3 その頃、俺はベッドで寝てました。
…。
いっ…てぇー…。
なんか頭がガンガンしてきた…。
そう言えばあれからどれくらい経ったんだろう…。
俺は全身の痛みを感じながら、むくりと起き上がってみる。
…おおぅ…包帯だらけだ…。
口元まで覆われたおかげで息もしにくい…。
どうやらベッドの上で寝転んでいたようだ。
「お目覚めですか?この愚民様」
声のした方を向くとそこにはメイド服に身を包んだ、可愛い女の子がいる。
…魔王軍三大幹部の一人、メーラ・ステリアル。
まさかこんなやつまでいるなんて…。
真紅の髪の毛をツインテールに結んだ姿や、人形のような蒼の瞳…。
一度見たら忘れることもないだろう。
…ネトゲ内での情報によると、とある帝国によって作り上げられた、旧型の心を持つアンドロイドだったとか…。
魔王に忠誠を誓い、メイド服に身を包んで戦う姿は『血まみれメイド(ジェネラルクイーン)』…なんて言われてたらしい…。
…ん?
なんでメイド(クイーン)になっているかだって?
はっはっはっ…。
スマン…そこはわかんない。
まぁ、そんなもの調べる必要はないな…。
めんどくさいし。
「何を私の体を見てニヤニヤしているのですか?あれですか?私のような非生命体に欲情したのですか?バカですか?豚ですか?ゴリラですか?」
…こいつ…なんかリアルだと毒舌過ぎるだろ…。
いや、毒舌というかただのドSだな…。
すっげぇムカつく…。
「…うっせぇなぁ…。お前には欲情の「よ」の字もねーよ」
なんて言い返したら…
「っ…!?…珍しいではないですか…この愚民様…。この私にそのようなツンデレを見せるとは…」
いやいや!!
ツンもデレもねーよ!!
嫌悪感しかねーよ!!
どうしたらそんな風に思うんだよ!!
ポジティブシンキング過ぎるだろ!!
…と言いたかったがまだ全快とは言い難く、言う気力もなかった。
「そう言えばご報告がまだでしたね…。先ほどクリスティアーネ様が敵陣に乗り込み、リーダーを始末しました…。我軍の勝利です」
おおぅ…。
仕事がはえぇ…。
でもまぁ、なんとか危機は脱したな…。
良かったわ…。
「まったく…愚民様から出たナイスミドルなナイスアイディアがこんな形でうまくいくとは…。メーラの靴をなめさせたいぐらいです」
うん…。
靴はいいから…。
そんなもん何のご褒美にもなってないよ?
…とはいえ、確かに俺の策がここまで成功するとは…。
何だかスッゲー嬉しいわ…。
―
…
ギルド「7つの宝珠」との戦いでは、圧倒的に不利だった魔王軍。
そこからの逆転勝利はほぼ絶望的だった…。
では、なぜ勝つことができたのか。
それは、俺の持つあるスキルの存在が決定的だったのだ。
それが
「継承スキル」
このスキルを使用したプレイヤーは、1時間の間行動ができない。
自分の持つスキルの中から3つまでを選び、効果発動の期間、他プレイヤーに継承させることができる。
…まったくもってふざけている。
内容を見てわかる通り、非常に使い勝手が悪い。
使用プレイヤーを事実上戦闘不能にして、仲間をパワーアップさせるサポート系のスキルなのだが、活躍する機会は限られている。
まず、スキルを継承するにしてもほとんど意味がないのが厳しい。
同じレベルのプレイヤーは基本的に、身に付けているスキルは似たり寄ったりだ。
そんな状態で使うにしても、どのスキルを継承させるべきかよくわからなくなってしまう。
そして、行動不能にしてしまう副作用。
一番の問題点はこれだ。
味方プレイヤーを1人減らすというのは、あまりにも非効率。
しかも、回復ポーションで復活できるわけではなく、一定期間はどうすることもできない。
ここら辺が痛い。
…このようにしてこのスキルはワンスラ史上最悪のスキルと呼ばれ、使用されることが滅多にない、都市伝説クラスのスキルとなってしまったのだ…。
