59 …?面会ですと?
…ん?待てよ…。今思ったんだが…。
「…あー…もしよ…影がなかったらお前どーなんの?ここには蝋燭あるから影はあるんたが…入ったまんまで出られないとか?」
「…ふん!当たり前なのね!」
「いやいや…そんな自信満々で言えねぇだろ…」
「仕方ないのね!影人一族は影がなかったら入れないし…出ることもできない…。それだけが取り柄なのね!」
「…なんかめんどくせーな…」
「うるさいのねっ!」
ふーむ…。影がねぇとどうにもできないってのは初めて聞いたな…。…うーむ…。
「…その様子…お前も影の中に入りたいようなのね?」
「はぇ?いやいや…そーいうわけでも…」
「言っておくけどね!ただの人間が影の中に入るなんてできないのね!仮に中に入ることができたとしても…一生影から出ることもできないのね!…つまり…変な期待はしないことなのね!」
「変な期待?」
「…お前…誰かの影に入ってここから脱出するつもりじゃなかったのね?」
「あー…そーいう方法もあったか!」
「なっ!…ティーの早とちり!?」
「わりぃな!俺にはそんなこと考える気もなかったわ!」
「なっ…なんかムカつくのね!」
ふーむ…まぁ確かに誰かの影に入るって面白そうだよな…。人間には入れないとか言ってたけど、ティナの言い方だと方法がないわけでもないような…
「…はぁ…なんか疲れたのね…。お腹もペコペコ…なにか食べたいのね…」
「あっ…そういやお前なんも食ってねぇじゃん!大丈夫かよ…」
「ふん!影の中にいた間は、お前の栄養をもらっていたのね!」
「なっ!ひっでぇ!心配して損したわ!」
ふぅ…なんかこうしてあーだこーだとやり取りすると疲れるが、なんかこう…気が楽になるなぁ…。少なくともこんな部屋で一人でいるよりは嬉しいぜ…。
…とはいえ…
「…ふぁぁぁぁ…。ねむ…。なんか頑張りすぎたから…寝よ…」
「…っ!…だからっ!ここから出る方法を考えるのねっ…!」
ゴソゴソゴソ…ゴロン…
「…って!さっそく寝転ばないのねっ!!起きるのねっ!」
「…おやすみ…」
「もぅ!お前は…!」
ティナの怒声には耳を傾けず…俺は疲れきった体を落ち着かせると、そのまま安眠の彼方へと向かうことになった…。
はぁ…これからどうするかなぁ…。
―
…
「おい!起きろ!囚人!」
バシィッ!
「ほぁっ!?…なっ…なにが…」
「黙れ!いいから面会だ!こっちにこい!」
朝一番…突然の痛みに跳ね起きた俺は、鎧に身を包んだおっさんから怒られた…。…つか…今何時だよ…。全然寝てねぇような…。
「あの…今何時すか?」
「いいから立て!さもないと…これで痛い目をみるぞ!」
バシィッ!
「イテテ…!もう痛い目みてるんすけど…」
このおっさん…。なんか俺をやたらとムチでぶっ叩いてくるんだが…。昨日ぐらいに聞いた二人のうちのどちらでもないような感じだな…。ただの衛兵…とかか?
おっと…そういやティナは…
「…?」
「貴様っ!どこを見てる!」
「あっ…あーと…スンマセン…」
うーむ…ティナのやつは影の中に入ったらしいな…。まぁ…出てきた状態だったら面倒なことになるから仕方ないか…。
それにしても…面会って…。いったい誰だ?俺みたいなやつに会いに来るのって…。んまぁいいか…とりあえずおっさんのあとに続いていこう…。下手に抵抗してたらボコボコにされるし…。
「囚人!…あと…こいつをつけとけ!」
ジャラッ…ジャラジャラ…
むっ…!この鎖に繋がれた手錠…。よっぽど俺を警戒してるわけか…。
「はぁ…つけりゃいいんでしょ…つけりゃ…」
ジャラッ…ガチャッ…!
