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8 女魔王様を泣かせちまった俺って…最悪…

「まっ…待て!話を進めるな!余は認めんぞ!そんな危険な…」


おっ!

ようやくクリスも話に混じってきた。

実際こんな話をされても、まぁ理解できんわな…。


「なぜ…ユ…この人間とフィールが戦わねばならんのだ!?」


焦るクリスにメーラは終始落ち着いた様子で諭す。


「魔王様…どうかご理解ください…。普通に考えて人間との結婚となると、それなりの理由が必要です。それに、このまま意見が対立すると、魔王様もフィールもどうなるか…。最悪ここら一帯が火の海になってしまいます」


図星だったのか、クリスも顔をうつむかせてしまった。


ふぅ…とりあえず今はこうするしかないか…。


デスマッチは計算外だが、この場をおさめるには仕方ない…かな?

結局、この日は解散ということになり、各々一週間後の決闘に、期待を寄せるようになった…。


…俺は生きた心地しないけど。






「メーラ!あれはなんだ!なぜユキを危険な目に遭わす!」


あのあと、クリス、メーラ、俺で集まり、人目のつかない部屋で今後の対策をしていたのだが…。


案の定クリスは興奮しっぱなしだ。

落ち着かせるのに説明がいるな。


「魔王様…この決闘の件は元々ユキ様の発案でございます」


「なっ…なんだと!?」


「私とユキ様で事前に話し合っていたのでございます。結婚の件で場に混乱が生じかけた時のことを考え、皆が納得できるようにと…」


…メーラのテレパシー能力についてはごまかすわけね…。

まぁ、こう説明した方が分かりやすいか…。


「ユキッ!どういうつもりだ!!あんな…デスマッチなどと…!死ぬかもしれんのだぞ!!」


デスマッチの案は俺じゃないけどな…。

場の雰囲気が勝手に決めたわけで…とは言えない…。


「ま…まぁ…よかったじゃねぇか…あれ以上争ったって…」


とそのとき




パァン!!…



小気味いい音が響いたかと思ったら、俺の頬にじんじんと痛みが伝わってくる。

あぁ…クリスが俺の頬を叩いたんだな…。


「ぐすっ…!お…お前に死なれると…どれだけ辛いか…ひぐっ…お前にわかるか!!?」


顔を赤くさせ、目には涙で一杯のクリス。

そこまで心配させてたなんて…。


「クリ…」


「しらん!!もう話しかけるな!!ユキなんか…どっかいってしまえ!!」


俺が謝罪の言葉を口にすることなく、クリスは乱暴に扉を開けてから出ていった。


うーん…。

女魔王の気持ちって…難しいな…。


「あらあら…愚民様は女の子を泣かせるのも上手いですね…」


「…デスマッチは…違うだろ…」


「そうでしょうか?なら、そう説明すればいいじゃないですか?」


「…いや…どっちにしても変わんねぇかな…」


重苦しい沈黙…。

その空気が俺たち二人にのし掛かってくる…。

…キツいな…。


「そう言えば…まだあの件について説明していませんでしたね…」


「?あの件ってなんだよ?」


「あなたが気になっていたあの件です」


え…それってもしかして…。


「そうです」






「異世界の住人…お待ちしておりました…。なぜ、この世界に呼ばれたのか…。私の知る限りの情報を説明いたします」




…。


「…やっぱり知ってたのか…」


「はい…。雰囲気がいつものユキ様…本来のユキ様ではないと感じたので、もしやと思いまして…」


ふーん…なるほど…。

メーラは意外と鋭いな…。

クリスはぜんぜん気がついてなかったみたいだけど…。


「元々、今回の件については事前にわかっていました…。」


「?事前にって…どゆこと?」


俺の問いかけに、メーラはうろたえることなく逆に質問してきた。


「その話をする前に…愚民様は精神転送…といったものをご存じですか?」


はぁ?

なんかSFチックな話になるじゃねぇか…。


「あれだろ?男の子の心が女の子の体に入っちまって、ウハウハする的な?」


「…考え方が童貞的ですが、まぁそんなとこです」


童貞的って何?


「以前…私とユキ様で遠方に向かった際、とある占い師の元で予言を受けたのです。そのときの内容が…こういったものなのですが…」


メーラはポケットの中からゴソゴソとある紙を取り出した。

けっこう茶色に変色した、しわくちゃの紙だが何が書いてあるかはわかる…。


『白の雪が死するとき、異なる世から彼の意思を継ぎ進むもの宿る』


…うーん。

あれだな!

中二病だわ…。


…と冗談は置いて…直訳すると…こうなるか?


『ユキが死んだら、別の世界から誰かがユキの体に入っちゃうよ』


…俺天才。


「…訳し方が童貞ですね」


おい!

俺の心を覗くな!

あと童貞カンケーねーだろ!!


