74 フィールの心を縛るもの
…フィールのリンチは壮絶を極めた。
力を緩めることなく、しかし殺すことなく俺の急所を狙い、意識を失いそうになると顔を蹴りつける…。
その繰り返しだ。
鼻からはどす黒い血が流れ、口の端からもタラタラとこぼれ落ちる。
どうにか目だけは無事なものの、身体中に広がる痛みは引かない。
俺は生きているのか、死んでいるのかさえもわからなくなってきた…。
口のなかの血の味が生きている証拠だと理解しても、思考は追い付かない…。
俺は…ここで死んじまうのか…?
そう、諦めてしまいそうにもなった…。
「…なんだ…結局はお前も同じか…」
そうしたリンチが続いたその時。
フィールの落胆する声が届く。
俺はなぜか…あいつの顔を見るために、痛みで悲鳴をあげる体を無理して動かした。
俺の目に写ったのは…
「お前も…所詮は力を持たぬ弱者…面白味もない」
心底あきれ果てたとでも言うような顔をしたフィール。
そこには、殺気も怒気もない。
ただ…哀れむような…そうした雰囲気だけが漂っている。
「なめっ…てんじゃ…ねぇ…!」
ガシッ!
俺は咄嗟にフィールの足首を掴んだ…。
そうだよ…こんなとこで諦めんな!
今ここで…あいつを逃がすわけには…いかねぇだろが!!
「…なぜだ?」
「…なに…がっ…!?」
「なぜ…そうまでして戦おうとする?結果はわかりきっている…。ここで諦めるのは容易いだろう…。なのになぜそんな目で私を見る?」
なぜ?
…そうだな…。
フィールからすりゃ…俺はしがない人間…。
魔王さまに拐われた、あわれな人間ってことになってるもんな…。
でもよ…そうじゃねえ…。
「てめ…ぇに勝って…助けるって…約束…してンだよ!!」
クリスとの約束…それを果たすために…俺は…ここで戦っている…。
約束守んねぇと…あいつをもっと泣かせちまう…。
「話が見えんな…助けるとは誰をだ?約束とはなんの話だ?」
「んなもん…言うわけ…ねぇ…だろ!!」
「そうか…だが…そんなものは下らんな」
それでもフィールの目は変わらない…。
俺の覚悟を見ても、なにも思わない。
それほどまでに…あいつの過去は重すぎるのか!?
「お前の約束とやらは…所詮はままごとに過ぎん。私の覚悟に比べれば…なんの価値もない」
「ンだとッ!!?…ウグゥッ!」
「現にこうしてうずくまっているではないか…。私の人間に対する復讐心に打ち勝つつもりなら…殺すつもりで戦うべきだったな…」
くそっ…言いたい放題言いやがって!
俺は荒ぶる感情のままに、フィールの目を見て言い返そうと睨み付け、反論しようとした
…はずだった…。
「…!」
だが…その時…。
俺の体を支配していた怒気も、荒れ狂う感情も落ち着いた。
俺は…言葉を出せなかった…。
「なんだ?…言い返すならはっきりいったらどうだ?」
フィールはそんな俺の様子に疑問を口にする…。
気づいていない…。
あいつは…自分の『心』に気づいてないのか?
「…お前の…人間の恨み…ホントは…『嘘』…なんだろ…?」
「…何?」
俺は…言わなきゃならない…こいつの心を縛っている…何かを壊すために…。
「だって…お前…」
「泣いてる…ぞ…?」




