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14 不思議な体験

「…やはり…フィールは全力で戦うつもりでしょう…。深夜12時はヴァンパイアにとって、一番力を発揮できる時間帯ですからね…。」


あの取り決めのあと、俺はメーラ、クリスと一緒に、再びフィール戦について話し合うことになった…。


もう夜も遅い時間だが、なんとしても勝たなくては…という思いもあって、寝る気にもなれない…。

…すんげぇ疲れたけど…。


二人はアンドロイドと魔王という種族だからなのか、深夜でも疲れている様子はない。

特にメーラは長時間話し合った後だというのに、全然余裕がありそうだ…。


すげぇな…お前ら…。


「…ユキ…大丈夫か?…顔色がひどいぞ…」


クリスが心配そうに俺の様子を見てくる…。

下手したら、泣き出すんじゃないか…と思えるほど目が潤んでるな…。

とりあえず、元気があるよアピールをしてみるか…。


「はっはッはッ!何言ってんだよぉ!俺は元気一杯だぜぇ!!…ごほっ…」


「…ユキ…うぅ…ぐすっ…。…むっ…無理は…してほしくない…のに…」


「ユキ様…むしろ痛々しいですよ…」


結果としては、クリスは余計にぐずりだし、メーラはあきれ果ててしまった…。

うぅ…失敗したわ…。


とはいえ…俺の命がかかってんだ…。

こんなとこで弱音を吐くわけには…。


「わっ…わりぃ…。でも…俺、なんとしても勝ちてぇんだ…。だから…こんなバカな俺だけど…無茶させてくれ!頼む!」


手を合わせて頼み込んだ俺を見て、二人は苦々しい顔を浮かべたが、俺の熱意に根負けしてそれ以上言葉は出さなかった…。


…すまねぇ…。


「…んで…さっきの話に戻っちまうけど…深夜12時がヴァンパイアが一番強化される…てのは、間違いないのか?」


そう…。

基本的にヴァンパイアという種族は、夜の時間帯になると大幅に強化されるというのだ。

一応ネトゲをプレイしたときにもそういう情報はあったから、もしかしたら…という思いはあった。


しかし、一番強くなる時間帯…ということについては、メーラから事前に教えてもらうまでは知らなかったわけだ…。

結構、わかんないこと一杯あるなぁ…。


「はい…その点については間違いありません…。これまでのデータと照らし合わせてみても、最も戦力値が大きく上がるのは、深夜の12時辺りです…」


なるほどね…。


「ただ…夜の時間帯にパワーアップする分、太陽が照りつける朝から夕方においては大幅にステータスダウンします。おそらく、30分ほど太陽光を浴びただけで、初期レベル相当まで下がるかと…」