…スマン…。
ここまで難しいこと言っちまったな…。
んじゃ、どうやって俺達魔王軍が勝ったのかについてだが…。
作戦は至極簡単。
「継承スキル」を使って、俺の持つ「潜入スキル」と「幻影スキル」をそのままクリスに継承させたのだ。
…多分、この作戦は俺ぐらいしか使えないだろうなぁ…。
何たって、ありとあらゆるスキルを手にしちまってるし…。
普通のやつがこの作戦を実行しようとしても、スキルを増やすために地獄のようなレベル上げをしなくちゃならん…。
2つのスキルを手にしたクリスは、まず「幻影スキル」で分身体を作り、相手に見えるように城での作戦指揮をさせる。
これによって、相手はクリスが城で指揮をとっていると錯覚する訳だ。
実際は偽物クリスが指揮をとっているとは知らずに…。
そして「潜入スキル」を使い、本物のクリスは楽々リーダーの懐に潜り込んで、勝負を決める。
まったくもって完璧な作戦だぜ…。
ちなみにクリスは魔王だからか、一度に使用できるスキルが3つまで…というハイスペックぶり…。
ホントおかしいだろ…。
この作戦一番の欠点は俺が戦闘不能になるとこか…。
スキルを使った瞬間、激しい頭痛と吐き気、気絶するような痛みがやって来て、一瞬で俺はリタイア…。
…行動不能ってこんなにキツいもんなの?
まぁ、今となってはどうでもいいけどな…。
だが、俺のおかげで魔王軍を勝利に導いたという達成感は、ネトゲでは味わえない気分だわ…。
やべぇ…。
俺、ここに住もうかなぁ…。
―
「…さてと…。そろそろクリスティアーネ様も帰ってくる頃ですね…。メーラはお迎えに行きますが、愚民様はどうされますか?メーラのパンツでもフガフガしてみますか?」
てめぇ…。
病人に向かってなんつー態度だよ…。
靴からパンツに格上げされても嬉しくもないわ!!
「…冗談です…。そんなに睨み付け…見つめないでください…。嬉しくもありませんので…」
おまっ!!
勝手に自分にいいように解釈すんな!!
俺の目が見つめてるように見えるか!?
睨んでんだよ!
…と、心のなかで突っ込んでいたが、当然メーラは気にすることなく部屋を出ていった。
「それではごきげんよう愚民様…。今日はベッドの上で包帯拘束プレイでも楽しんでください」
ガチャン!
…扉が閉まる音が部屋に響き渡り、俺1人ポツンと取り残された気分は嬉しくない…。
少しでも看病してくれるやつとかいないのかよ…。
一
…うーむ…。
あれからそこそこ時間がたったよなぁ…。
メーラが出ていったあと、外ではビックリするほどの大歓声が響いていた。
きっとクリスが帰ってきたのだろう。
大規模ギルドを打ち破った英雄は多くの魔物に讃えられ、称賛される…。
まったく、羨ましいぜ…。
…んん?
なんか、さっきからうまそうな飯の匂いがここまで漂ってくるぞ…。
祝勝パーティーでもしてるのか?
おいおい!!
どう考えても今回のMVPは俺だろ!
なんで誰も来ねぇんだよ!!
チクショー!!
こんなことなら、もうちょいマシな作戦考えれば良かったわ…。
…なんて考えていると
ガチャ…キイィィ…。
扉が開く音が聞こえてきた。
おぉ!
やっと迎えが来てくれたか!
「…ユキ…いるのか?」
ひょっこりと顔を出したのは我らが魔王様…。
…って!
なんでお前が来るんだよ!
「…その…大丈夫…なのか?ぐったりと倒れていたが…。…っ!なんだこの包帯は!まさか!?よほどひどいのか!!?」
クリスは俺の元に駆け寄ると、包帯でぐるぐるの体をさすってきた。
…ちょっと待って!
すんげぇくすぐったい!
もうちょい優しく…。
なんて考えていたら
「うぅ…。ぐすっ…ふぇぇぇん…死んじゃやだぁ ぁぁぁ!!」
…。
あれ?
俺の目の前にいるステータス最強の魔王様がワンワン泣いてんだけど…。
…もしかして…魔王って泣き虫…なのか?