7 とあるヴァンパイアの過去
「父上っ!!…父上っ!!起きてください!父上っ!!!」
そのとき、私は満身創痍な状態で、自らの父の体を揺すっていた。
大勢の人間との全面的な戦争。
ヴァンパイアとしての誇りをかけた戦いは、結果としては敗北。
大勢の同胞は、身体中の血を一滴残らず絞り尽くされ、干からびた体は太陽光によって消滅する。
私の母も兄も弟も、皆同じ末路を迎えることとなり、唯一残った家族である父も、敵からの攻撃により致命傷をおってしまった…。
いくら揺すっても起きない父。
それでも私は諦めることなく呼び掛けた。
「父上っ!!…父上っ!!…うぅ…父上ぇぇっ!!」
「う…うぐっ…」
「っ!?父上!」
わずかな呻き声と共に意識を取り戻した父に、私は内心ほっとした。
今なら逃げることができる。
父と共にこの戦場を脱出するぐらいなら、なんとかなるかもしれない…。
だが、父はそれを許さなかった。
「…フィール…お前…は…逃げろ…。もう…俺は
…助からん…。俺のことは…見捨てて…くれ…」
「なっ…何をいっているのですか!!今なら人間共もいません!すぐに…私が抱えて…」
私がその先を口にしようとしたそのとき、父の鋭い視線に一瞬怯んだ。
…最期の力を振り絞った声は、今でも覚えている。
「…お前は…優秀な…娘…だ…。俺の…誇りでも…ある…。こんなところで…無駄死には…させたくない…」
「父上…」
「いいか…お前は…我ら…ヴァンパイアの…無念を…晴らす…のだ…。今では…なくとも…いつか…報われる…日が…くる…。そのとき…お前の…側に…誰か…いるはず…だ…。その者と…共に…この世界を…救って…く…れ」
そう口にした瞬間、父の表情から生気が失われ、目も濁りきったものとなった…。
私は直感する。
父は死んだのだと…。
「うぅ…ぐぅ…!!うぅ…ぐすっ…」
そのあとのことはあまり覚えていない…。
父を火で燃やし、残りを土に埋めたあと、私は一人でさ迷っていた気がする…。
どうすることもなく…ただ、歩くがままに…。
だが、それでも胸には確固たる意思だけは抱くようにした。
「…人間共を…滅ぼしてやる!!!」