番外編 ティナのおやつ⑤
頭を深く下げてから数秒…クリス様は美しい顔を上げ、再び口を開いた…。
「さて…今回こうして赴いたのは皆への謝罪と…ティナに頼みがあってな…」
「…はい…なんなりと…」
頼み…?
クリス様がティーに頼み事なんて珍しいのね…。
ホントは早くお菓子を食べたいところだけど…。
しっかり聞かないと…。
「実は…人間…ユキとどうしても話したいことがあってな…。ティナの方から…話したい旨を伝えてほしいのだ…」
「人間…クリス様とキスをした方ですね?」
「むぅ…そう言われると恥ずかしいが…そうだ…」
クリス様は少し頬を染めると恥ずかしそうにモジモジしだした…。
まったく…可愛いところがあるのね…。
「なぜクリス様から向かわないのですか?」
「…むっ…まぁ…その…あんなことがあったからな…。情けない話…恥ずかしいのだ…」
ここまで歯切れの悪い姿は初めて…。
でも…魔王三大幹部のティーとしては…クリス様のために頑張るのね!
「かしこまりました…このティナ…クリス様のために此度の件…お伝えいたします…」
「すまないな…私はこれから風呂に入るから時間をおいてから伝えてくれ。それでは失礼する…」
サッ…ガチャッ…バタン
華麗に部屋を立ち去ったクリス様…。
部屋に漂っていた緊張感が緩むと、他の皆は脱力し…座り込んでしまった…。
「ふぁぁぁぁ…キンチョーしたぁ…」
「まさか…魔王様が来るなんて…」
「マジでびびったわ…」
皆の言葉から…クリス様の来訪がどれほど衝撃的だったかがわかる…。
実際…ティーも心臓がはね上がりそうになったのね…。
…さてと…
このまま動くのもめんどくさいし…ここにいる誰かの影に入って一緒に移動するのね…。
「マジでうめぇな!これ!」
「おい!ウザイン!お前…なんでそんなに食べてんだよ!俺にもよこせ!」
「わりぃな!ここにあるやつ…全部俺のもんだから!」
…そういえば忘れていたのね…。
ウザインも城を防衛していた兵士の一人…。
今日のお菓子パーティーに参加していたのね…。
よし!
「ふぅ…仕方ないのね…ウザイン!一緒に行くのね!」
「へぇ?俺もですかい?」
「そうなのね!ティーはヘトヘトだから…人間のもとに連れていくのね!」
「うへぇ…マジですかい…めんどくせぇ…」
「いいから!さっさと動くのね!」
「はいはい…」
―
このあと…無事に人間のもとにたどり着いたのはよかったものの…風呂の件をすっかり忘れていたティナであった…。