38 戦いは始まる前から始まっている…。
残り10分…。
刻一刻と迫る決闘に神経をすり減らすなか、私とクリス様はそれでも愚民様を信じていた。
きっと勝つと…。
負けるわけがないと…。
それでも周りの魔物は、私たちの思いなど知るよしもないという風にギャンブルを楽しんでいた。
「おらおら!!人間様にも賭けてやれよぉ!!まだ時間はあるからよぉ!!」
「へっへっへっ!人間様が勝てるかよぉ!!バーカ!!」
「あひゃあひゃあひゃ!!」
…醜い言葉を吐き散らしながら、どんどんと騒ぎは大きくなる。
くっ…なんという屈辱…。
そんなことを思っていると
「メーラさん!さっきぶりですね!ウザインです!」
一人のオークが私とクリス様のいる特等席に向かって挨拶をして来た。
「ウザイン…。今回の協力、感謝します…。無理を言って申し訳ありません…。」
「なーに!メーラさんの頼みならなんでも請け負いますよ!!ワッハッハッハッ!!!」
豪快に笑うウザイン。
そんな様子にクリス様は当然の疑問を投げ掛ける。
「…?メーラ…知っている奴か?」
「はい…先程までユキ様の控え室の前で監視員を務めていた方です」
「なっ…!敵じゃないか!」
「いえ…安心してください。ウザインは敵ではありません。味方です」
「味方?監視員なのにか?」
なぜ監視員が味方なのか…その疑問に答えるべく、私は丁寧に説明する。
「…今回、私が直々に依頼したのです。表向きはユキ様の拘束、監視ですが、実際はユキ様の命を狙う暗殺者を追い払っていただきました」
「!?…暗殺だと!?そんなやつが…」
「はい…スキあらば、待機しているユキ様を仕留めようとするものがいたようです。…といっても、この情報は昨日手に入れたものですが…」
「…まったく…油断ならないな…」
確かに…。
決闘を始める前から命を狙われるとは…。
事前に手を打っていたとはいえ、恐ろしい…。
「…ということは…監視員、ウザインを買収した…わけだな?」
「そういうことです」
「なるほど…」
クリス様は納得した様子で、改めてウザインの体格を確認する。
オークにしては珍しく膨大な筋量、見るものを圧倒するでかい体…。
右手に持つこん棒で殴られれば、ひとたまりも無いだろう。
クリス様にじっくりと観察され、ウザインは
「いやぁ…テレるじゃねぇですか!魔王様にここまでじろじろ見られるなんて…」
…と恋する乙女みたいな顔で恥ずかしがっている。
まったく…調子に乗りすぎです。