58 捕まえられて…
バッシャァァァァ…ン…！
「おぷっ…！？うげぇっ！…！」
気がついたとき…俺はものすごい痛みと吐き気…そして目眩を感じながら座っていた…。
座っていた…というよりは拘束されていたみたいなんだが…。両腕の自由は利かねぇし、足も動かねぇ…。よっぽど頑丈に縛ってるんだろうか…。しかも辺りは真っ暗…。どうなってるかさえわからん…。
俺の頬には冷たい滴が流れる感触が…。たぶん水でもぶっかけられたんだろうな…。
くそっ…！レイヴォルトに突っ込んでいったのは覚えてんだが…そっから先が思い出せねぇ…。
「おい…気がついたか？今お前は我々の監視下にある…。お前をどうするも我々の判断で決まることを忘れるな…」
「…ヒヒッ…。看守長…そんなもん決まってるでしょう？即刻処刑っすよ？」
「貴様は黙れ！」
「ヒハハハハ！！…ヘイヘイ…」
うん…？なんか俺のすぐ側から声が聞こえてくるな…。声の感じからして二人…。おっさんと若い男の声がすんだが…。なにもんだ？
「なっ…なぁ…これってどういう…」
俺は意を決して二人に尋ねてみることに…すると…
バシィィィ…！！
「おぐっ…！いってぇぇ！」
「ヒヒヒ…俺たちになに言ってんの？黙ってろよ！！この犯罪者！！」
「おい！手荒な真似はするな！」
「ヒヒヒ…！」
くっそぉ…。なんか知らねぇがぶっ叩かれちまったぜ…。んまぁ…魔王軍の一員なんだから、拷問は当然だとは思ってたがよ…。
ふーむ…状況から察するに、俺はレイヴォルト達に捕まってしまったようだな…。そんで…監獄かなんかに連れてかれて、今になって目が覚めたっと…。
そうなると気になるのが…やっぱりクリスたちの安否だ…。
「…捕まえられてんのって…俺だけ？」
またぶっ叩かれるんじゃないか…なんて思ったりもしたが、俺はいつの間にかそう口にしていた…。そんな俺の言葉に側にいたらしいおっさんは…
「…あぁ…お前のおかげで魔王は取り逃がしたよ…。捕まえたのはお前だけだ…」
悔しそうな…そんな口調で答えてくれることに…。
「そっ…そうか…」
「ふん…。なぜあんなことをした？お前が捕まったらすぐに殺される…そうは考えなかったのか？」
「…いや…お前たちに俺は殺せない…。そう思ってよ…」
「む？」
「お前たちの目的はクリスであって俺じゃねぇ…。俺を捕まえても利用価値があるうちはなにもしない…。実際…こうして縛ってるだけだしな…」
「…ふざけおって…」
おっさんはそう吐き捨てると、忌々しそうに睨み付けてくる気配が…。たぶん…上の奴から俺の処遇について『待った』がかけられてんだろうな…。早々に殺すな…とかなんとか…。
それにハルア教…パルバリーナとの関係にも注視しなきゃならない…。この複雑な状況…その隙を突くことができりゃ…。
そんな俺の思考の中…おっさんは若い男に向かって厳しい声で命じていく。
「…バルコス…この男をさっさと下の牢獄へとぶちこんでおけ！くれぐれも痛め付けるな！」
「ヒヒヒッ…！えぇ…わかりましたとも…ヒヒッ！」
…牢獄ねぇ…。うーむ…さっぱりわかんねぇな…。まぁ…ここからの脱出はあとで考えよう…。もしかしたら…チャンスがあるかもしれねぇしな…。
―
…なーんて俺の期待は一瞬にして崩れちまった…。恐ろしいほどに…ここからの脱出は絶望極まるものだったからだ…。
まず…この監獄っぽいとこがとんでもねぇほど広い感じがする…。たぶんそこら辺の野球スタジアムよりも遥かにデカイ…。目隠しされた状態で歩かされたからハッキリとは断言できねぇけど…周りの雰囲気からしてそんな気がすんだよなぁ…。
しかも変な奇声とか…ムチのしなる音とかするし…。めっちゃ気味が悪い…。まさに監獄ってわけだ…。
そんで…俺はどこにいるかと言うと…
「…はぁ…なんでこんなとこに連れてかれるんだよ…。なんもねぇじゃねぇか…」
なんつーか…一人でポツンと牢獄の中でボーッとしてる…。よくある鉄格子付きの部屋じゃなく、全面石で出来た寒い一人部屋…みたいな感じ…。
鉄扉の他にはボロっちぃテーブルに…火の灯った蝋燭…。部屋は限りなく真っ暗…。まさに絶望の部屋だな…。こんなとこで住んでたら一瞬で廃人になっちまう…。
「くっそぉ…なんかねぇかな…。脱出できる手がかりとか…」
ゴソゴソゴソ…
俺はとりあえず…蝋燭の明かりを頼りにそこら辺を見て回ったが…変な生き物や苔があるだけ…。脱出できる隠し扉なんてものはなかった…。
…このままじゃ…マズイってのに…。
「はぁ…八方塞がり…どうしようもねぇな…」
ドカッ…ゴロン…
しょうがねぇ…。こういうときは寝転んで鋭気を養っておこう…！もしかしたら明日には妙案が思い付くかもしれねぇし！
寝転ぶには少々居心地悪いが…まぁ…ね…。
そんじゃ…おやすみなさーい…
「…ふん…お前…なに寝転んでいるのねっ！」
「うん？いや…なんもできねぇから…もう寝るわ…」
「アッ…アホなのね！！そんな調子で…どうやってここから脱出するのね！」
「いや…どうもこうも…これはちょっと…って…ん？」
おん？この妙に可愛らしい声は…誰だ？ここには俺しかいねぇのに…。
俺はムクリ…と起き上がると、声のする方へ顔を向けることに…。そこにいたのは…
「…やっと気がついたのね！ホントに…イライラさせるのねっ！」
「…ホォォォォォン！？」
おっ…おいおい…！俺は幻覚でも見てるのか！？なんか…ティナがいるんだが…！？
「おっ…おまっ！いつの間に…！？」
「…いつもなにも…お前がこの国に来る以前からずぅぅぅぅ…っと影の中にいたのね！」
「はっ！？えっ…！？どゆこと！？」
「…あのパーティーの最中…どさくさに紛れてお前の影に潜んでいたのね！食べることに夢中のお前をちょっと驚かせようと思っていたのね！」
「パーティー…って大分前のあれか！」
「そしたら…なーんかメーラのやつが新婚旅行がどうたらこうたら…。お忍びで計画しているのが聞こえたのね！」
「まさか…お前…あのときの会話まで！？」
「ティーを置いて行くなんて許さないのね！しかもグリンシュテン王国にはおいしいお菓子がたくさん…。…それでティーも付いていったのね！」
「マジかよ…それまでずっと俺の影の中にいたなんて…気がつかなかったぜ…」
まさか…ティナまでいたなんて…。今の今までわかんなかったわ…。ものすごい超展開…。
