81 暗闇の世界
気がつけば…そこは暗闇の世界だった…。見渡す限りの暗黒…。自分がどこにいるのかもわからない…。
一瞬の出来事…自分が何をされたのか…理解できなかった…。
そして…もうひとつの違和感に気がつくのにホンの数秒…。男は…バルコスは自分の右手を握り締める。
ギュッ…グッ…
「ひっ?囚人のやつが…いない?どこに…。そもそも…ここはいったい…」
普段の彼からは想像できないほどの焦り…。さっきまで勝利を確信していたはずが、夢であるかのように霧散…。
まさか…本当に夢だったのか?そう思うほど…。
試しに立ち上がり…そこら一帯を歩いてみる…。
タッタッタッタッ…
「…ここは…どこ…なん…だ…?今まで…何が…?」
さっきまでいたのは…擬似的な太陽の照りつけるエリア…『陽光の間』…。
それが…あっという間に夜になったかのように、静かな闇が広がる…。
一瞬…バルコスの胸に嫌な予感が…。身体中から汗が流れ…その恐怖はやがて身を蝕み始めた…。
「ひっ…ひっ…ひっ…!?ひっ…ひひひひ…!…どこに…いるんですかねぇ!?出で…出てきてくれ…く…ひひひひひ!!」
誰もいない…真っ暗な世界…。ただ歩くことしかできない…不気味な空間…。
バルコスは…いるはずのない人間を求めて…ただ進むことしかできなかった…。出会うことなど…叶わないとわかっていながら…。
ー
…
「…それで…これはどういうことなのね?」
「…ゴホッ…エッホ…おぉ…ティナ…。お前の…おかげで…たす…助かった…オエッ…!」
「ふぅ…ティーにはよくわからないのね…。でも…あの男は倒したようなのね?」
「…おぅ…」
いやぁ…間一髪…。死ぬかと思った…。
そこには…ぐだっと寝転ぶ俺と…俺の腹の上にのっかるティナがいた…。あきれた幼女が俺のお腹に座り込んでるなんて…変なシチュエーションだな…。
さてと…ここで俺は一体何をしたかなんだが…。とあるスキルを使って…バルコスを戦闘不能…みたいな感じに追い込んだわけだ。そのスキルが…
『位置交換スキル』
このスキルを使用したプレイヤーは、任意で2人のプレイヤーを選択する。
プレイヤーを選ぶ条件は以下の内容。
・スキル使用者の体…もしくは、それに準ずるものに触れている。
スキルを発動させた瞬間、選ばれた2人のプレイヤーの位置をそれぞれ逆転させることができる。
なお、スキルの再使用には2分間を要する。
うん…とんでもなく使い勝手のわからんスキルだろ?
スキル使用者の体に触れている…という条件で2人を選択…。その2人の位置を逆転できる…ってやつだ…。
どう考えても…至近距離の2人の立ち位置を入れ替えるだけって…あんまり使えないよなぁ…。
んまぁ…全く使えないわけじゃない。
例えば…味方プレイヤーの一人が、脱出不可能の鉄格子牢獄に閉じ込められたとして…。
こっちには捕虜となった敵プレイヤーがいるとしよう。
そういうときに…このスキルを使って味方プレイヤー…敵プレイヤーの位置を入れ換えると…!
そう!味方プレイヤーを脱出させ…敵プレイヤーを牢獄に閉じ込められるのだ!
一応…ワンスラでも似たような使い方がチラホラあったみたいだから、『位置交換スキル』の有用性はそれなりにあったんだろな…。
とはいえ…あくまでもこのスキルは戦闘向きじゃない。俺もこのスキルのことは、さっきまでさっぱり考えていなかった…。
…が…ここでちょっとしたイレギュラーが存在している。
それが…影人一族のティナだ!
もし…『影の中』にいるティナと…『外の世界』にいるバルコスの位置を入れ替えたら?ティナは外の世界へ…。バルコスは影の中に入れられることになる。
そして…ただの人間…バルコスは影の中から出ることはできない!
よーするに…バルコスを影の中に引きずり込んで、戦闘不能にしてしまう…という作戦なのだ!
ここで不安だったのは『影の中』…というのは、『俺の体に触れている』…という条件に合致しているか…というところ。
そこは完全に賭けだったが、影も俺の一部みたいなもんだしな。勝算はあった。結果的にも…スキルの影響はティナにも届いたし!万事オッケーよ!
…という諸々の説明をティナにすると…呆れ果てたようにため息をついて、俺をジロリ…と睨んできた…。
「ふぅ…大怪我のティーを利用するなんて…。無茶苦茶なのね!」
「…そこは悪かったよ…。…つーか…怪我は大丈夫なのか?」
「回復魔法を使って…なんとかマシにはなったのね!痛みは残ってるけど…大丈夫なのね!」
「そっ…そうか…」
焦ったぁ…。俺のスキルのおかげで傷口が悪化したら…と思うとヒヤヒヤする…。今度から気を付けよ…。
…んーと…そういや…
「なぁ…ティナ…。影の中ってどーなってんの?」
「どうもなにも…光が全くない…暗闇なのね。どこを歩いても真っ黒…。ただの人間が入ったら、数分で発狂するかもしれないのね」
「…こわっ!」
マジかよ…それはヤバい…。ネットで有名な『○億年ボタン』に通じる怖さがあるわ…。
…これは早いとこバルコスをどっかに解放しないとな…。




