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54 因縁の二人

 小さき家屋にて対峙するは二人…。一方は驚異的な筋力を持ち、圧倒的な体格を持つオーク。もう一方は、美しい漆黒の髪を持つ魅力溢れる美女…。およそ…その場に似合わない組み合わせに疑問を持たざるを得ないが、その違和感に気づくものはそこにはいなかった…。


 「パル…どういうつもりだよ…。俺たちをこんな目に遭わせて…しかも人間と手を組みやがって…!」


 「あらあら…あなたならわかるでしょう?全てはあなたのため…。あなたとの日々を取り戻すために…」


 「…あのときにも言ったはずだ!俺に執着すんのは…諦めろ!」


 「ふふふ…そういうところも嫌いじゃないわよ?」


 「この…くそやろう!」


 ウザインが悪態をつくも、一切慌てることなく微笑むパルバリーナ…。まるですべてが思い通りに動くと確信しているかのように見える…。

 事実、ここまで魔王一派を追い詰め、相当なダメージを与えたのは確か…。魔王を死の淵に立たせ、追い討ちのように人間たちを集める…。手際のよさは恐ろしいといえる…。

 肝心の少年…そして白竜の確保には至らずとも、他のものが捕まえる可能性も否定できない。ウザインもその点に不安を抱いているのだろう…。

 『狂愛』の持つ威力…その絶望…。それに立ち向かうための力が、今の魔王一派には足りなかったのだ…。 


 「…パル…てめぇ…今まで何してやがった…!」


 「ふふふ…嬉しいわねぇ…やっと私を見てくれた…♪」


 「…ふざけるな!てめぇはあのとき…俺の手によって死んだはずだ!」


 「あらあら…そんなこと思い出さなくても…。あのときのことなんて私にとってはどうでもいいのに…」


 「話を逸らしてんじゃねぇ!」


 パルバリーナは嘆息すると、微笑みを崩すことなく言葉を紡ぎ出していく…。まるで…初めからそう頭の中で思い浮かべたようにすらすらと…。


 「あなたに殺されてから…私は生きるとも死ぬともわからない日々を送ってきたわ…。暗い世界で…寂しく…あなたのことを思いながら漂っていたの…。そのときね…私に手を差しのべた人がいてね…」


 「…あ?」


 「信じられないでしょうけど…事実なの…。なんで生き返ったのかは私にもわからないわ…」


 到底理解できない話…。死線を潜ってきたウザインにとって、甦りとはあってはならないものであった…。

 もっとも…この世界が『ゲーム』である…ということに、気がついていないからこその考えであるが…。


 「てめぇ…嘘じゃねぇんだな…」


 「私が嘘なんて…ついたことあるの?」


 「…俺の覚える限り…おめぇは嘘つきの天才だよ…」


 「ふふふ…ありがとね♪」


 軽い会話の中…それでもウザインは考える。死者を甦らせる力…。その持ち主…。その思惑…。そこから導き出される可能性…


 「…この世界をオモチャにしてる…神様がいんのかよ…」


 神様…。未知の存在…。おそらくこの世界にはわからないことが数多くあるのかもしれない…。それが明らかになるのは…まだ先のことなのだろうか…。

 だが…今は目の前の驚異に…。


 「…俺がてめぇを殺したのは、てめぇが殺しを楽しむ…危険なやつだと理解したからだ…。この先…まだ人を殺すなら容赦はしねぇぞ…!」


 「ふふふ…殺しを楽しむ…?全ては…あなたのためなのにね…」


 両者一触即発の展開…。いつ始まってもおかしくない殺戮の嵐…。そんな中…緊迫した空気を破ったのは…



タラッ…ツツツツゥゥ…



 「…!」


 「…あらあら…私も無茶しちゃったわねぇ…」


 その時…ウザインは突然のことに一瞬驚くことになった…。目の前で会話をするパルバリーナの目から…赤く染まった血が流れたからである…。量としてはごく少量…。だが…『狂愛』の使用により、体に負担がかかっているのは見てとれる…。


 「ふふふ…やっぱりクリスちゃんのラマの容量はスゴいわぁ…。吸い尽くすのに時間かかるし…量もたくさん…」


 「…わからねぇな…。そんなになるまで力使って…お前たちの目的は…いったい!」


 「…私たちの目的なんて…そんなに気になることでもないでしょう?まぁ…私自身はあなたとのことで一杯なんだけど…」


 あくまでも目的をはぐらかすパルバリーナ…。その口からは真実は語られない…。おそらく…今ここでは…。


 「おい!中にまだオークがいるぞ!」

 「すぐに捕まえろ!他のやつは魔王と男を追え!なんとしても…仕留めるんだ!」


 その時…外から多くの兵士がやって来た…。パルバリーナと手を組んだ多くの人間たち…。表面上は協力関係を築いている両者…。ウザインにとってあまりにも状況が悪い…。故に…


 「…くそっ!」



 ダッ…!ダッダッダッダッ…



 ウザインには逃げることしかできなかった…。パルバリーナを残すことは心残りだったが…逃げなければならなかった…。先に逃げた二人を…助けるために…。

 背後からパルバリーナの声が響く…。


 「ウザイン…私が愛したただ一人の男…。いつかまた…迎えに来てくれるわよね…?」 


 その声に…ウザインは振り向くことはなかった…。振り向こうとしなかった…。

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