5 魔王様が俺と結婚するってよ!
疲れた…。
少し矛盾点とかあるかも…。
申し訳ない…。
「…皆のもの!先日の戦、よくぞ戦ってくれた!我も魔王として誇らしく思う!」
ウォォォォォォォオ!!!!
…すんげぇ大歓声…。
クリスってこういう演説とかすると性格が変わるんだなぁ…。
さて、今何をしているか気になるだろう。
あの戦から二日後、俺達は全地域に存在するであろう魔物たちを集めて、魔王直々の勝利宣言を行うことになった。
こうして魔物たちの士気を上げることにより、これからの戦いにも力をいれるわけだ。
城の屋上から演説するクリスの姿はまさに魔王。
威厳漂う主としての風格は周りのものを屈服させるに値する。
俺はと言うと、クリスからやや離れた後ろの方で片足をつけながら待機している。
どうも魔王としての威厳を保つために、無礼な態度はよくないらしい。
『まったく…愚民様はそんなこともわからないようですね…。大勢の魔物たちの前でクリスティアーネ様に並び立つなど、抹殺ものです…』
メーラはそんなことを言ってたなぁ。
当然、メーラを含めた幹部級魔物も俺と同じように跪いているわけだ。
…なんか偉いやつって大変なんだな。
目の前の広場には大小大勢の魔物たちが大挙している。
…てっきりすんげぇ怪物が一杯いるもんだと思っていたが、可愛い女の子や美しい美女、ケモミミ少年に天使なんかまでいた。
魔物って言っても色々いるんだな。
「皆のもの!よく聞け!我ら魔物にとって平和とは何だ!それは支配だ!この世界にいるすべての人間共を支配し、真の平和を手にする!それがお前らの望みだろう!」
ウォォォォォォ!!!
…おっ。
さっそく今回の本題に入るわけか…。
ん?
本題って何かわかんないって?
まぁ、あれだ。
この前のやつだよ。
一
…
「おまっ!婿になれって…どゆこと?」
「なっ…なんだ?嫌なの…か?」
「いや…なんつーか…その…話が全然見えねぇんだけど…」
「なるほどな…。その話をするべきか…。お前も知っているように、我ら魔物は人間共を憎んでいる。中には捕まえた人間をためらいなく殺害するものまでいるらしい。」
「あぁ、ネトゲでも魔物に殺されたらステータスが大幅に削られた状態で再スタートするもんなぁ…」
「ん?何の話だ?」
「あっ…わりぃ…続けてくれ」
「…私としてはそういった支配は嫌なのだ。人間、魔物にとって共存できる世界…それを実現したいのだ」
「…クリスって魔王のくせに変わってるなぁ…」
「なっ…!そんなのはどうでもいいだろう!!」
「んで?なんで婿になるわけ?」
「…んん!まぁ、要は前準備のようなものだ。人間のお前と魔王の私が結婚することで、人間を安易に殺すなと説得するのだ。」
「でも、納得できねぇやつもいるだろ?」
「確かにな…。いきなり人間を殺すなと言っても理解できんだろう…。そこで、表向きは生かして支配しろ…という形にする」
「…あれ!?今気がついたんだけど、俺って人間なの?」
「?…そうだが?」
「…そういうことか…。つまり、俺とクリスは結婚するが、クリスの方が立場は上だと…。生かした上で人間の俺を利用する…みたいな?そんなことを魔物全体に伝えるわけか…」
「まぁ、そんなところだ。別にお前をどうこうする気はないがな」
「なるほど!」
「あと…私は…お前のことが…」
「ん?」
「…っ!いや、気にするな!とりあえず人間を殺さぬための準備だ!共存への道は長いが、まずはここから始めねばな!」
「そーいうことね!なら、俺としても協力するぜ!魔王様よ!」
「そっ…そこはクリスと言ってほしい…ぞ…」
「ん?…あぁ!表向きは結婚するもんな!んじゃ、改めてよろしくな!クリス!」
「!!…よろしく…頼むぞ…」
一
…というわけだ。
ん?「7つの宝珠」のリーダーを始末したことと矛盾してるって?
