51 黒い陰謀
「パルさんって…ここに住んでどれくらいなんですか?」
「そうねぇ…それほどたっていないわねぇ…。一週間前くらいかしら…」
「いっ…一週間!?つい最近じゃないですか!」
「そうなのよねぇ…。だからここら辺のことよくわかんなくて…大変なの…」
パルさんはそう言うと、ため息をつきながら悩ましい表情を浮かべている…。
それほど日々の生活に疲れてんだろうなぁ…。
こんなとこじゃ仕方ないのかもしんねぇ…。
「あっ…でもね…あなたたちも知ってるあの果物店は親切でねぇ…。あたしの頼みをしっかり聞いてくれるの…。あたしが困っていると、助けてくれて…ホントにいい店主だったわぁ…」
「あー…確かにそうですね…。あそこのおっちゃん…仕事もできそうだし…」
「ふふ…この時間だと休憩中だろうから…ぐっすり眠っているかもね…」
「いや…それはないと思いますよ?」
あのおっちゃんの寝ている姿は想像できねぇ…。
あんだけ仕事一筋な人なんだから…今も頑張ってんじゃねぇかな…。
「…あら?クッキーは食べないの?出来立てだからホカホカよ?」
「えっ!…あっ…そっすね!それじゃお言葉に甘えて…」
ふーむ…確かに出来立てっぽいな…。
ちょっとだけ湯気が出てるような…。
熱々のクッキーなんて初めてだからスッゲー興味が沸くね!
俺はさっそくホカホカのクッキーへと手を伸ばし…
バシッ…!
「イテッ…!ちょっ…ク…アリス!なんで叩くんだよ!」
なんてこった…。
クリスのやつ…突然俺の手を叩いてきやがったぞ…。
少し赤くなった俺の手はちょっとだけピリピリ…。
けっこう響くな…。
「うっ…その…だな…」
「…なんだよ…らしくねぇぞ…。理由があんなら聞くけど…」
「うっ…いや…その…」
いつもの強気なクリスはどこへやら…。
しどろもどろになりながら困り果てた様子で焦っている…。
何を考えてんだ?
そう思っていると…パルさんが納得したように口を開いた…。
「あらあらあら…もしかして…あたしが毒を盛っているんじゃないか…って思っているの?」
「なっ…ちょっ!アリス!まさか…そんなこと…」
「…」
うーん…これは気まずい…。
クリスの反応を見るに図星だったようだ…。
そんなの…パルさんが怒っちまうんじゃ…
…と思ったが意外とパルさんの反応は穏やかなものだった…。
「…でも仕方ないわね…。あなたたちからしたら見ず知らずの他人だし…。疑うのも無理ないわ…」
「パルさん!別にそんなこと思ってなんか…」
「だから…ちょっと毒味するわね♪」
そう言うと…
ヒョイッ…ポリポリポリポリ…ゴクン…
「ねっ?別に毒なんかないでしょ?」
…あっさりと一枚のクッキーを食べてしまった…。
別に苦しむわけでもなく…表情に変化はなし…。
ふぅ…なんとか喧嘩にならずにすんだぜ…。
「まったく…アリスも疑いすぎだって…。とりあえずクッキーは食べてもいいよな?」
「む……うむ…」
クリスに確認をとってから俺もパクッと食べてみる…。
ポリポリポリポリ…
おぉ…この仄かな甘み…そしてちょっとした温かみ…。
俺がコンビニで食べるクッキーとは段違いだ…。
マジでウマイ…。
「すんごいウマイっすよ!パルさん…ありがとうございます!」
「ふふふ…どういたしまして…」
俺の言葉に微笑むパルさん…。
絵になるなぁ…。
…対するクリスは仏頂面…。
いくらなんでも失礼な気がすんだが…。
…まぁいいか…。
「あっ…そうそう…この箱の中身…気にならない?」
「…箱っすか?」
「あなたたちが持ってきたこの箱…」
そう言うと…パルさんは床に置かれた木箱に目線を向けることに…。
…そういや…魔法かなんかで開けることができないんだったよな…。
何が入ってるか…確かに気になる…。
「あ~…そうですね…。見ることはできなかったんで…」
「せっかくだし…開けましょうか?」
「えっ…!そんなの…いいんですか?」
「いいわよ…?実は珍しい物が手に入ってね…。ちょっと…自慢したくなっちゃって…」
ほへぇ…そんなにスゴいのが…。
これはいいかも…。
「すんません…それじゃあ…えーと…。開けるにはどうしたら…」
「あっ…ちょっと待ってね…。今開けるわ…」
トテトテ…ザッ…
そう言いながらパルさんは箱の元まで来ると、指先でチョイッ…と箱を触ることに…。
すると…
…ピカッ…!…フッ…
一瞬光ったかと思えばすぐに収まった…。
これは…
「あらあら…こういうの見たことない?ちょっとした魔法を解除するときはこんな反応するの…」
「はぁ…面白そうですね…」
「ふふ…それじゃあ…開けるわね…」
ギチッ…ガチャッ…
木箱の蓋をゆっくり開けるパルさん…。
その手はどこか慎重なようで…傷つけないように注意深くしている…。
そこに入っていた中身は…
「…えっ…あれ…?これって…」
「なっ!?なんだ…これは…!」
俺もクリスも…あまりにも衝撃的な物に驚く…。
なぜなら…
「ふふふ…良かった…傷つかないで…。下手したら…爆発してたんだもの…♪」
入っていたのは…大量のメコーンだったからだ…。
―
…
「貴様!…どういうつもりだ!こんなもの…私たちに運ばせて…!危険なものだとわかっているだろう!!」
クリスは立ち上がりながら…パルさんに激昂していく…。
当たり前だ…。
見た感じはじゃがいもみたいだが…ちょっとでも衝撃を与えたら一発アウトの代物…。
こんな量…たちまちそこらへんが大爆発を起こしちまう…。
しかもあまりの危険性から規制対象にもなっているはず…。
言ってみれば危ない爆薬を運んだようなもの…。
何を考えてんだ!
「パルさん!どういうことっすか!!こんなの…聞いてないですよ!」
当然俺も問い詰めることに…。
この人…美人だがなんか危険な雰囲気がする…。
ヤバイ…嫌な予感が…。
「あらあらあらあら…まだわからないの?今…この状況が意味すること…」
「なんのことですか!わかんないですよ!」
「そうだぞ!私と…こいつにもわかるように言え!」
俺たちの怒鳴り声にも終始余裕の表情を浮かべるパルさん…。
まるで…獲物を掴んだことに喜ぶかのように…。
「ふふふ…本当にわからないようね…。実はね…あなたたちを捕まえたくてここまで準備したのよ?魔王クリスちゃん…そしてユキくん…」
「なっ…なんで俺たちのこと…」
嘘だろ…バレてたのかよ…!
「あらあらあらあら…その間抜けなお顔…隠してたつもりなのね?残念ね…私にはわかるのよ?ホントに…かわいい子…♪」
「…ぐっ…!」
「逃げようなんて思わないことね
…。逃げたら…このたくさんのメコーン…一気に爆発させちゃうから…」
…まさか…こんなことになるなんて…。
ちゃんと気を付けるべきだった!
俺たちの命を狙う可能性があったってのに…!
「さぁさぁ…そんな風に立ってばかりもなんだし…椅子に座ったら?これから…有意義なお話しましょう?」