53 吸血女王の本気!
チャポンッ…。
「人間…これが何か…わかるか?」
フィールはポケットの中から液体の入った瓶を取り出すと俺に尋ねてきた…。
なんか…薄緑色の…メロンソーダみてぇな感じがするなぁ…。
「はぇ…?いや…全然…」
俺は当然首を降る…と、フィールは侮蔑の目で睨み付けながら説明する…。
「ふん!…人間のお前ならわからんのも無理はない…。こいつは月光薬といってな…人狼や吸血鬼のような、夜に力を発揮する魔族専用のドーピングだ…。これを飲むと、一定時間大幅に力を増大させることができ、その効力は市販のドーピングと差がないと言われている…」
「へっ…?なんでそんなもん…」
「とぼけるなよ…この日に備えて…ドーピングを買い占めたのはお前だろう!…いや…正確にはお前に協力する者の仕業らしいが…。どうやらお前にも仲間がいるようだな…」
「うぐっ!」
「…まぁ、月光薬は我ら吸血鬼を含めた、限られたものしか知らんからな…。緊急時に備えて確保していたわけだが…お前の仲間も月光薬までは手が回らなかったと見える…」
くそっ…!
さすがのメーラも全部を確保するのはキツかったか…。
無理をさせてしまった手前…申し訳ない…。
「さて…そろそろお互いに本気を出すべきではないか?お前もドーピングを持っているはずだが…」
…確かに…いくらかドーピングはある…。
いや…決闘開始前から事前にいくらかは飲んでいたが…それでもフィールを追い詰めることさえできないなんて…。
くっ…!
ここは無理して、大量に飲むのも…。
『飲みすぎると身体に毒ですので、ほどほどに…』
…脳内に再生されるメーラの忠告…。
それが俺の心の中で一種の怯えが生まれる…。
…ちくしょう!
俺は何を…躊躇ってんだ!
そうこうしていると…
ゴクッ…ゴクッ…ングッ…。
…パリンッ!!
月光薬を飲み干し、瓶を投げ捨てたフィールの姿が…。
絶望が俺に迫ってくる…。
決闘開始から1時間2分経過…。