが?この調子乗ったガキと一緒にしないで。

ちょっといい男だからってあたしにナメた口聞くと、痛い目見るよ」

「その調子のったガキに痛い目見せられた女の言うことは含蓄があるな。

震え上がっちまうよ」


サラが座席越しに睨み付けてくる。笑って手を振った。


「やっぱり、お前ら似てるよ…」カズキの独り言が車内に響いた。



※※※※※※※※




おれたちは都市に向かって出発した。

集落の周辺の平原にはまともな道路がなく、

一時間ほど悪路ゆえの振動に悩まされた。


で、酔った。


クルマから下り、

草むらでえずいているおれの背中を撫でてくれる暖かい手。

こいつの優しさに涙が出そうになって……。


つかさ。「あのさあ。超カッコ悪いよ」

「う、うるせえ。クルマに乗った経験があんまねえんだ。

多目に見ろ」


カズキ。「車に酔うってのは、バランス感覚がいい証拠だそうだ。

自分の感覚と揺れる感覚が合わなくて気持ち悪くなる。

まあ、後は慣れだ。無理せずならして行こう」

おれの背中を撫でながら、励ましの言葉をかけてくるカズキ。

――――おい!


「つーか、普通こういう時はお前が撫でてくれんじゃねえのか!?

つかさ!何車のウインドウから顔だしてんだ!」

つかさ。「しょうがないでしょ!あたし、人の吐いた臭いでつられて

吐いちゃうもん!男ならゲロも勲章かも知れないけど、

女はシャレにならないの!」


何だよゲロが勲章って!


新山。「んー、ヘドを吐きながら巨悪に立ち向かう刑事。

ノワールだ。ハードボイルドだ。ヒロフミには貫禄が足りないけど 」


何なんだよこの女達は。男のゲロに憧れでもあんのか!

もう一人の女は……。


助手席で爆睡するサラ。うん。そんな気はした。


「なあカズキ。この先もこんな悪路なのか?」

「舗装された道路はある。だが、この辺境と都市を結ぶルートを

わざわざ舗装しないんだ。この辺りの通り名は、見捨てられた土地。だとさ」


なるほど。都市からド田舎に来るやつがいないと。

コールマンが来るのに4日かかった、と言っていたのも道理だ。


車に戻った。つかさが鼻をつまんでいる。

「おい、それはあんまりじゃないか?」

「ひょ、ひょめん。ひぇも、ふぉんとにひゃいちゃうひょ」

新山。「ごめん。本当に吐いちゃうの。と仰せです」

訳さなくていい!


ちくしょう。これからマフィアとやり合おうってメンバーがこれかよ。

緊張感がまるでねえ!



※※※※※※※※



しばらく走った。平原を抜けて、海岸の見える荒野に出た。

カズキ。「もう少しで、小さな街に着く。そこで一泊しよう」

良かった。カンビュセスまでぶっ通しの強行軍じゃなかった。


「つかさ。足はどうだ?」

「え?あ、うん。大丈夫。さすがマルコムさんだね。

いい義足を作って貰ったよ。痛み止めも飲んでる。化膿止めも」

「接触部分に痛みは?間接部分だ。あまり負荷をかけない方がいい。

そもそも、出発するのが早すぎたかも知れん」

「だ、大丈夫だってば。心配しすぎ。設備の無い集落でもたもたしてるより、

都市でちゃんとした治療を受けたほうがいいってマルコムさんも言ってたし」


カズキ。「まるで兄妹だな。良いことだ」

つかさ。「ちょっとカズキさん!今の、どっち!?あたしが妹みたいに言わなかった!?」

「どっちが上でもいいだろうが!暴れんな危ねえから!」

新山。「ラブってコメってるなあ。素晴らしい。異世界転生の鏡!」

「「ふざけんな!」」


海岸線を走ること小一時間。小休止することになった。


保存食のくそ不味いクッキーのようなものをかじりながら、海を見つめる。

そういえば、海を直接見るのって初めてだ。


新山。「浸ってるねえ。どう?この世界の海は」

「んー。何か、くせえ」

「台無しだよヒロフミさん……」


つかさ。「うーん、ただ潮の匂いってだけじゃない気がする。

生臭さもあるっていうか……」


カズキが車から走ってきた。妙に慌てている。

「お、お前ら!車にもどれ!」


「どうしたカズキ。そんなに慌てて」

「まずい!イカだ、イカがこっちに来る!」


イカ?


つかさ。「ああ。イカっぽい。そんな匂いする」

新山。「イカ臭いって言われてるよヒロフミさん。

若いからしょうがないよねー」

「おれの臭いじゃねえだろ!違うよなつかさ!?」


カズキが怒鳴った。「遊んでる場合じゃないんだ!

早く車にもどれ!」

なんだ?一体。


おれたちが乗り込むと、カズキが車を急発進させた。

激しく揺れる車内。「おい、カズキ!説明してくれよ!」

カズキがハンドルにかじりついたまま怒鳴る。

「後ろだ!後ろを見ろ!」


座席に肘をのせて後ろを見る。


本当だ。イカだ。

切り立った海岸線を登って、五メートルはあるイカがこっちに向かってくる。


「おおおおおい!なんだあれ!?」

「この世界のイカは、海から出て獲物を補食しに来るんだ!」


忘れてたが、この世界の生態系。イカれてた!

新山。「イカなだけにね!」


久々に心を読むな、新山!


「くそっ!」ウインドウから左手をつき出す。

「来い!兵器の使用を申請する!」

「申請を受理しました。

兵器の限定的使用許可を発行します」

「出力を10パーセントに抑えろ!出来るな!?」

「了解しました」


つかさ。「あんた、片手で撃てるの!?」

「だから出力を抑えたんだよ!」

更に、消費電力も低下する。威力が落ちるが仕方ねえ。


「行け!」引き金を引く。

反動はあるが、左手で十分抑えられる。

振動で銃口が激しくぶれる。が、お構いなしに連射する。


つかさが喚く。「ちょっとお!どこに撃ってんのよ!

あんた目えついてんの!?」


「うっせえな!よく見てろ!」


バラバラの方向に撃たれた弾丸が、一点に集まっていく。

複数の弾丸が着弾し、イカの足を一本切り飛ばした。


バランスを崩すイカ。

「チャンスだ、飛ばせっ!カズキーっ!」

「やるな!さすが俺の弟分だ!」

お前は仲間をみんな家族にしようとするな!



※※※※※※※



街についた。

「あー、気持ち悪いい……」

イカとの戦闘で興奮している時は平気だったが、落ち着くと振動でまた酔った。

ていうか吐いた。


「さいっあく……。あたしさいっあく……」

ごみ袋に吐くおれにつられて吐いたつかさ。青い顔をしている。


「良かったぜ。仲間がいて。おれたち友達だよな?」

「やめてよ!ゲロ友達とか絵面最悪なんだけど!」


新山。「あははははははは!あり得ない!ゲロインとゲーローとか!

異世界転生の面汚し!」


「「ぶっ飛ばすぞ!」」


締まらねえな全く!くそ、これからもこんな調子か!?

サラはずっと寝てます。

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