85 焦り
「てめぇっ!…勝手に死んでんじゃねぇぞ!!女王のくせして…変なとこで意地張ってんじゃねぇ!!」
ちくしょうっ!
こんな…こんなことになるなんて…!
言葉は選んだつもりだった…!
あいつを説得できる言葉を必死に考えてた…!
それでも…!
届かなかった!
俺が油断した隙に最後の力を振り絞って、自らの手を動かし、爪で首を切りやがったのだ…!
今は俺の手で首を押さえているが…血は止まらない…。
くっ…!
もっと…もっとましな言葉を伝えればっ…!
「このやろっ…!逃げてんじゃねぇ!」
俺の必死の呼び掛けにも反応はない…。
これまで俺のしたことは…いったい…。
…そうしていると
「ユキ!どうしたんだ!いったい…!?」
「ユキ様!お怪我は!?…!」
翼を生やしたクリス…そして腕に抱えられたメーラが空から降りてきた。
二人とも俺が無事なのを確認して安堵してはいるが、血まみれのフィールを見て絶句している。
「クリス!メーラ!すまねぇ!…俺がヘマして…フィールのやつ…首を…切っちまっ…!」
くそ!
あれだけ助けるって言ったのに…約束も果たせねぇ…。
最悪だ…!
「…ぐっ…!…そっ…そうだ…血だ!フィールの血が…誰か…誰か…」
俺はパニックになった…。
輸血するにも血液型とかあるはずなのに…そんなとこまで思考が回らない…。
こんなんじゃ…こんなんじゃ…。
「ユキッ!!!」
ビクッ…。
突然のクリスの声に俺は飛び上がった…。
大地を揺らすほどの大声…。
心臓が止まるかと…。
だが…そのせいなのか…不思議と冷静に…落ち着くことができた…。
「クリス…」
「お前らしくない…!お前はこんなとき…そんな腑抜けた顔をするのか!?」
今まで見たこともない表情…。
泣きわめくでもなく、ぶちギレるわけでもなく、俺を叱責するクリスがそこにはいた…。
そう…だ…。
焦ったって駄目だ!
よく…考えろ!
「…すまねぇ…もう大丈夫だ…!」