33 メーラの思い①
「メーラ…。ユキはどうだった?」
愚民様と別れてから、私はすぐにクリス様のいる闘技場特等席に移動した。
私のできる限りのことをしたとはいえ、正直心配なのは拭えない。
もしかしたら、愚民様は力およばず息絶えるのではないか…。
そんな思いが駆け巡る。
…いけない…。
こんな顔では…クリス様に心配をかける…。
私はすぐに笑顔を作り、クリス様に応えた。
「安心してください…。ユキ様は元気ですよ。今回の決闘で勝つ気満々のようです」
「そっ…そうか…。ならよかった…」
クリス様の微笑みをみて安堵するものの、心のモヤモヤは消えない…。
もう私に出来ることはないのに…。
一
今回の決闘で使われる闘技場は、以前お二人が特訓で使った地下闘技場よりもはるかに規模がでかい。
何しろ国家予算の5%という莫大な予算を投じて建設されたのだ。
主な目的としては国家規模で行われる決闘がほとんど…。
たまに軍事演習を行ったり、災害が起きたときの避難場所としても利用される。
施設内には高級レストランに温泉まで用意されている。
すべては剣闘士や観客のためとはいえ、ほんとに贅沢だ…。
外観は他国の雰囲気を参考に、火山灰を利用したコンクリートを使用し、地震にも強くなるよう円筒形で作られている。
直射日光に配慮し、日除け対策として天幕も用意されているため、観戦するには都合が良い。
特等席は試合がよく見えるように、観客席の前列に配置されているわけだが…愚民様を心配しているクリス様にとっては複雑な心境かもしれない…。
周りを見てみると開始4時間前だというのに、多くの魔族、魔物たちが集まっている。
それだけ皆、愚民様の死を楽しみにしているのだろうか…。
一
…
「メーラ…どうした?…神妙な顔して…」
「っ!…失礼いたしました…」
いけない…。
つい表情に…。
「…何か思うことがあるなら…私に相談しても…」
「いえ…大丈夫です…。安心してください」
私はそう口にして心の中を悟られないように取り繕う…。
元はといえばデスマッチの案はこの私…。
フィールを納得させるための提案とはいえ、観客のこんな姿をクリス様に見せてしまうとは…。
…クリス様…。
本当に申し訳ありません…。