まぁ、確かにな。
ただ、クリスとしてはあの一件は相当後悔しているらしい…。
始末しなければこちらがやられる…。
だが、出来るだけ始末したくない…。
そういった思いを胸に抱いていたんだから、仕様がないかな…。
…といっても、リーダーは復活するけどな。
あくまでもネトゲプレーヤーだし。
…なんかすんげぇ複雑な気分。
この世界で生きる魔王は人間を殺したくないのに、その人間は何度でも復活するわけだし…。
めっちゃ不公平…。
「そこでだ!我は目に見える形で人間を支配することとした!こいつを見ろ!!」
そう言ったクリスは、右手に持っていた鎖をぐいっと引っ張っいく。
…ちなみにこの鎖は俺の首に繋がっている訳だが…。
どうも、大勢の魔物たちに支配するイメージを分かりやすくするために、人間の俺に鎖を繋げているらしい。
ある程度力は軽いが、ちょっぴり痛い。
ジャラ…ジャラ…。
鎖が鳴らす音と共に、俺は前に歩いていく。
とりあえず、怯えきった演技をするが…大丈夫かな…。
「この男は我が先の戦いで手にした戦利品だ!こいつを我の伴侶とする!未来永劫、こいつの自由は我が握ることとした!!」
ウォォォォォォ!!!
クリスティアーネ様万歳!万歳!万歳!
すんげぇ…!
皆クリスの演説に感極まってる…。
…にしても俺…一応魔王軍軍師ですよ?
誰も知らないのね…。
ちょっとショック…。
「皆のもの!これでわかったか!人間をむやみに殺す時代は終わった!これからは支配する時代だ!この先、捕まえた人間を殺すことは…我が許さない!肝に命じておけ!!」
ウォォォォォォ!!!…
ふぅ、なんとかなったかな…。
これなら捕まえられた人間が殺されることもなくなる…か。
共存への道は長くなりそうだなぁ…。
…なんて思っていると
「魔王様!恐れながら申し上げます!私はその結婚に断固反対いたします!!」
…えぇぇぇ…。
誰だよ…いいとこなのに…。
―
…
突如、反対意見を述べた魔物はまさかの魔王軍三大幹部の一人だった…。
フィール・メルリアーノ…。
青いショートボブの髪の毛に、ルビーのごとく光る瞳の持ち主。
顔は少し幼く、背も俺より低いように見えるが、確か300歳を軽く越えていたはず…。
恐ろしいロリ婆さんだ…。
ネトゲ内での情報では、15万人ものヴァンパイアの長、女王として君臨し、魔王の軍門に下ってからさらに勢力を広げる強者とのこと。
彼女の行動ひとつで、国が滅びかねないなんてことはよくある話。
はっきり言って、危険人物だ…。
さっきまでクリスの後ろで膝ま付いていた彼女は、スッと立ち上がり真剣な眼差しで見つめている。
うぅ…緊張するなぁ…。
「…フィール…なぜ我の結婚に反対するのだ?意見を聞こう…」
クリスはそう口にして、フィールの顔を睨み付ける。
おぉ、なんか怖い…。
この二人を敵に回したらヤバイけど、この二人が争うともっと怖い…。
「…誤解のないよう述べますが、私はクリスティアーネ様の人間を支配する思想には共感しております。あのような豚くず共は我々で管理しなくてはなりません。その点は理解しております」
ひぇ~…。
むちゃくちゃ過激だなぁ…。
人間を豚くず扱いなんて…。
「ですが、クリスティアーネ様がそんな豚くずと結婚することに関しては反対です。そもそも、結婚する意味などあるのですか?支配するなら、どこぞの牢屋にぶちこむのが一番だと思われます…」
…一応言っておくと、フィールを含めた幹部級魔物には、今回の結婚の件については伝えてある。
人間をむやみやたらに殺さぬように宣言するためのアピールだから、納得してほしいと事前にクリスが言っていたのだ。
あのときは皆納得していたように見えたんだけど…。
…そう言えば、気になるのがもうひとつ。
メーラとクリスは俺のことを知っているように振る舞っていたけど、フィールは俺のことは知っているんだろうか…。
てっきり、軍師だから幹部級魔物も俺の存在は理解しているかと思ったんだけど…。
フィールの俺を見る目は明らかに憎悪を向けている…。
もしかしたら…。
『…そうですよ。愚民様。フィールを含めた魔物全員は、愚民様のことなど理解していませんよ』
!