ヴァンパイアの弱点である太陽…これもネトゲ時代には知っていたが、どれ程の時間を要するか…まではわからなかった…。


メーラの情報収集力には驚くばかりだ…。


「サンキュー、メーラ…。これなら、俺の策もなんとかなりそうだわ…」




「…ちなみに…死んでしまったヴァンパイアに太陽光を当てると、跡形もなく消滅するようです…。こちらはフィールからお聞きした話なのでおそらく…」


…きっとフィールの経験談なんだろうな…。


息絶えた自分の家族が眼の前で消えてしまう…。

これほどのトラウマを植え付けられて、ここまで生きてきたフィールは、おそらく精神的にも強いに違いない…。

…油断はできねぇ…。


「…わかった…。メーラ…すまねぇ…。けっこう負担かけちまって…」


「…気にすることはありません。ユキ様が勝つためなら、どんなこともいたします」


「でもよ…」


「それよりも…ご自分の身を案じる必要があるのではないのですか?最大限のサポートはしても、実際に戦うのはユキ様ですよ?」


うーん…。

それはそうだけど…。


「そうだぞ…ユキ…。もうこれ以上言う気はないが…体調にも気を配らないと…。せめて決戦の時には万全の状態でいてくれ…」


「クリス…」


2人にここまで言われると…さすがに無理はできねぇかも…。

ホントはこの後もクリスと一緒に徹夜で特訓する気だったが…。


「…そうだな…。今日は体を休めることにするわ…。立たされっぱなしだったし…」


「!そっ…そうか!ならすぐに休め!せっかくだから、一緒に風呂でも…」


クリス…いくらなんでも女の子と風呂に入る気分じゃないんだが…。

そんな俺の様子を察したのか、メーラがブレーキをかけてくれた。


「ユキ様、クリス様。本日はもう遅いですし、体を拭いて寝ることにしましょう。特訓は明日の朝一番に再開することで…」


「うっ…そうか…。なら…しょうがないな…」


クリスは残念そうにうなだれたが、メーラの提案に反対することなく、この日は解散することになった。

さて…明日に備えてゆっくりするかぁ…。




「よし!そこから一気に回避行動に移れ!」


「ぐっ!うぉりぁぁぁ!!」


翌日…。

あれから全快した俺は遅れた分を取り戻すべく、クリスと一緒に地下闘技場での特訓に励んでいた…


連続で発射される光弾を、ある程度避ける技術も身に付いたし、レベルもそれなりに上がってきた。

多分、今ならそこら辺にいるモンスターを単独で倒すぐらいできそうだな…。


…俺…やれば出来るじゃん…。

なんか自信もついてきたわ。


ドドドドドド…。

タッタッタッ…スッ…サッ!


後ろから迫ってくる攻撃を走りながら対処し、危なくなったら回避行動に…。

ややパターン化されているが、戦闘の基礎としては必要なものだ。


そんなことを続けていくと…。


「うん!これならなんとかなるかもしれん!あともう少しかな!」


クリスは満足したように口を開く。

俺は少し疲れていたが…。


「そっ…そうか…そりゃよかったわ…」


「少し休憩をしてから、今度は新しい特訓をするぞ!とりあえず回復ポーションを飲んでくれ!」


そう言って、クリスは緑の液体が入った瓶を俺に渡してきた。

俺は一滴残らず飲み干すわけだが…。


…ングッ…ングッ…プフゥ…。


不味い…。





「…私は少し外の様子を見てくる…。変なやつがうろちょろしていると厄介だからな…」


「んぁ?そう?べつに大丈夫だと思うけどなぁ…」


「いや…油断はできん…。フィールの手先が私たちの周りを探っているかもしれんからな…。まぁ、念のためだ」


クリスはそう言って少し変装をすると、地下闘技場の外へと出ていってしまった…。

ここを押さえられていないことを考えると、まだバレていない気もするが…。

まぁ、クリスの言うことも一理あるかな…。


と思っていたら


プルルルルルン!…プルルルルルルン!


と可愛らしい音が響いてきた。


おっと…何の音がわかんないって?

あれだよ!

ミモルンの着信音だよ!


えっ?

ミモルンってわかんない?

んもぉ…仕方ないぜ!



「ミモルン」

このアイテムを使うと、遠く離れたプレイヤーと連絡を取ることができる。1つにつき15分まで。携帯電話みたいなもの。18話参照。



ガチャ…。


俺は鳴り響くミモルンを取り出すと、相手の声を待ってみる。


『…わかっているでしょう…私です』


…なんだ…メーラか…。

いや、メーラ以外あり得ないけどな…。

ちょっと意外な人物を期待したけど…そんなことはなかった。


「…どうしたんだ?なんかハプニング?」


『いえ…こちらはこれといった問題はありません。順調にアイテムを調達しております…。そちらはどうですか?』


「あぁ…こっちも大丈夫だよ。思いの外うまくいってるから、次の段階に進むとこ」


『そうですか…安心しました…』


向こうから安堵したような雰囲気が伝わってくる。

メーラも俺たち二人を心配してるんだな。


『…しかし…お気をつけください…。最近のクリス様は心にゆとりがないように思われます。先日の様子を見るに…』


「うーん…確かになぁ…。突然一緒に風呂に入ろうとか…大胆っていうか…」


『おそらく、愚民様が死ぬかもしれない恐怖と焦りのせいでしょう。クリス様は元々愚民様…ユキ様にはやや依存しているところがありましたからね…。一緒にいたい思いが強いのでは…』


依存ねぇ…。

ユキってやつとクリスの関係は幼なじみってのは聞いてたけど、どんな過去があったかは知らないからなぁ…。

なにかしら強い絆を感じるわ。


『最悪、愚民様が今回の決闘で死んだ場合…クリス様も心中するのでは…と私は思っています』


マジかよ…。

それは危険だなぁ…。


なんか…ヤンデレっぽい…。


『私としてもこうした面を改善したいとは思っているのですが…』


確かにな…。

でも、こればかりは…難しいかもなぁ…。


「とにかく…順調であるなら安心しました。ただ、クリス様のあなたに対する思いが強いことはよく理解してください。間違っても裏切ったり、今回の決闘で命を落とすことのないように…。それでは…」


