56 VS剣聖レイヴォルト①
そうしていると…
「…キューン…?」
ピョコッ…
俺の胸ポケットからキューちゃんが…。まるで何が起きているのかわかっていないような…のんびりした表情をしている…。
レイヴォルトもキューちゃんを見て、一瞬戸惑いを見せるが…すぐに正体に気がついたようだ。
「なるほどな…。そいつが白きドラゴン…。あの女が言っていたやつか…」
「…!パルバリーナ…『欲望』から聞いていたってのかよ…!」
「あぁ…どうやらやつらにも思惑がありそうだが、何を考えているのかは私にもわからない…。もっとも…白きドラゴンを含め関係のない話だが…」
何が関係ないだよ!危険な組織のやつらなんだぞ!!その思惑もしっかり見極めねぇと…被害は広がるかもしれねぇってのに…!この国のやつらは頭の固いやつしかいないのかよ!くそったれ!
「さぁ…諦めてこっちに来い。お前の命まで取る気はない…。魔王を渡せば…これまでの罪を問うようなことはしない」
「てめぇ…ふざけやがって!どっちにしても俺の身柄はハルア教のやつらに引き渡すんだろが!それに…クリスをお前達になんて…できるわけねぇだろ!」
「どうしても…こちらの要求には従わないんだな?」
「当たり前に決まって…」
次の瞬間…
ザシュッ…!
バサバサ…メキメキ…ドシャァァン…!
「んなっ…!?」
なっ…何が…!気がついたとき…俺の側にあったデケェ木が、ひどい音を鳴らしながら倒れちまった…。まるで…何かに切り裂かれたみてぇだが…どうして…。
そんな俺の疑問に答えるかのように、レイヴォルトはこちらを見据えながら一言…。
「次は当てる…」
「!?まさか…斬撃を…!」
「私にとって…なんの変哲もない木を斬り倒すことは容易い。お前達もこうはなりたくないはずだ…」
…マズイ!!レイヴォルトの脅しは本物だ…!
たぶん俺が下手な動きをすれば即座に攻撃を仕掛けてくるはず…。そうなれば俺もクリスもキューちゃんもひとたまりもない…。
くそっ!これはマジに詰んだっぽいぞ…!
…なんて思っていたら…
シュゥゥゥゥゥ…モクモクモクモク…
「げっ!?キッ…キューちゃん!」
「!…これは…」
俺もレイヴォルトも突然溢れ出す煙に衝撃を受ける…。辺りに漂い…やがて全てが掻き消されたとき…そこにいたのは…
「グルォォォォォ…!」
超巨大なドラゴンとなったキューちゃん…。この姿になるのも久しぶりだ…。…ってそんな場合じゃねぇ!
「こっ…コラ!キューちゃん!今変身したら周りの奴らに…」
「…キューン…」
「まぁ…そりゃ絶体絶命のピンチだけどよ…」
…こうなったら仕方ねぇ!キューちゃんの力を借りてこの場を耐えしのぐしかねぇ!
幸いにも相手はレイヴォルト一人…。特に援軍も来てないっぽいし、なんとかなるだろ!隙を見て逃げれば…
…げっ…!そういや…ウザインがいねぇんだった!!どうやって合流しよう…
…と考えている隙に…
「ふっ…!」
シュッ…ズバァァァァ…ン!!
「うげっ!キューちゃん!避けろっ!!」
「キュッ!」
シュッ!…サッ!
アブねぇ…。レイヴォルトのやつ…キューちゃんに向かって斬撃を飛ばしやがった…。あまりにも切れ味鋭そうな勢いは、キューちゃんの退避によって霧散する…が…
「なるほど…さすがはドラゴン…。そうは簡単に攻撃は届かないか…。なら…」
「…!キューちゃん!気を付けろ!あいつ…なにか仕掛けて…!」
俺の必死の叫び声…。その言葉が届くよりも前に…
…ブァァァァァァァァ…!!
…!こっ…これは…!
一瞬の出来事…。辺り一面に竜巻が巻き起こった…。規模としてはそこまででかくはねぇが…木々も強い勢いにボロボロになっていく…。
まさか…レイヴォルトの一振りでこんなことができるなんて…!
「…さて…この竜巻の嵐にどう対処する?たった一匹のドラゴンではどうすることもできないとは思うが…」
姿の見えないレイヴォルトの声が耳へと届いてくる…。この絶望的な状況…確かにキューちゃんにはどうすることもできねぇ…が…
「へっ…!キューちゃんだけじゃねぇ!俺だっているんだよっ!『打消ネゲーションスキル』!」
俺の声と同時に…
フッ…サァァァァァ…
「むっ…竜巻が一瞬にして消えた…。なるほど…少年もよほど面白いスキルを持っているな…」
レイヴォルトの驚いたような声…。その心には予想外…という感情が伝わってくる…。
そう…俺の使ったスキル…それは…
『打消ネゲーションスキル』
このスキルを使用した場合、使用者は3分間攻撃を与えることができない。
スキル使用と同時に、使用者に迫るあらゆる攻撃を無効化することができる。
ふぃ…初めて使うな…このスキル…。ある意味では相当なチートスキルだ…。なんたってどんな攻撃も防げるし…。
ただ…スキルを再使用するには条件があるから連続して使えない…。そこがちょっとばかり不満なんだが…。
でも…キューちゃんと一緒ならなんとかなるかもしんねぇ!この調子で…レイヴォルトと戦ってやる!