なっ…なんだ!?
突然頭の中に…。
『そうあたふたしないでくださいな…。愚民様。メーラが直接語りかけているだけでございます』
…そっ…そうなのか…。
すげぇな、メーラって…。
アンドロイドってこんなこともできるんだ…。
『はい…。旧型のアンドロイドは他人の心に語りかけることができます。ついでに、愚民様の考えていることも理解できるのでございます…』
あっ!
だから、こうして話すことなく会話ができるのか…。
ビックリしたぁ…。
もうちょいでおかしくなりそうだったよ…。
『左様でございますか…』
ん?
じゃあ、俺が包帯ぐるぐるになってたときは…。
『当然何を考えているかは伝わりました。ずいぶんとメーラのことを罵倒してくださいましたね…』
げっ!?
マジかよ…。
『てっきり、メーラのあんな姿やこんなポーズを想像していたかと思っていたんですが…残念です』
んなもん想像するか!!
…いや、それよりも…。
俺が他の魔物に知られていないって…どゆこと?
『愚民様は魔王様にとってかけがえのない存在だったと聞いております。それは子供のころから交流があったとか…。』
そうだったのか…。
俺とクリスってそんな関係だったのか…。
『しかし、だんだんと魔王軍の規模が増えると、人間である愚民様に危険が及ぶ可能性を考えた魔王様は、ごく限られた者だけにあなたの存在をつたえ、影の軍師という形で席をおくことになったのです…。当然、フィールにはこの事は伝えておりません』
なるほどな…。
だから、フィールは俺のことを…。
『フィールもあなたのことは憎き人間だと思われているはずです。影の軍師とは気がついていないでしょうね…』
ヤバイな…。
なんでクリスはこんな危険なことしようとしたんだよ…。
『…恐らく、愚民様を皆さんに紹介したかったのでしょう』
はい?
『紹介とは強引ですが…。愚民様を自由にしたかったのだと思われます』
いやいや!
余計わからん…。
『今はこれが精一杯です。いずれこの話は伝えたいと思います…。それではこれにて…』
あっ…ちょい待った!!
なんか、メーラの話聞いていると気になったんだけど…。
メーラって俺のことどこまで知ってんだ!!?
もしかして、俺が…。
『…』
ぐっ!
くっそー!
メーラなら俺がこの世界の住人じゃないことも知っているかと思ったのにー!
…いや!
それよりもまずは今の状況だ!
このままじゃ、フィールに面倒なこと言われそうだ…。
「魔王様!はっきりと申し上げます!そんな人間を婿にとるなど正気ですか!?魔王としての自覚はあるのですか!?」
「ぶっ…無礼者!!恥を知れ!この魔王にそんな口答え!許さんぞ!」
ヤバイな…。
二人とも熱くなってる…。
下手すると、今ここで戦闘になるかも…。
なんとか…なんとかしなくちゃ…。
…いや…なんとかなる!
せっかくこの世界に来たんだ!
クリスのために人肌脱いでやる!
メーラっ!
聞こえるか!
メーラ!
『…はぁ…愚民様はうるさいですねぇ…。なんでしょう…。さっきの質問には答えませんよ…』
スマン!
そっちはあとだ!
とりあえず、俺のことを聞いてくれ!
助けがいるんだ!
『はぁ…?』