メーラはそれだけを伝えたあと、ミモルンの通話を切った…。

やや落ち着かない静寂な空間…。

俺は少し不安を覚えた。


…まさかクリスがそこまで…。


一応、俺だってクリスに対する思いは本物だ。

もとの世界でワンスラをプレイしていたときは、あまりの強さに対抗心を燃やしていたが、同時に憧れてもいた。

こんなやつのそばにいればな…なんて思ったこともある。


それが今回こうしてワンスラの世界に飛ばされて、クリスの右腕として過ごすうちに、いつしか…その…恥ずかしい話、好きになっちまった…。

俺のことを心配してくれる姿を見て、いつのまにかクリスと一緒に過ごしたいなんて思っちまったわけだ…。


メーラに叱咤激励されて、城での告白に踏み切ったが後悔はない。


ただ…俺は他人の身体を借りている身でもある。

しかも、クリスの想い人の身体だ。


あいつが何年と過ごした幼なじみはもうここにはいない…。

代わりにいるのは、どこの馬の骨とも知れぬ異世界の人間…。

二人の思い出は俺の中には残っていない…。


…正直、騙している感じがして罪悪感が半端ない…。

クリスとユキには申し訳ないなんて思ってもいる…。


もちろん、騙し続ける関係は俺個人としても納得できない。


いつかは…本当のことを話すつもりだが…ユキがいないことに絶望して、自ら命を絶つ可能性も否定できない。

そう思うと…いつ話すべきか悩んでしまう…。




俺は…この選択を選ぶべき時…どうするべきなんだろう…。









『おいおい!大丈夫かよ…そんなもんで悩んでたらヤバイだろ…』


!?

だっ…誰だ!?

この頭に響く声…メーラじゃない…。

いや、メーラのテレパシーは遠いと使えないはず…。

でも、メーラ以外でこんなことできる奴って…。


『わりぃけど、俺の名前は言えねぇなぁ…。それいっちまうと、もったいないしよ…』


もったいない?

なにいってんだよ!


『んなことより…今は大事なことあるだろ?』


大事なこと?

…フィールの決闘か?


『あぁ~それもある…が、それ以上に大切なことだよ』


なっ…なんだよ…。

訳わかんねぇ…。


『クリスを信じること。んでもって、自分を信じることだよ』


はっ…はぁ!?

おまっ…なんでクリスのことまで…ほんとなにモンだよ!!?


『いってるだろ?もったいないって。俺のことなんかあとで考えりゃいいさ』


いやっ…ちょっ…思考が追い付かねぇ…。


『信じるってことはな…自信にも繋がんだよ。お前のクリスの思いが本物なら貫いていい。俺が認めてやるからよ。』


みっ…認めるって…。


『クリスにしてもそうだ。あいつが自分から死ぬって?冗談だろ?俺はそんなもん思ったことないぜ?まぁ、あいつに心配かけねえように俺も頑張ったけどよ…自分から死ぬのはあり得ねぇ。そこは信じろよ!』


なっ…なんで…そこまで…。


『んまぁ…な。俺個人としてはお前に頑張ってほしいわけよ。俺やクリスの仲に罪悪感を感じてたら、辛いだろ?せっかくこの世界に来たんだからよ!俺の分まで楽しめや!』


まっ…待ってくれ!

俺の質問にも答えてくれ!


『ンじゃな!俺はお前の中にいるけどよ…いつでも話せる訳じゃねぇ。精神的なリンクが必要みてぇだわ。死んだ身で話すってのも変だけどな』


お前って…。


『それじゃ!アデュー!!』



…消えた…。

なんなんだ…。

突然…。

やたらめったら俺のことなんか励まして…。


…でも…。

不思議と自信がわいてきた…。


そうだよ…。

俺もクリスも信じねぇと…。

こんな弱気じゃ…なにもできねぇ!


よっしゃ!

名もないあいつには感謝しねぇとはな!




ガチャ…。




「ユキっ!とりあえず外には誰もいなかっぞ!…どうしたんだ?そんな笑顔で…」


「んん?おぅ、クリス!ちょっとな…おもしれぇことあってよ…」


「ふーん…。変な奴だな…。それよりも特訓をするぞ!次はもっとキツいから覚悟しろよ!」


「おぅ!どんとこいだ!」

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