重々しい響き…。俺を完全に拘束したそれは鈍い光を帯びている…。…つーか…前にも似たようなことあったよな…。俺って…拘束される運命線でもあんのか?勘弁してくれよ…。
―
…
…というわけで…また監獄内をうろうろすることになったわけだ…。目隠しさせた状態で引っ張られる…ってのはホントに怖い…。下手したら大怪我のモトだ…。くっそー…屈辱的…。
「…これから我々の監視の元…ある人物との面会が行われる。逃げようとしないことだ…」
「あー…わかってるよ…」
「面会時間は10分。それ以上の超過は認められない。それを覚えておくように…」
「…つーか…俺に面会するようなやつとか…どんなやつだよ…」
「ふん…。お前も知っているやつだ…。別に驚くこともない…」
「…!?それって…」
「いいからついてこい!モタモタするな!」
グイッ…!
「いつつ…引っ張るなって!」
ふーむ…。誰なんだ…。俺みたいなやつに興味を持つ…なんて…。さっぱり思い付かん…。魔王軍のやつらがこの国に入り込めるわけないし…いったい…。
「さぁ!ここだっ!入れ!」
おっ?もう着いたのか…。目隠しされてたからどこかわかんねぇが…。まぁ…お言葉に甘えて…入りますかね…。
―
…
「…さっきぶりだな…少年。さすがに私だとは予想できなかったか?」
「おまっ!レイヴォルト!」
「まさか…玉砕覚悟で突っ込んでくるとは…。おかげで魔王一派を取り逃がしてしまった…。私もまだまだだな…」
おいおい!なんでこいつが来るんだよ!天下の剣聖様が俺に用があるとか…想像もつかねぇ…。
場所は薄暗い尋問部屋…みたいなとこか…。つっても俺のいたとことほとんどかわりない…。不気味な蝋燭…気持ち悪い苔…。雰囲気も最悪…。
少し違うとこがあるとすれば、俺とレイヴォルトの椅子…そんで、間に木製の机がちょこんと置いてあるぐらい…。
俺は自分の席にドカッ…と座るとイライラしながら言葉を口にする…。
「…何の用だよ!俺を脅しつけて…魔王軍の情報でも搾り取ろうってか?」
「いや…そんな面倒なことはしない。そもそも…そんなことをするより、人質にとって魔王軍と交渉する方が効率がいいだろう…」
「むぅ…」
「とはいっても…ハルア教のこともある。君をどうするかはまだ先の話だろう…」
先の話…ねぇ…。どっちにしても俺の未来はこのままだとヤバイことになる…。それまでにここを脱出できたらいいんだが…。
「それより…私がここに来たのは別の理由があってのことだ…」
「べっ…別の理由?」
こいつ…なにが気になってるんだ?
「まず…お前はいったい何者なんだ?」
「ほぁ?」
「今までハルア教の者たちが各地で暴れていたのは確かだが…その目的はわからない状態だった…」
「…」
「そんなときに…今度は少年をターゲットにすると言い出した…。白き竜を操る君をね…」
「そっ…それはだな…俺にはなんかこう…変な魅力が…」
「変な魅力…。そんなものはまったく感じないが…」
「…ちょっと傷ついたんすけど…」
「…まぁ…ともあれ…君という存在が、これからの世界において重要なものになったことはわかるはずだ…」
重要な…。んなこと言われてもわかるかよ…。俺はただの高校生で…ゲーマーで…一般人だったんだが…。
…うーむ…。考えれば考えるほどに頭がこんがらがるなぁ…。そんな俺の様子を気にすることなく…レイヴォルトは次の質問を投げ掛けた。
「そしてもうひとつ…君にはなぜ白き竜を操ることができたのだ?」
「あー…それは…なんか…キューちゃんがなついたようでよ…」
「キューちゃん…随分とかわいい名前をつけたな…」
「うるせぇ!」
「…参ったな…これでは話が進展しない…。君の口から興味深い話が出てくれたらとは思ったんだが…」
くっそー…。レイヴォルトのやつ…あからさまに落胆したような態度とりやがって…。こっちは色々と考えなきゃなんねえってのに…。