88 死の淵②
…
ここは…どこだ…?
すっげぇ…懐かしい気がする…。
セミの鳴き声に…太陽の光…。
空には真っ白な入道雲が…。
周りを見てみりゃ…おぉ!
たくさんの大樹があるじゃねぇか!!
どこぞの森っぽいな…。
時期的に…夏か?
なんか懐かしいな…。
夏だけに…。
…あほか!
さっきまで緊急事態だっただろ!
急にノスタルジーに浸れるか!
まず何で俺はこんなとこいんだよ!?
くっそぉ…。
またいつもの超展開ってやつだよ…。
どうすりゃいいんだ!
…なんて思ってると…
「おーい!遊ぼーぜー!」
ん?
誰かの声が聞こえんぞ?
こんなとこに誰が…。
まぁ…せっかくだ!
確認しようではないか!
…
一
…
「…マサユキくん…何でいるの?」
「はぁ?いいじゃん!暇だろ?」
「…別に…」
…声のする方向に向かってみりゃ…おいおい…。
二人の子供が遊んでんじゃねぇか…。
こんな森んなかで…なんもねぇのに何してんだよ…。
マジでアブねぇぞ!
熊さん出るから!
くっそー!
注意してやる!
…あれ?
声が…出ねぇ…。
いや!
それだけじゃねぇ!
よく見りゃ俺の体…透明になってる!?
うっそー!?
どうなってんだ!?
「…あれ?ヒメ…またお話作り?」
「…勝手に名前呼ばないで…。迷惑…。あと…あたしの遊び…バカにしないで…」
「バッ…バカにしてねぇよ!気になるだけだし!」
「あっそ…」
…なんか二人のムードが険悪だなぁ…。
見たとこ男の子と女の子か…。
どっちも小学生くらい?
後ろ姿だからよくわからんが…。
男の子の方は…すっげぇ泥まみれ…。
まるでさっきまで遊んでました!って感じだな…。
俺も昔はあんな感じだったなぁ…。
女の子の方は…んん?
何やら腕とか足に傷が…。
アザもある…。
遊んでの怪我…ってより…なんかこう…人為的な感じがすんぞ…。
「…!ヒメ…お前…またいじめられたのか!?」
「…マサユキくんには…関係ないから…」
「バッカ!お前…そーゆーことはセンセーとか…親とか…そーだんしろよ!」
「いいもん…あいつら…いないようなもんだし…ヒメの顔見て…逃げるし…」
…なんかすげぇヘビーな話になってきた…。
けっこうきついな…。
いじめって意外と相談とかムズいイメージあるもんな…。
親とかに話して裁判沙汰にでもなったら、近所のやつに後ろ指差されちまうし…。
いじめはダメ!絶対に!
…と…俺の姿は…見えてねぇよな…。
せっかくだし二人の顔を見てみよう…。
俺は差し足忍び足でゆっくりと…犯罪者みたいに近づいて行く…。
…ちっ…違うぞ!
俺は…もぅいいや!
このやり取りめんどくさい!
とりあえずまずは男の子の顔を確認してみる…。
…へぁっ!?
マジで驚いた…。
…何故に?
そこにいたのは…。
「周りのやつが逃げんなら…俺にそーだんしろよ!」
俺自身だったのだから…。
…
一
…
マジで…ビビった…。
まさか…俺だったなんて…。
まぁ…正確には小学校時代の俺だけどな…。
妙にアホっぽい顔したやつは…まさに俺だ…。
これって…俺の過去…?
思えば…こうして森の中で遊んだ記憶があったような…。
ものスッゴい前の話だからあやふやだけど…。
…女の子の顔も確認するか…。
「マサユキくんだって…あたしの話なんか…絶対聞かない…わかってるんだから…」
…ショックだった…。
顔の半分にはひどい火傷…。
よく見りゃ額には小さな焦げあとまで…。
まさか…タバコを押し付けられたとかじゃ…。
着ている服もボロボロ…。
何でこんなことに…。
俺は…。
俺は…この子のことを…今の今まで…忘れてたのか…。
何で…どうして…。
「バカッ!ヒメの話はちゃんと聞く!だから…言ってくれよ!」
「…ウソつき…」
「嘘じゃねぇし!ヒメが苦しかったら…ちゃんと聞くし…ヒメが辛かったら…ちゃんと聞くし!」
「…ほっ…ほんと?…ちゃんと…聞いてくれるの?」
「当たり前だろ!」
「うっ…うわあぁぁぁぁぁん!!!」
女の子は突然大粒の涙を流すと男の子…小学生の俺に抱きついた…。
それはもう…見ている俺がもらい泣きしそうなくらい…。
…ホントに俺かよ…めっちゃカッコいいな…。
「うぅ…ぐすっ…ひくっ…」
「…たくっ…ヒメはマジで泣き虫なんだな!」
「そんなの…どうだっていいもん…」
…うん…。
なんか…恥ずかしくなってきた…。
こうして見ると…なんかね…。
「…あっ!また新しいキャラじゃん!こいつもお話のやつ?」
小学生の俺は地面に広がっているノートを見て、手に取り出した…。
なるほど…これが女の子の遊び…お話作りね。
「うん…今度は…超強い魔王様…登場させたいなって…」
「いいじゃん!めっちゃいい!おもしれーよ!」
「えへへ…!」
女の子は誉められて嬉しかったのか…目を細めて笑顔になった…。
火傷も霞むくらいの満面の笑みだ…。
「じゃあ…ね…マサユキくん…名前つけて!」
「はぇ?なっ…名前?」
「うん!この…女の子の魔王様に名前つけて!…いつか…この子をお話に登場させるから!」
「マジ!?やったぜ!んじゃー…えーと…そうだ!」
むちゃくちゃ悩んだ末…口にした名前は…。