「…とまぁ、ユキ様が死んで愚民様の人格が宿ってしまうというありがた迷惑な予言を受けたのです」


「…つまりそのユキってやつが死んじまって、代わりに俺がユキになっちゃった…てわけね…」


「そうです…。」


メーラは溜め息をつく…。

まぁ、俺みたいなやつが影の軍師の体に宿っちまったから落胆するのも無理ないか…。


「いいえ…落胆ではないです…。」


だから心を読むなってば!!


「…私としては、このタイミングでユキ様が死に、あなたがやって来ることにあきれたのです…。どう考えてもタイミングが悪すぎます…」


なにげに俺のことは馬鹿にしてるよね?


「…それと…生前、ユキ様から遺言を受けておりまして…。『もし…俺が死んで誰がが俺の体に宿ったら、そいつを全力でサポートしてくれ!!すまん!メーラにしか頼めないんだっ!!』…と」


おぉ…ユキってやつはなにげにいいキャラしてるじゃねぇか…。


「私としても不本意ながらこうして愚民様のサポートをしているわけです…不本意ながら」


2度も言わないで…ホント…。


…ん?そう言えば…


「ところでメーラっていつ俺がこの世界っ…ていうかユキの体に宿ったってわかったの?この紙には精神転送の時期までは書いてないだろ?」


「…前回の戦…『7つの宝珠』との戦いを覚えていますか?」


「…?どゆこと?」


「…あのとき…愚民様は自らを犠牲にして、クリス様にスキルを継承させることで勝利に導きましたが…あのときからおかしいと思っていました」


「おいおい…よけいわからんぞ…」


「わかりませんか?いつものユキ様なら自らを犠牲にする手段はとらないのです…。それはクリス様に辛い思いをさせるとわかっていたから…」


「!!」


「…まぁ、それに気がついているのはメーラぐらいでしょう。あまり、気にすることもないですよ」


そのとき…俺は本当にショックだった…。

ユキってやつはクリスを泣かせないために、自己犠牲の道はとらなかったのに…。


俺って…何してんだろ…。


なんて思っていると…


「…どうやら愚民様は勘違いをしているようですね…」


「…へ?」


ものすごく落ち込んでいる俺に、メーラが突然語りかけてきた…。

…何を言うつもりだ?


「先程、愚民様はユキ様と自分を比べて、自己嫌悪に陥っていたようですが…メーラから見れば今の愚民様のやり方が間違っているとは思いませんよ…」


「えっ…。でもよ…俺のやり方は…クリスに心配かけるんじゃ…?」


「…最善の手は最良の手になり得ないものです…」


メーラはいつになく真剣な眼差しで俺を見つめてくる。

…慰めてくれてるんだろうか…。


「チームとして勝つためには、個人の犠牲を払いますし、誰かが幸せになるには、影で誰かが不幸にならなくてはいけない…。世の中とはそういうものです。いいじゃないですか…自己犠牲の精神…私は嫌いじゃないですよ…」


そのとき…俺はゾッとするようなものを見てしまった…。


…いや、別に怖いものじゃないぞ?

ただ、なんかものすごくビビッちまったというか

…。

なんたって…








「メーラはそんな愚民様を気に入っているのですから…」


満面の笑みで微笑みかけるメーラの表情がそこにはあったのだから…。








「…それで…これからどうするのですか?フィールに打ち勝つ策でもあるのですか?」


メーラの微笑みで一瞬フリーズしかけた俺は、すぐに正気に戻る…。


明日は雨が降りそうだな…。


当然、今のメーラの表情はいつも通り仏頂面だ…。

それはそれで助かるんだが…。


「…いや…なんつーか…まだ曖昧なんだよ…。うまくいくかわかんねぇ…」


「とりあえず、策はあるのですね?」


「まぁ…な。」


するとメーラは…


グニュゥゥゥゥッ!


「いったぁぁ!!痛い痛い!!メーラッ!痛いって!」


俺の頬をグニュッとつねると、強制的に立たせて部屋の外へと連れ出した。


「…策があるなら大丈夫です。最大限のサポートは保証いたします。それより前に、まずしなければならないことがあります」


「なっ…なんだよ!しなけりゃなんないことって!?」


「クリス様のお側に立つことです」


「!?」


何を言ってんだ!?

あんなことがあったあとで、側に立つもなにも…。


「まずは謝って…そのあとに自分のやり方を熱く語ってください…。そして最後に…クリス様が望む言葉をかけてください…。愚民様ならできるはずです…」


ガチャッ…バタン…。


部屋の外に出た俺たちは二人きり…。

こんなの他の魔物に見つかったら面倒だな…。


…なんて思ったら


スッ…


…と俺の頬から手を離し、メーラはすんだ瞳でたたずむ。


…。

わかったよ…。


「どうなっても知らねぇぞ…。他の魔物に見つかるかもな…」


「…愚民様ほどの悪運なら大丈夫でしょう…。」


俺はメーラの言葉を聞いた瞬間、すぐに背中を向けて走り出した…。


…とりあえず魔王様の元にたどり着かなきゃな…。

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